誰に見られていたかがわからない。永遠に「恐怖」の中を生きる【不倫の精算#15後編】
OTONA SALONE / 2021年1月28日 22時1分
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内。前編からの続きです
仕事以外に関心のなかった夫が、豹変した瞬間
そんなBさんに彼も同調したのか、誘われる時間が早くなり、またふたりでバーから出るのも深夜で、「もっと一緒にいたい」という情熱を確認しあう日々だった。
「浮かれきっていた」と何度も口にするBさんが夫の変化に気づいたのは、そんな不倫関係が三ヶ月ほど続いた頃だった。
いつものように着飾って出ていこうとすると
「今夜も遅くなるのか」
と“冷たい声で”話しかけられた。
そのとき「胸によぎった一瞬の不安」を、Bさんは今でも覚えているという。
週末の“お出かけ”は、仕事が忙しく家事も育児も関われない夫がBさんのために認めた時間だった。
はじめこそ、いつも同じ時間に出て0時前には帰宅していたBさんだったが、その頃には
「夫と娘のご飯を大急ぎで作ってメイクして、夫の帰宅と同時に家を出る感じ。
土曜日は出勤しても残業はしない約束で、
『高校の同級生と再開して約束しているから、できるだけ早く戻ってね』
ってお願いしていたの」
という。
以前より家を空ける時間が長くなっていた。
それを正面からとがめられたことはなかったが、その夜の夫の言葉は
「明らかに私を非難している」
とBさんは感じた。
「また、あの店に行くのか」
と夫は重ねて尋ねてくる。
「そ、そうよ。いつもあそこよ。
Aのお店って知っているでしょ?」
とBさんは慌てて返す。
友人のAは夫にも紹介したことがあり、また“本当にそこに行っている”ことが、Bさんにとっては唯一の心頼みだった。
心臓が重たい音をたてる。
まさか、彼とのことが……。
次に飛んできた夫の言葉で、Bさんはいっそう凍りついた。
「娘は今夜も俺の部屋で寝かせるから、大きな音を立てるなよ」
夜中の2時近くに帰った先週、酔っておぼつかない手でついコップを落としてしまい、そのせいで娘が目を覚ましたことを指していた。
「……」
Bさんはうなずくだけで家を飛び出した。その日から、夫の態度は変わった。
掴まれた。その恐怖だけで甘い時間は吹き飛ぶ
「どこで夫は気づいたのだろう」
この夜、Bさんの脳裏を繰り返しめぐっていたのは恐怖だけだった。
彼にのぼせ上がる一方、夫への関心はがっくりと下がっていた。そんな自分に何の違和感も持たないまま、週末だけを楽しみに過ごしていた。
娘との時間はもちろん大事にするが、夫に対してはろくにお疲れさまの言葉もない。会話もない。「遊びに行かせてもらうから」と、食卓にはあえて夫の好物を出していたが、どれも明らかに時短で済ませられる内容だった。
新しく買うのはメイク用品、よそ行きのワンピース。夫がこの数ヶ月目にしていたのは「お出かけの時間に意識を向けている」Bさんの姿だったろう。
通販でこっそり買ったセクシーな下着は慎重に隠していたが、「夫に気付かれた今」はそれすら不安を増すひとつであり、Bさんの「週末の幸せな時間」は一気に爆弾のような重たさでのしかかった。
彼と会っている間も夫の言葉ばかりが蘇り、ベッドでの時間もバーに移動してからも、「もし夫が監視していたら」と思うと身が固くなるような恐怖を覚える。
そんなBさんを彼は気遣ってくれたが、本当のことを言い出せないまま、「体調が悪くて」とその夜は0時で帰宅した。
動悸がおさまらない胸のまま、おそるおそる部屋に入る。電気の消えたリビングも、娘と夫がいる寝室も静かだったが、シャワーを浴びる気にもなれなかった。
そんな事実、なかったことにしたい。不倫の泥沼
「どうしよう、夫に不倫がばれたかも」
その夜から数日後に電話をかけてきたBさんは、憔悴しきった声ですべてを話してくれた。
夫から急に家計簿を見せろと言われたこと。
残業の予定が変わっても連絡せず帰宅すること。
昼休みに突然電話してきて居場所を確認すること。
そのどれもが、「私の不倫の証拠をつかみたがっている」とBさんは感じていた。
「知っているんだぞ」とは言わなくてもあからさまに出せば、こちらが警戒するのはわかっているはずであり、それ以上に「探っているんだぞ」と示すような夫の様子がBさんは恐ろしかった。
今のBさんは、彼とはきっぱりと別れた。友人のバーにも一ヶ月ほど足を向けていない。
「そのAさんにはこのことは話したの?」
と尋ねると、
「夫が変わったことは言ってないけど、しばらくお店には行けないって言ったの。
急に来なくなったら心配するだろうから」
と力ない返事が戻ってきた。
連絡をした日、友人には不安そうな声でこう言われたという。
「もしかして、何かあった?
あなたたち、うちでは相当目立っていたから気をつけろって言ったじゃない」
これを聞いたBさんは、いたたまれなくなって電話を切ったそうだ。
もちろん、友人に非がないのはわかっている。
むしろ不倫がばれれば大きな迷惑をかけることになる。それを想像すると「心臓が痛むような」焦燥が襲うのだ。
Bさんはしきりに
「夫の疑いをそらす方法」
「不倫していないとわからせる証拠」
を欲しがった。だが私は、動けば動くほど、逆に夫を刺激することになると感じた。
不倫の疑いを持たれていわゆる「悪あがき」に走る人は多いが、その言動こそが裏にあるやましさを露見させる。
「何もしないこと」
これしか、Bさんに返せる言葉はなかった。
誰が見ていたかわからない。爆弾がずっと生活を脅かし続ける
急に“お出かけ”をやめたBさんに対して、夫は何も言わないそうだ。
Bさんには「疑われていながら不倫相手と情事を楽しむ」ような度胸はなかった。出ていくのをやめて、彼とのLINEのやり取りや写真もすべて消した。
だが、この極端に行動を変えたことが夫の疑いを加速させたのか、不意打ちのような帰宅や突然の連絡はやまず、いっそうBさんを追い詰める。
Bさんは自分ではどうしようもない「真実」に怯えていた。
「私、バーで彼と腕を組んだりイチャイチャがすごかったのね。
それで若いカップルに『仲いいですね』とか言われるのがうれしくて、肩にもたれかかるとかいつもやっていて……。
Aにも言われたけど、誰が見ていたかわからないの。
もし夫の知り合いとか私の友人とかが見ていて、それが夫の耳に入ったら……」
バーで繰り広げた“醜態”を、どれだけの人に見られたか。
あのときは、それが羨望のまなざしだと思っていた。
だが、現実を見れば
「不倫相手と深いスキンシップをとる自分」
は痴態でしかなく、どんな言い逃れもできないのだ。
夫が何を知り、何をしたがっているのか、本当のことはわからない。
いま言動を改めても、過去の自分を消すことはできない。
この“爆弾”がいつBさんを襲うのか、もしくは不発のまま朽ちていくのか、誰にもコントロールはできないのだ。
「どう見ても不倫」というつながりを不特定多数の人に見られるリスクは、高揚しているときはなかなか思いつかない。
だが、疑われる段階になったとき、その過去が何より自分を苦しめることになる。
いっときの快楽が大きな責めとなるのが不倫であり、その後始末も、必ず自分が負うことを忘れずにいたい。
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