小池氏「カイロ大の卒業証書」は本物なのか?専門家のこの視点
OTONA SALONE / 2020年6月21日 11時30分
特定行政書士・社会学者・ベトナム国立フエ科学大学特任教授の近藤秀将です。
私は行政書士として入管手続を行うため、さまざまな海外大学の卒業証書を日常的に取り扱います。目にする種類・数は国内でも有数と自負しています。
今回はその立場から「外国大学の卒業証書」について解説します。
そもそも「外国大学」の卒業証書とは何なのか
6月18日から東京都知事選挙(7月5日投開票)がスタートしています。
今回は、現職の小池百合子都知事をはじめ22人もの候補者が出馬していますが、コロナ対策でも存在感と指導力を発揮してきた小池知事の圧倒的な優勢が伝えられています。
初の“女性都知事”として脚光を浴びてきた小池知事ですが、それゆえの反発等も少なくありません。
その中の一つに「学歴詐称」問題があります。
「カイロ大学卒」という小池知事の学歴が詐称ではないか、というものです。
様々なメディアで度々報道されたことにより、現在「外国大学の卒業証書」に注目が集まっています。
カイロ大学は異例の「正式な卒業」声明を出した
6月8日付で、卒業証書発行権限者であるカイロ大学の学長名で
「小池百合子氏が、1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する」
「卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された」
という声明が出ました。
翌9日には駐日エジプト大使館もFacebookで同様の発表をしています。
本来であれば、ここまで完膚なきまでに権限者等から裏づけが取れると、もはや異論は出ないはずです。
ところが、一部のメディアが、
①卒業証書が粗雑
②卒業証書に矛盾がある
③卒業証書を発行した大学自体が信用できない
とし、まだ小池知事の学歴詐称を追求しています。
この一部メディアの姿勢に「そこまでして・・・」とさすがに呆れ返える声も出ています。
意外に知られていない「入管」と「卒業証書」の関係
私は、在留資格関連申請手続(以下「入管手続」)を専門とする行政書士であることから、これまで多くの「外国大学の卒業証書」を見てきました。
入管手続において卒業証書は、重要な役割を果たします。
なぜなら、在留資格を取得する重要条件に「学歴」があるからです。
例えば、「技術・人文知識・国際業務」※という就労系在留資格においては、大卒等の学歴があることが大前提となっています。
また、その他の在留資格においても大卒等の「学歴」があれば、その審査において有利になることも多いです。
したがって、出入国在留管理局(以下「入管」)は、「学歴」については厳しく審査し、「学歴詐称」を徹底的に排除しています。
このような入管の姿勢を受けて、私達入管実務専門行政書士自身も、申請者の「学歴」については細心の注意を払っています。
その経験から上記①から③について私の考えを述べたいと思います。
①卒業証書が粗雑
これは日本の卒業証書を基準に見た指摘なのでしょうが、全くもって見当外れです。
私も小池知事が公表したカイロ大学の卒業証書を見ましたが「乱雑にスタンプが押されている」「証明写真の留め方が雑」等というのは途上国等の外国大学ではよくあります。
また、偽造した卒業証書ほど、見た目が「立派」になる傾向があるので、むしろ「粗雑」という指摘は、小池知事の卒業証書の真正を際立たせるものです。
②卒業証書に矛盾がある
小池知事の卒業証書には「ミスターコイケユリコ」と記載があることを指摘して、これは矛盾しているとの主張もあります。
他の方も言っていることですが、おそらくひな形をそのまま利用したから、このような記載になっただけでしょう。
また、卒業時期が矛盾するとの指摘も、大学によっては「公式」「事実上」等の卒業時期があり、さらには「公式」でも複数あります。
この程度の“誤記”等は、途上国等の卒業証書では珍しくありません。
③卒業証書を発行した大学自体が信用できない
さすがに……ここまでの“暴論”は、口にするだけで恥ずかしいと言えるレベルです。
カイロ大学も名誉毀損に当たると抗議しています。
また、「カイロ大学関係者」「エジプト事情通」からの“証言”という曖昧なものに拠って、カイロ大学やエジプト政府ぐるみで卒業証書の偽造をしているとの主張もあります。
「カイロ大学関係者」「エジプト事情通」という匿名他者の“証言”は、怪文書と同じレベルのものです。
さらに、カイロ大学が“一卒業生”のために声明を出したこと自体が不自然だ、という主張もあります。
しかしながら、“一卒業生”とはいえ、大臣経験者の元国会議員で現職の東京都知事である「コイケユリコ」を特別扱いするのは、その影響力からは当然ではないでしょうか。
どちらにせよ、小池知事の卒業をカイロ大学が認めたことで、もはや、この「学歴詐称」問題については、このような怪文書レベルのイメージ工作しかできないのでしょう。
解決済みの疑義ではなく、政策をもって政治家を判断すべき
以上ですが、今回の小池知事の「学歴詐称」問題は、カイロ大学の声明により解決されたと考えます。
「学歴」について厳格な審査をする入管でさえ、カイロ大学という権限者からの裏付けがあれば、もはや小池知事の「学歴」に疑義を持つことはないでしょう。
それぐらい、カイロ大学の声明は重みがあるものです。
途上国等でも、いやむしろ、途上国等だからこそ大学というのは権威があります。
私もベトナムの国立大学で特任教授をしているので、その大学が持つ権威を実感しています。
ぜひ、解決済みの「学歴詐称」問題ではなく、政策論争で都知事選挙が盛り上がることを願っています。
※在留資格「技術・人文知識・国際業務」
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで,企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。)。
該当例としては,機械工学等の技術者,通訳,デザイナー,私企業の語学教師など。
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