近藤サトが考える、ファッションにおける「究極の色」とは|女のギアチェンジVol.11
OTONA SALONE / 2020年5月30日 20時0分
「黒はお派手な色」と言われて
息子が幼稚園児のとき、ママ友達と行事の式服の色は紺か黒かについて話したことがあった。かなり保守的な幼稚園だったのか、グレーやベージュという選択肢は初めからなかったが、中の一人が「でも、黒はお派手な色よ。」と言ったことで、なんとなく場が「やっぱりそうよね、紺よね。」という空気になった。
「え!そうなの?」と疑問を呈する雰囲気はなく、彼女のその一言でその場の話がまとまってしまった。
上の兄弟を持つ先輩ママの一言だったとは言え、みんなが一様に納得したのは驚きだった。とてもバブルど真ん中で青春時代を謳歌した人達とは思えない「お地味さ」だった。ただすでに私はそのとき黒の「お派手な」スーツを購入してしまっていたので、結局黒で通したのだった。それについてとやかく言われることは一切なかったが、普段から無難だからと黒い服を着ることが多かった私は、以降、何を着たら派手なのか地味なのか分からなくなってしまった。
分からないまま数年が経つと、クローゼットがリサイクルショップのようになってしまっていた。脈絡がなさ過ぎるためか、シーズンが再びまわってくると、自分の服なのに掘り出し物を見つけたりするという奇妙な現象まで起きてきた。ベストな状態から程遠いどころか、カオスと言っていい状態だった。
ちょうど世の中では「フランス人は10着しか服を持たない」という本が話題になっていて一応気にはなったものの、そんな素敵な本を読んで、マニュアルに屈するのは悔しいぜ、と読むのは遠慮しておいた。
「究極」の色はやっぱり白
そのころ、しばらく声の仕事に特化して画面から遠ざかっていた私に、レギュラー番組出演の仕事が決まった。声の仕事専門のナレーター事務所に所属していて、スタイリストのつてもないから、じゃあしばらく自前の洋服でやってみましょうか、ということになった。だが案の定すぐに底をついてしまった。
テレビ出演では通常「黒」は避ける。色味が強すぎて協調性がなく、へたをすると人間ブラックホールになってしまうのだ。つまり黒は「お派手」すぎて、テレビでは扱いにくい色なのだ。「リサイクルショップ近藤」は黒が多く、おまけにけっこう個性的なデザインを取り揃えていたため、早々に着る服がなくなってしまったというわけ。
では、何度着ても新鮮味があって、カジュアルだけど、清潔感や適度な緊張感のある洋服ってどんなものだろう?と考えたとき、すぐに頭に浮かんだのが「白シャツ」だった。芸能人の宣材写真も大抵白シャツ。純真そうで、自由なキャンバスのようで、そう白ャツは誰にも文句を言わせない洋服。色とか柄の組み合わせもないから、センスがないとか、ダサいとか言われる危険もほぼない。
いままで白シャツなんてつまらないと勝手に敬遠していたが、ネガティブに考えると白シャツは、絶対人に笑われない無敵アイテムじゃないのか?
私は、御殿場のアウトレットモールに急行した。定番のシンプルなデザインの白シャツを、バレンティ4ノ、ロロピアーナ、アルマーニ、ブルネロクチネリで合計7枚買った。定番シャツを何もそんなブランドで買わなくてもいいんじゃ?と思うかもしれないが、いやいやいっぺんに同じアイテムを複数買うと、生地、縫製、シルエットの違いは歴然で、私は特にバレンティノの厚みのある青みがかった白生地ときりりとしたライン、が気に入っている。
この白シャツの束ををクローゼットに並べて掛けてみるとなかなかの迫力だった。ただし、雑多な「リサイクルショップ近藤」の見た目が「クリーニング近藤」に生まれ変わった感は若干あった。それからは番組出演の際には白シャツばかりを着続け、ボトムはパンツやスカートなど手持ちのものでアレンジ。イヤリングやネックレスで変化を持たせた。初期投資は必要だだったけれど、中途半端な私服より断然胸を張れる気がした。
黒は「お派手」な色かもしれないが、白は「究極」の色じゃなかろうか。事実、白いスーツ、白いジャケットはまず着こなせない。大抵の人は、マジシャンか司会者か女性政治家に見えてしまうのがオチだ。そもそも彼らも着こなしてるというより、制服っぽく見える。ちなみにこの人は白ジャケットを着こなしてるなあと思ったのは、矢沢栄吉さんくらいかも。
でも白シャツなら大丈夫。似合わない人はいない。もし自分のクローゼットがリサイクルショップみたいになっていたら、白シャツを何枚か買ってしばらく着続けてみるのは絶対おすすめだ。白シャツでリセットしたあとに、最初に着たいと思った服はきっといままでと違うはずだから。
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