39歳「ひきこもり」息子の69歳母が抑うつに 頼りは老齢年金だけ 孤立無援の一家に見かねた社労士が導き出した“再起への一歩”
オトナンサー / 2024年12月30日 7時10分
筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気や障害で就労が困難なひきこもりの人などを対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。
浜田さんによると、長年ひきこもっている子どもがいる人の中には、自身の責任を感じて体調を崩してしまうこともあるといいます。症状が重い場合は、子どもだけでなく親も障害年金の請求を検討することもあるということです。
ただ、障害年金の請求には年齢制限があり、高齢になって初めてその障害で病院を受診した場合、障害年金が請求できないこともあるといいます。浜田さんが、ひきこもりの息子がいる母親をモデルに解説します。
■70歳を過ぎてから怒りっぽくなった父親
長年ひきこもりの状態にある、39歳の西川翔太さん(仮名)は両親と同居しています。翔太さんは20年以上ひきこもり状態にあり、いまだ改善の兆しは見えません。
翔太さんは最近になって急に父親との仲が悪くなってしまったそうで、翔太さんの母親(69)も体調を崩してしまいました。そこで母親は「自分も障害年金を請求できないか」ということで、私のもとに相談に訪れました。
私は母親から状況を詳しく聞きました。
翔太さんは10代の頃からひきこもり状態にありましたが、それについて父親は今まであまり口出しをしてこなかったそうです。しかし、父親が70歳を過ぎた頃から状況は一変。年齢のせいか急に怒りっぽくなり、翔太さんの状況について苦言を呈するようになりました。また、父親は翔太さんに対して、まるで嫌がらせのような行動もするようになりました。
例えば、翔太さんと顔を合わせた際にあからさまに嫌な顔をしたり、翔太さんのいる部屋まで聞こえるような大きな声で「あいつはいつまでこんな生活を続けるつもりなんだ」というような発言をしたりしているということです。
さらには母親に向かって「お前の子育てが悪かったからこうなってしまったんだ」と言い放つ始末。
このような状況に翔太さんも反発し、翔太さん自身も母親に不平不満をぶつけるようになりました。
家庭内が険悪なムードになった後も、母親は外部の機関に相談することもなく、1人で抱え込んでしまったそうです。さらに母親は「こんなことになったのは、やっぱり私のせいなのかもしれない」と自分で自分を責め続けてしまいました。
そのせいか、母親の体にも異変が起きてしまいました。「気分が落ち込む」「体や頭が重い」「やる気が出ず、家事をするのも一苦労」という状態になってしまったのです。
母親ももうすぐ70歳。しんどいのは年齢のせいだと思っていました。しかし、あまりにも精神的につらくなってしまい、翔太さんが受診している精神科の医師に相談をしました。
すると医師からは「どうやら抑うつ状態にあるようなので、薬を飲んでしばらく様子を見ましょう」と言われました。
家族3人は全員無職で、収入は両親の老齢年金だけが頼りです。家族3人の生活は決して楽ではありません。
「少しでも生活の足しになればと思い、障害年金の請求をしてみたいのです」
母親はそのように言いました。
■障害年金には年齢制限がある
母親からの聞き取りを踏まえ、私は障害年金の制度について説明しました。
「障害年金を請求するためには、その障害で初めて病院を受診した日(初診日)が次のいずれかに当てはまっている必要があります」
(1)国民年金に加入している期間(20歳から60歳まで)
(2)20歳前の期間
(3)日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満の人で年金制度に加入していない期間
(4)厚生年金保険に加入している期間
「お母さまが抑うつ状態で初めて心療内科を受診したのは69歳ごろとのことなので、これら4つの条件のどれにも当てはまりません。よって、お母さまは障害年金を請求することができません」
そのことを聞いた母親は、肩をがっくりと落としてしまいました。
「私は障害年金が請求できないのですね。それは残念です…。ちなみに条件(3)にもありますが、なぜ65歳未満までなのでしょうか」
「65歳になると老齢年金が受給できるようになるためでしょう。障害年金はどちらかというと現役世代の人向けの制度なのです。現役世代の人がその障害により就労が制限され、収入が少なくなってしまった、65歳になるまで老齢年金も受給できない、そのような人を救済するための年金だからです」
法律上、母親は障害年金の請求ができません。とはいえ母親の置かれている状況が思わしくないのは確かです。そもそも母親が抑うつになった原因の一つは、家庭内の問題を母親がすべて1人で抱え込んできたからなのかもしれないと私は思いました。そこで私は次のような提案をしました。
「全国には、ひきこもりのお子さんを持つご家族が集まる親の会があります。同じような境遇のご家族と話し合うことで、少しは心のゆとりを取り戻せるかもしれません」
私は説明を続けました。
「市区町村役場にひきこもりの相談窓口があります。ご主人さまが高齢になって支援が必要になりそうなら、まずは地域包括支援センターで相談するのがよいでしょう。もちろん相談したからといって問題のすべてが解決するわけではありませんが、それでもお母さま1人で抱え込まない方がよいと思います」
「そうですよね。誰かに話を聞いてくれるだけでも気分が少し軽くなりますし。まずは、親の会から調べてみよう思います」
母親は小さな声でそう言いました。
社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也
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