それでも私たちはハイヒールを愛す|女のギアチェンジVol.14
OTONA SALONE / 2020年8月29日 20時0分
不合理極まりない靴、ハイヒール
女性のハイヒールについて、30代後半の番組スタッフの男性に聞いてみると。
「不安定で歩きづらそうだから大丈夫かな?と心配になります。」
「でもハイヒールを履いた女性の足元や姿はきれいだと思いませんか?」
「きれいだとは思いますよ。でも、それは誰に見せるためのものかというと、男性ですよね。」
「奥さんは履かないんですか?」
「妻は履きませんねえ。僕はハイヒールはセクシャルなものとして作られた、とても不合理なものだと思いますが、履きたい人は履けばいいいんじゃないですか?多様性の時代ですし。」
テレビ局の人ってこんなに真面目だったっけ!?と驚きつつ、現代社会の問題だったら模範解答に近い回答を頂いた。
しかし多様性かあ。もちろん多様性を認めることは歓迎すべきことなんだけど、逆に、多様性というちょっと聞こえのいい言葉で、本当は議論すべき事柄までまるく収めてしまおうとする場面が昨今よくある気がしないだろうか。
確かに、ハイヒールなんてものは不合理極まりない靴だ。足も痛いし、腰も痛い。ましてや、誰かに強制されて履くような代物では全くない。
しかし、私はハイヒールが好きだ。同じように好きな女性もたぶん多いと思う。
じゃあ、そういうハイヒール女子たちは、オトコの視線を浴びまくりたいがための道具としてハイヒールに魅力を感じているのかというと、実はその割合はさほど多くないと思うのだ。
ハイヒールを履いた女性を好む男性はいるし、セクシーな仕事をしている女性や、ファッションショーのモデルはハイヒールを履くこ事が多いから、セクシャルなイメージを持たれることは簡単なのかもしれないけど、本来ハイヒールは履く人を強くしてくれる武装品に近いんじゃないかと私は思う。
単に異性を引き付けるためのセクシャルなもので、その代償としてのみ女性は苦痛に耐えざるを得ないのだとしたら、ハイヒールが誕生から約300年という長きにわたり、ずっと生き残ってきた理由が分からない。
なぜコルセットやパニエと同じ運命をたどらなかったのか。窮屈で不合理なドレスから解放されることは望んだのに、負けず劣らず不合理なハイヒールはどうして捨てられなかったのか。
87歳の女性が放つ強い輝き
私の家の近くに住んでいる87歳の女性は、毎日、タイトスカート姿で5~7センチヒールを履いて颯爽と出かけている。
以前彼女に「お洋服もお靴もいつも素敵ですね」と話しかけたら、「私は背が低いからヒールの靴は欠かせないのよ。」とほほえんだ。87歳という年齢なら、転んでけがをしてしまうかもしれないし、足腰のことも心配だから、もうハイヒールは「返納」してもいいのでは、と 一瞬思った。
でもすぐに、そんなことをしたら彼女の武器を奪ってしまうことになると気付いたのだ。
身長を少しでも高くみせ、踵を鳴らしながら堂々と歩くことは、何かに負けることを許さず、自分はこうありたいという理想の姿に向かっていく彼女の大切な日常なのだ。そんな人には畏敬しかない。
先日もスーパーの帰り道で前を歩く彼女を見かけた。炎天下、手には大きな買い物袋を下げ、日傘を差し、モノトーンで花柄のひざ下タイトスカートにバックストラップのシャネルのヒールサンダルを履いていた。
その姿から溢れていたのは、性的なアピールではなく、強く逞しい人間の輝きだった。
私はハイヒールは究極、履かなくてもよく所有しているだけでもいいと思う。
豪華で美しく、見ているだけで心がわくわくするような取扱い注意の危険な武装品。
履いたときのことドキドキしながら想像するだけでも気分が上がるというものだ。とかくこのご時世は、私自身もいろいろなことをジェンダーに結び付けて解決しようしがちだが、すべてそこに落とし込んでは本当に必要な時に見えづらくしてしまうんじゃないか。
私にはハイヒールが消滅する日は想像できない。
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