「まず白シャツから始めよ」その原点となった思い出
OTONA SALONE / 2020年4月30日 20時30分
小学生時代に衝撃を受けた「人間の激しい思い」
誰しも人生の中で見聞きしてきたことの中で、とりわけどうでもいいようなことばかり、いやむしろ、どうでもいいことしか覚えていないという経験があるのではないだろうか?
私の脳内にもそういう情報がたっぷり堆積していて、たまにひょっこり思い出した日には「この記憶は数式や漢字よりも大事だったのか?」と不必要ぶりに打ちのめされている。
小学校五年のとき、担任の先生がホームル―ムで中国旅行の土産話を披露したことがあった。
「あのね、中国では人民服という国民の制服のような服をみんな着ているの。だから、女性は人前でおしゃれができない。じゃあどこでするかというと、下着なの。中国の人のパンツは真っ赤、まーっかっかなのよー!先生も下着屋さんに行ってびっくりしたんだから!」
と興奮気味にしゃべった。
それを聞いて若干10歳の子供たちは、中国人が地味な人民服に下に山本リンダばりの“どうにもとまらない”真っ赤な下着をつけている図をいやでも想像してしまい、下ネタ好きの小学生が誰も笑っていなかった。
今思い返せば、先生が話を盛った部分もあったかもしれないと訝るのだが、純粋だった当時は、ただ衝撃の事実として100%鵜呑みにしてしまった。そして当然のことながら先生の中国話のなかで記憶に刻まれたのも、その下着エピソードだけであった。
しかし、人間が身を飾りたい、おしゃれしたいという気持ちは抑えることのできない激しいものなんだとそのとき思い知った。
シンプルな世界と、混迷を深める日本
この記憶が唐突に呼びさまされたきっかけは、バラエティ番組のナレーションをしていたときだった。様々な国の人たちが、母国の風習や日本人の知らない独特の習慣などを披露するトークコーナーで、イラン人女性が、イランでは宗教的な理由で、外で自由にファッションを楽しむことができないと話していた。イスラム教圏特有のヒジャブなどの「隠す」服装は私たちにとっては、エキゾチックでどこか憧れるような神秘性があるのだが、もしかしてパンツは真っ赤なの?!ととっさに思った瞬間、「小5赤パンツの記憶」がよみがえった。
だがイランの女性の話はもっと面白くて、外出時に好きな服装ができない女性たちは、自宅でお気に入りの服(けっこう派手目なやつ)を着て、ハイヒールも履き、フルメイクを施して、夫の帰りを待つのだという。
現代イランでは若い女性を中心に外出着にも少し幅が出てきたらしいが、それでも基本は「夢は夜ひらく」らしい。
こうしてみてみると、中国もイランも背景は違えど、ダメ!と禁止をされると、下着で頑張るとか家で派手に着飾るとか、おのずと目指すものはシンプルに見えてくるようだ。翻って現代日本に生きる私達はというとなんでもござれの超自由。選択肢がありすぎて混迷を深める一方だ。
さてそんな迷いすぎて分からなくなったときには一度白紙に戻すのがいちばんいいと思っている。答えはじつにシンプル。ずばり白紙の「白シャツ」だ。
はい!別に取り立てていう程のことじゃなないんじゃない?と思った人。いやいや白シャツを一枚買えばいいというものではぜんぜんないのだ。むしろ一枚では意味を持たないに等しい。
そこはかなり厳密な白シャツ縛りをかけなければならないのである。「まず白シャツよりはじめよ」なのだ。
私は、3年前に白シャツばかり7枚ほど購入し、しばらく白シャツしか着なかった時期がある。やがて「サトさん、白いシャツしか着ないんですか?」と言われ始めて、ようやく白紙に戻ったと判断した。
白シャツ時代に私が見たものとは……。
次回につづく
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