ストレスの多い現代社会。40代からの女性はどう働くべき?【上野千鶴子さんに聞く②】
OTONA SALONE / 2022年4月18日 17時1分
日本における女性学、ジェンダー研究のパイオニア的存在である上野千鶴子さん。話題の番組「最後の講義」(NHK)で語った未放送分を含む内容が書籍『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』(主婦の友社)となって発売されました。
40代、50代の働く女性たちはこれからどう働き、どう生き、どんな社会にしていったらいいのでしょうか? 本書のメッセージに深く感銘したオトナサローネ編集長の浅見が、ロングインタビューさせていただきました。今回はその2回目です。
PROFILE
上野千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年、富山県生まれ。1977年京都大学大学院社会学博士課程修了。日本における女性学、ジェンダー研究のパイオニアであり、指導的な理論家の一人。高齢者の介護・ケアも研究対象としている。著書に『家父長制と資本制』『ナショナリズムとジェンダー 新版』『生き延びるための思想 新版』(以上、岩波現代文庫)、『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)、『女の子はどうい生きるか 教えて、上野先生!』(岩波ジュニア新書)など。共著に『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』(大和書房)などがある。
■女性管理職が働きやすくなるには?
━━40代、50代で管理職やリーダー職についている女性もオトナサローネ読者には少なくありません。ですがロールモデルがいなかったり、いまだに「202030」*が達成していないように実質的な数は少なく、女性管理職ならではの悩みをかかえていたりします。これからの女性管理職、リーダー職はどうすればもっと会社の中で働きやすく、生きやすくなるのでしょうか?
*2003年に「2020年までに指導的地位における女性の割合を30%にする」という男女共同参画政策の目標を制定したもの。達成できず、可能な限り早期にと先送りされている。
上野:社内ポジションのどこを狙うかによって働き方が変わると思います。40代、50代といったら、男も女もほぼ社内ポジションが決まってくる頃じゃないですか。これ以上、上にいけるのか、このままでいるのか。社内のパワーゲームにほぼ決着がついているのではないですか?
そうなると「男のパワーゲームに参加したいかどうか」でしょう。
━━男のパワーゲームとは?
上野:男はパワーゲームから報酬を受け取っているのです。パワーゲームの中のポジショニングや肩書ってそれ自体が報酬ですから。ライバルを出し抜いたとか蹴落としたとかそれ自体が彼らのアイデンティティの一つの核になる報酬です。会社での女性の働き方が男性と違うのは、女性がパワーゲームからの報酬をあまり受け取らないというか、関心がないからだと思います。男性にとってパワーゲームって楽しいもののようです。
━━出し抜くとか蹴落とすとか、楽しいものですか? そうは思えませんけれど。
上野:男性たちのふるまいを見てください。海外の研究にすごく面白いのがあるのですけど、職場でパワーゲームやったあとで、家に帰ってテレビで観るのもサッカーとか野球とか、勝ち負けのあるゲームばかり。彼らは勝ち負けのあるゲームが大好きなんです。1日の大半を、仕事のうえでもエンタメのうえでも、勝ち負けにこだわって生きている人たちです。女性は理解できないかもしれませんね。女はまずそのパワーゲームに参加させてもらえない。つまりパワーゲームの正式のプレーヤーだと彼らに思われていない。参加したからといって男がパワーゲームから受け取る報酬を女は受け取れない。
だから女は早いうちにパワーゲームに関心を失います。関心を失うとどうなるかというと、会社に対するコミットメントが男と違ってきます。女は会社と半身で関わります。私はそれでいいと思うんです。会社と心中する理由なんてこれっぽっちもありません。「私のために会社があるのであって、会社のために私がいるのではない」。自分が生きるために会社があるので、自分の一部は会社に託すが全部は託さない。私はそれが正気の人間だと思うので、女のほうが正気の働き方をしていると思います。
■パワーゲームでなく「気持ちよく働く」を考える
上野:40代とか50代というのはパワーゲームの中で、自分が本当にどこまでいくか見極めのついてくる時だと思います。のし上がっていくなら、それなりの対応のしかたがあるでしょうが、そう思わなければ自分が職場でどうやって気持ちよく過ごすかを考えればいいので、チームを率いるリーダーとして、チームのメンバーをどう気持ちよくするか、どう意欲を引き出すかを考えればいいのです。その点では男性より女性のほうが、チームをまとめるリーダーシップはあると思いますよ。
━━女性のほうがまとめるリーダーシップがあるのですか?
上野:実際、中学高校の部活動ではリーダーの女の子が増えていますからね。女性のほうがまとめるリーダーシップがあるからです。会社みたいに年齢差とか学歴差とかキャリアの差があると、面白く思わないオッサンがいるかもしれないけれど、結局、管理職は実力と信頼ですからね。自分の職分を淡々と果たしてみせればいいんです。
女性リーダーの非常にいいところは「助けてくれ」って言えることだと思います。どんな仕事も単独ではできません。周りの人に助けを求めて手伝ってもらわなきゃいけない。「助けてほしい」って言うことは、非常に大きいメリットだと思います。もちろん男性リーダーだって言っていいんですけどね。
━━管理職、リーダー職はいわゆる「中間管理職」でもあるので、上がTHE昭和な男というのに悩んでいる女性も多いようなのですが。男並みではなく、自分らしくマネジメントをしていても、上から言われたりすることも少なくないようです。
上野:そういう人には「給料分の仕事はやっています」と言えばいい。彼らが給料分以上の仕事をやっているかどうかはわかりませんが、パワーゲームから無形の報酬を受け取っているから満足なのだと思います。
男のアイデンティティはどこからくるか。女に選ばれて愛されることなんかじゃないです。男は男に選ばれる、つまり自分がライバルとして力を認めた男から「おぬし、できるな」って言われたときのゾクゾクする快感は、女に愛されたときの快感どころじゃないでしょう。ホモソーシャルな社会の中で男はお互いを認めあって生きているのでしょう。
━━だから男同士って飲みニケーションなどでつるみたがるのですか。
上野:そうです。男は男のために死ぬけど、女のためには死にません。そういう生き物です。それがTHE昭和の男です。平成や令和の男はそういう人ではなくなってきていますね。「オレたち並みに働け」といいながら、その実、女性を排除しているのはそういうオッサンたちです。それでツライ思いをするのは女性。だから「給料分働いていますけど、何か?」って言えばいいんです。
■自分らしく働く=正気な生き方
━━管理職、リーダー職であっても、パワーゲームではなく、自分らしく働きたいという女性たちは少なくないと思います。
上野:人生は仕事だけじゃないですからね。仕事のために人生があるのではなく、人生のために仕事があるのですから。
パワーゲームにコミットして定年までのあいだにトップにまで上り詰めようという人は男女ともに少数派だと思います。そうでないとしたら、40代50代は定年後を見据えた助走期間です。なぜかというと会社員人生には必ず終わりがくる。あるとき「明日からあなたは会社へ来なくていい」と言われます。定年が60歳から65歳に延長してもここから先が長い。人生100年時代ですから、30年はあります。オギャーと生まれた赤ん坊が30歳過ぎるまでの年月です。そうなると40代、50代は次のラウンドをどうするかが、大事になります。私は定年後に軟着陸しているモデル退職者の調査をしましたが、わかったのはわりと早い時期から複線人生を始めていることでした。私達の調査ではだいたい40代から助走期間が始まっていました。
━━40代から仕事以外のことを始めているのですか?
上野:そうです。しだいに生活の中で仕事とそれ以外のウェイトの割合が変わってくるんです。だから40代で新しいことを始めるのに早すぎることはありません。少しずつでいいからチャレンジしてみることをオススメします。60歳で定年してからが長いです。はっきり申し上げますとなかなか死ねません。私達は死ぬに死ねない時代を生きています。
後半生は下り坂の人生ですけれど、どうやって機嫌よく生きていくかを考える必要があります。親を見送り、子育てからも卒業します。夫がいてもそれまでにキャンセルしているか、これからの時間を一緒に生きるかどうか選択する時期でもあります。長く続いている夫婦って何度かの節目で仕切り直しをして、諦めも含めて再選択をしながら夫婦関係を続けているのでしょう。
見合いでも恋愛でも結婚は「くじ」みたいなものです。よほどひどい人でなければ、慣れれば習慣になります。日常って習慣の積み重ねですからね。仕方ないわ。この人とやっていこうと思う。そういうのを「仕合わせ」というのでしょう。私が見た限りでは、離婚した人たちは結婚に破綻した人たちというよりも、結婚にあきらめがつかない人たち、欲の深い人たちです。その人たちが離婚するエネルギーを発揮して、そうじゃない人が離婚せずに夫婦を続けているのだと思います。
『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』
知のスペシャリストが学生たちに「今日が人生最後の日だったら何を語るか」というテーマで特別講義を行うNHKの人気番組「最後の講義」。上野千鶴子さんの回ではこれまでの学問を通じて女性の問題に対してどう社会を変えようとしてこられたか、本当に必要なのは弱者になったときに助けてもらえる社会であることを率直な言葉で語り、後輩たちにエールを送ってくれています。
著者:上野千鶴子
出版社:主婦の友社
続き→【上野千鶴子さんに聞く③】40代、50代。親の介護と、自分の老後が不安です (4月19日(火)17時公開)
前回→【上野千鶴子さんに聞く①】均等法から30年以上。本質的な「男女平等」とは!?
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