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30代以上・未婚・子ナシ…は「女の負け犬」 女性の“お一人さま”像、20年でどう変化?

オトナンサー / 2025年1月4日 7時10分

酒井順子さんの「負け犬の遠吠え」(講談社)の書影(ライター私物)

 「30代以上・未婚・子ナシ」は「女の負け犬」で注目を浴びた酒井順子さんのベストセラー・エッセー「負け犬の遠吠え」(講談社)が、2023年に発売され、20年以上が経過しました。発売当時の“お一人さま”像と、令和時代の“お一人さま”像ではイメージや解釈が異なってきています……。

■お一人さま=自立した女性?

 出版当時は小中学生だった筆者が、同書のメインターゲットとなる年齢になって読んだところ、本書におけるファッショナブルで凛(りん)としたお一人さま像に驚きました。というのも、筆者の世代はお一人さまについて自由をある程度楽しみつつも、経済的には十分なゆとりがない人が多いというイメージを抱いているからです。

 当時の2003年と比べて、現在は結婚しない生き方も選択肢の一つとみなされるようになり未婚女性は生きやすくなった“はず”…。とはいえ、現在のお一人さまは年齢を問わず仕事、お金、老後、住まいなど不安は尽きないと見てとれます。

 30歳前後の多くが、お一人さまという言葉は近年における流行語と誤解しがちですが、この言葉は私たちの親世代が結婚適齢期の頃からすでに使われていました。この言葉を最初に使い始めたのは岩下久美子さんです。彼女は1992年2月に「おひとりさま向上委員会」を設立し、2001年には「おひとりさま」(中央公論新社)という本を出版しています。この本では、お一人さまについて次のように定義されています。

「自分自身のモノサシで、自分にとって必要なものを取捨選択していける。そういう才覚のある人が『おひとりさま』だ」(101頁)

 岩下さんが考えるお一人さまとは、独り立ちしている女性であり、自分のご機嫌も自分でとれ、経済的にも自立している女性です。この本は単身女性のハウツー本のようなものですが、都内一流ホテルのステイ方法、カフェタイムの過ごし方などハイソな内容となっています。恋も仕事もバリバリこなす女性をターゲットとしているのは明確です。

 そして、酒井さんの「負け犬の遠吠え」に描かれるお一人さまの姿も、岩下さんのお一人さま像と重なります。酒井さんが描くお一人さまについても、仕事もそう悪くないものが見つかり、お給与もそこそこもらえ、ファッションや旅行、習い事などに自己投資をしていて、人付き合いもあり、男性から恋心を抱かれる女性がイメージされているように思います。

 これらのお一人さま像は2000年代初頭のトレンディードラマに登場した女性たちに重ねられます。例えば、2005年に放送された「恋の時間」(TBS系)における主人公・雪枝(黒木瞳さん)は女一人で生きている会社経営者で、部下からの信頼が厚く、仕事を生きがいにしており、おしゃれな洋服がトレードマークとなっていました。エリート男性から恋心を抱かれるなど恋愛模様が展開されました。

 2008年に放送された「Around40~注文の多いオンナたち~」(TBS系)では、精神科医として病院からも患者からも信頼が厚く、恋もそこそこし、経済的に余裕がある聡子(天海祐希さん)という未婚女性の姿が描かれました。両作品には、専業主婦のキャラクターも出てきますが、夫に生活を依存している傾向にあり、自由に使えるお金はあまりない様子でした。

 岩下さんや酒井さんの著書は未婚女性にエールを贈り、未婚女性が主人公のドラマは“結婚しない生き方”があることを肯定しているものの、普通の未婚女性にとっては自分事として捉えにくいように思います。

 また、雪枝や聡子のような女性が「私、負け犬よ!」と自嘲すれば、周囲はそれを面白おかしく受け止められますが、本当に負け続けている女性が自らを“負け犬”と自称すれば周囲はどう返すべきか困るのではないでしょうか。

■約20年でお一人さま像はどのように変化した?

 2000年代初頭は、女性の選択肢は社会において仕事か結婚かの二択であったように思います。キャリアウーマンになるか、それとも結婚して母になるか。まるで、それ以外の生き方は認められていないかのように。

 しかし、近年、仕事を生きがいにしているわけではなく、経済力が平均以上あるわけでもない、“普通のお一人さま”にもようやく着目されるようになってきました。

 ここ数年のドラマに登場する30~40歳代の未婚女性のタイプは2000年代初頭と比べて大きく異なります。例えば、2021年から放送が始まったテレビ東京の人気シリーズ「ソロ活女子のススメ」の主人公・五月女恵(江口のりこさん)は出版社の契約社員です。彼女は仕事はほどほどにこなし、ソロ活ライフを楽しんでいます。

 また、同年に放送された「最高のオバハン中島ハルコ」(東海テレビ・フジテレビ系)では、小規模の出版社に勤務するいづみ(松本まりかさん)が経済苦や結婚できない現実を嘆きながらも、ハルコ(大地真央さん)のそばで奮闘し、弱音を吐きながらもたくましく生きる姿が描かれています。最近のドラマでは、経済状況にかかわらずお一人さまライフを楽しむ女性、お金がなければ、恋人もいない日々を懸命に生き抜く女性が描かれている傾向にあります。

 さらに、トレンディードラマ特有の華やかな未婚女性のキャラクターをどこか冷めた目で見ていたアラフィフ以上の未婚女性たちが共感できる作品も出てきています。例えば、NHKで放送された「団地のふたり」の野枝(小泉今日子さん)と奈津子(小林聡美さん)に自分を重ねたり、彼女たちの明るさに元気をもらったりした人は多いはずです。

■先の見えない将来が不安?

 アラフィフ、アラカンの女性の親世代は皆婚社会に属している世代ですし、アラサーの女性の親世代も8割ほどが結婚している世代です。お一人さまの中には自分にとって身近な女性である祖母や母に倣って生きるわけにもいかず、暗い洞窟の中を恐る恐る進んでいるような人も多いと見てとれます。

 その中で、お一人さま女性のロールモデル不在に悩む声も挙がっています。独身女性の多くはお一人さまとしてかっこよく生きる姿や、老後を一人で謳歌(おうか)する先輩女性たちの姿を見たいのではありません。将来住む場所、老後の生活費、入院中の生活などについて考えると不安になるため、単身者の老後のライフスタイルについてイメージできるようになりたいと考えているのです。

 お一人さまは給与を自分のためにだけ使えるから経済的に余裕があるという見方がされることもありますが、むしろ単身者は経済的に厳しい傾向にあります。厚生労働省の「令和5年版 厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会」によると、「独身者の利点」として「経済的に裕福」と回答した女性は1990年代前後から2021年までの調査の中で20%に達する年はほとんどありません。

 さらに、最近は、既婚者よりも未婚者の方が経済的に厳しいという意見が強くなってきています。筆者もキャリアウーマンといわれる女性の方が夫も子どもも手に入れている傾向があるように思います。特に、近年は育休制度が整った企業や在宅勤務を選択できる企業も多いため、その傾向は強まっているといえるでしょう。

 現在、社会においてさまざまなお一人さまの存在が認知されているだけでなく、SNSやYouTubeなどで自分と同じ立場の女性の存在を知ることもできます。その一方、単身で生きることを決めた女性たちが安心できる制度の整備や、知っておくべき知識の普及は追いついていないといえます。

西田梨紗

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