名家に婿入りも…「養子縁組」されずに財産を相続できなかった56歳男性の悲憤

オトナンサー / 2019年10月20日 9時10分

 養子縁組をするのは、どのような場面でしょうか。養親と養子との間に血のつながりはなく、もともとは赤の他人です。だからこそ、養親としては自分と同じ姓を名乗らせたり、自分の子として育てたり、自分の財産を譲ったりするには養子縁組が必要ですが、縁組の有無は養子の人生を左右するので慎重に検討したいところです。

 ところで、1人娘が結婚する場合は新郎を婿として迎えることが多いです。新郎が娘の実家を継ぐのだから、娘の父親と養子縁組するのが当然と思われがちですが、本当にそうなのでしょうか。

 相続税の基礎控除額は、3000万円+法定相続人の数×600万円。実子がいる場合、養子は1人に限り法定相続人に加えることが可能です。つまり、養子縁組は節税対策にもなるので、縁組せずに余計な税金を払うのはばかばかしいのですが、父親が娘のことを考えて、あえて婿を養子にしないケースも存在します。

 無条件で養子になり、実家の財産を相続できると思っていた婿は怒り心頭なので、むしろ家庭の不和につながりそうですが、娘の父親は何を考えているのでしょうか。

■養子縁組がなされたものと思い込み…

「話が違うじゃないですか!」

 妻の実家へ婿に入ったのは、金子裕二さん(仮名、56歳、会社員、年収700万円)。義父の遺産協議に参加できないことにいら立ち、声を荒らげてしまったようですが、何があったのでしょうか。

 妻の父親は市議会議員を経験したほどの名士で、地元では知らない人がいないくらい。本業は3代続く不動産業で、駅前再開発で多額の収益を上げたであろうことは想像に難くありませんでした。

 父親が挙げた結婚の条件は、両親との同居、重度のリウマチを患う義母の世話、そして、両親の介護という3つですが、裕二さんに断る理由はありませんでした。裕二さんは、婚姻届と同時に養子縁組届(義父と裕二さんの縁組)が提出されているのだと思い込んでいました。

 裕二さんは義父から「手伝ってほしい」と頼まれなかったので結婚後も家業を手伝わず、会社員として勤め続けました。30年間、自分の小遣い(月3万円)を除いて稼ぎの全額を実家に渡し続けたそうです。実際のところ、裕二さんの稼ぎは一家の生活費に充てられたので、これでは逆に婿が両親を養っているようなもの。

 当初25万円だった手取り額は、今では38万円に増えたのですが、裕二さんの小遣いは相変わらず。金子家の資産と比べれば、裕二さんの稼ぎなど微々たるものです。義父が亡くなるまでの辛抱だと思い、どんな仕打ちを受けても耐えてきたのですが…。

 昨年、義父が亡くなり、通夜や葬儀が執り行われたのですが、裕二さんは遺産協議の場に呼ばれず、10カ月が経過しようとしていたので、妻の妹に連絡を入れたのですが、妹が突きつけてきたのは除籍謄本(すでに抹消された戸籍謄本。義父が亡くなる前のもの)。そこには、裕二さんの名前が書かれていなかったのです。「これがお父さんの遺志です。文句はありますか」と妹は相手にしてくれなかったそう。

■裕二さんを信用していなかった義父

 裕二さんは致命的な勘違いをしていました。実家で同居して金子姓を名乗り、両親の世話をすれば、自分が金子家の跡取りであり、金子家を継ぐことができるに違いない、と。しかし、養子縁組をしなくても婚姻届の「妻の姓を名乗る」欄にチェックをすれば、夫が妻の姓に変わることは可能です。

 裕二さんが義父の遺産を相続するには、養子縁組が必須です。長女の夫には法定相続権(法律で認められている相続権)は存在しません。養子縁組の有無は戸籍謄本で確認することができ、日常生活では子どもの進学、パスポート更新、離婚などの場面で戸籍謄本を目にします。

 しかし、子どもの進学やパスポート更新は妻が行っていたため、裕二さんは蚊帳の外。妻との離婚話が出たことは一度もありませんでした。一度でも戸籍謄本を閲覧していれば、結果は違っていたでしょう。義父のことを信用しすぎ、養子縁組の有無を疑わなかったことがあだとなった形です。あまりにも金子家が偉大すぎて、「僕はお義父さんの養子になってますよね」と軽々しく言える立場ではありませんでした。

 逆に義父は裕二さんのことを信用しておらず、裕二さんに金子家の資産を握らせたら何を仕出かすか分からないと疑われていたのでしょう。いったん養子縁組すると、離縁するには双方の同意が必要です。養子にも遺留分(どんな遺言を書いても残る相続分)が認められているので、遺言次第で養子の相続分をゼロにすることは難しいです。

 養子を相続人から排除しようにも、虐待などの特別な事情がない限り家庭裁判所が許可しません(民法892条)。それなら、最初から養子縁組しないのが最良の策でしょう。主だった財産は本流である妻(長女)が相続したので、いずれは裕二さんと血のつながった息子(28歳)に流れます。裕二さんの存在が金子家に必要だったのですが、金子家の財産が裕二さん名義になることはありません。

「いっそのこと離婚しようかと思いましたよ!」

 裕二さんは自嘲気味に言いますが、騒ぎ立てなければ日々の生活は安泰ですし、長年、義父に搾取され続けたせいで裕二さんの貯金はほとんどありませんが、退職金と厚生年金は裕二さんの財産なので、手元に何もないというわけではありません。

 また、今年7月、相続の寄与分に関する新しい法律が施行されました(民法1050条)。寄与分とは、生前の被相続人療養や看護、財産の維持や増加に貢献したりするなど特別に寄与をした人間は、相続分の割り増しを求めることができるという制度です。裕二さんは義父の生活費を負担していたので、特別な寄与に該当する可能性があります。

 今までの法律では、寄与分が認められるのは相続人に限られていました。裕二さんのような長女の夫は残念ながら対象外です。しかし、今回の法改正で、相続人ではない親族も対象に加えられました。裕二さんは相続人ではないものの親族であることは確かなので、もし法改正の後に相続が発生していたら、裕二さんは多少の寄与分(特別寄与料)を得ることができたかもしれません。

露木行政書士事務所代表 露木幸彦

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