百貨店で「売らずに展示会」だけしてみたら見えてきた、更年期女性の「意外すぎるニーズ」
OTONA SALONE / 2022年6月12日 22時37分
2019年11月に誕生した大丸梅田店5Fの「ミチカケ」は、百貨店業界初のフェムテック常設売場。コンセプト「月のみちかけのように、あなたのリズムに寄り添う」に共鳴するコスメやアクセサリーに加え、女性のデリケートな悩みや不安に向き合う雑貨、サプリなどを集積した売り場です。セルフプレジャーアイテムまで揃う点が話題を攫いました。
この「ミチカケ」が、女性のヘルスケア領域を専門にイベント企画をおこなう「ウーマンズ」とコラボし、5月下旬に西日本最大級の「フェムテック展」を開催しました。ポイントは、催事ではなく「展示会」であるところ。つまり、販売は行わずに展示だけなのです。
60社が集結した同展を開催した経緯と反響、そして「更年期とフェムテック」について、責任者の高橋知世さんにお話しを伺いました。聞き手はオトナサローネ編集部井一です。
「百貨店なのにモノを売らない」常識破りの展示会。いったいなぜそんなことを?
――今回の「フェムテック展」は、「夏のお中元展」のような販売催事ではなく、フェムテックプロダクトを展示解説するのみの「展示会」です。買いたい場合QRコードでそれぞれのサイトへ行って買う方式でした。百貨店で「モノを売らない」だなんて、開催までどれだけ長い時間をかけて説得したのでしょうか?
高橋知世さん(以下略):それが、突貫だったんです(笑)。まず、昨年10月に「ウーマンズ」の、フェムテック企業同士が対談するイベントに登壇機会がありました。800社が集まり、ミチカケにご興味を持っていただける手ごたえを感じました。
その後「ウーマンズ」に大丸梅田店内でフェムテックの展示イベントを開催しませんか?と、コラボのご相談をしたんです。「ウーマンズ」は女性ヘルスケア業界をリードする会社で業界の知見が深く、また業界内の法人ネットワークを幅広く持っています。イベントの企画の他、今回の出展企業を集めていただきました。実際に展示会の構想を始めたのは2月末ですから、実質3か月で実現しました。
――なぜ、百貨店という究極の「モノを売る場」で敢えて売らずに見せるだけの催しを考えたのでしょう? どうせなら売ったほうがよくないですか?
ね、そう思いますよね? ここには3つの理由がありました。
まず、大丸梅田店の主要な顧客40~60代向けのフェムテック商品がまだ少ないこと。生理、性、妊娠出産と若い層の印象になりがちなフェムテックですが、本来は女性すべてに発生する課題を技術で解決していくもの。もっと身近に感じていただきたかった。
また、よいプロダクトを作っている企業さんなのに、新規事業でアイテムが少ない、常駐販売員を出せないなどの理由でミチカケでの販売が難しいケースが多々ある点に課題感を持っていました。敢えて売らない展示会というスキームを作ることで、これがクリアされました。
大丸の本業はモノを仕入れて売ることですが、それ以外の収益スタイルを見つけたかったのも理由。ミチカケは新しいことに取り組む売り場です。大丸梅田店としても新しい取り組みに挑みたいと考えていました。
実は、更年期世代もそれ以外も「売りつけられる心配なくじっくり話を聞きたかった」
――大丸梅田店にとって、展示会スタイルはこれが何度目の取り組みになるのでしょうか?
大丸梅田店では過去いちども展示会という形式はなく、今回が初でした。販売を行わないイベントという意味ならばアート展などの文化催事がありますが、プロダクトを並べるだけというのは初めてです。ですが、敢えて売らなかったことがお客様からは好評でした。
――好評。「百貨店なのに買えないだなんて、不便」と言われてしまわなかったんですか?
逆に、「売りつけられる心配がないのでじっくり話を聞けた」という声が多数上がりました。興味があるものの話を、余計なことを気にせずただじっくりと聞けたと。出展企業側からも「売らなねばならぬノルマ」のプレッシャーがなく、心から商品の思いを聞いていただけたという大きな満足感が聞こえてきました。相互からそういう声をいただけたことが、売ることを生業としている私たちからは新しい発見でした。
――なるほど。普段の顧客層とはかなり違う、はじめてお越しになるような方も多かったのでしょうか?
はい、特にテレビニュースで放映された翌日からは「フェムテックが関西で見られると聞いて来ました」「フェムテックって何だか知りたくて来ました」というライトなお客様が増えました。出展企業からは、普通なら20代30代女性が集うところ、百貨店だけあって70代80代がお見えになる点に驚きの声が上がりました。車いすの方や、男性、杖をついた方、歩行器の方もいらして、企業さんには直接新たなフェムテック顧客像をご覧いただけたと思います。
「これもフェムテックなんですね、実は私もう使ってました!」
――やっぱりお客様の反応も、普段のミチカケとは全然違ったのでしょうか?
今回は「ミチカケ・ウェルネスアクションvol.1フェムテック展」として、狭義のフェムテックだけでなく、女性の疾患率・有病率が高い病気の課題解決や、介護まわり、治療後に元の生活に戻るためのフォローアイテム、健康サポートアイテムなど広い分野で出展を募ったんです。それらをお客様にトータルでご覧いただけたので、「これもフェムテックって呼べるんだね」「私が使ってるのも実はフェムテックなんだね」と、当初の狙い通りにハードルを下げられたなと思います。
――気づかないうちに使っていたとわかるとグンと親近感が沸きますよね。具体的には、どんなアイテムにそうした声が?
たとえばですが、ピップの「スリムウォーク」。皆さん一度は手にしたであろうアイテムです。今回は出展商品ほぼすべてに「この商品の背景にどのような女性の健康課題が潜んでいるのか、健康課題を学べるデータ」の解説POPも並べました。「スリムウォーク」を知ると、女性の脚のむくみの何が解決されるべき課題なのかがわかり、また、ピップがどれだけ長い時間をかけて真剣に解決しようと向き合ってきたかもわかります。私もフェムテックを使っていたのねとハードルを下げるには、こうした課題の把握、解決の理解が女性の側にも必要なんです。
介護にまつわるアイテムにも反響がありました。たとえばオムツに使い捨てのシートを入れておくと、排尿を検知してデバイスにお知らせがいくとい、使い捨て排尿検知センサー。NOKという企業のプロダクトです。介護する側は早く排尿のお手伝いができますし、介護される側もトイレに行きたいと言い出せないストレスが軽減されます。女性のほうが要介護者が多いため女性の健康課題として展示したところ、介護施設の企業さんなど法人の反応も得られました。
まだまだ知られざる「優れたフェムテックアイテム」がたくさんある!
――高橋さんもはじめて目にするプロダクツがたくさんあったと思いますが、印象に残ったアイテムは?
例えば、錫(すず)の錫(すず)の器で有名な富山県「能作」の「ヘバーデン リング」。指の第一関節が腫れたり痛んだりする病気「へバーデン結節」にかかった人のためのリングです。錫は手で曲がるほどの柔らかな素材ですから、痛みが強い時期にこのリングを装着すると、固定しすぎずテーピングのようなホールドが可能。何よりルックスがおしゃれなアイテムです。価格も税込3300円~とお手頃。第二関節のブシャール結節用「ブシャール リング」もあります。
「ロゼパリ」の「ビジューつき耳栓」もお客様を集めていました。気圧変化で頭が痛くなる「お天気痛」は女性のほうが多いのですが、気圧変化の影響が軽減されるよう耳栓を使います。この耳栓にきらきらしたビジューをつけたおしゃれアイテムです。これも皆さん年齢問わず手にとり、こんなのあるの知らなかった、そういう発想あるんだと驚いていました。こちらも税込1980円~とお手頃です。
このように多様な企業様にお集まり頂き、お客様に向けて多様な健康課題を発信できたのは、女性ヘルスケア業界を専門に事業を行っているウーマンズさんに一緒に企画に入っていただいたおかげでした。
――高橋さんご自身にも従来とはまた違う発見があったということですね?
前述の「脚むくみ」も「お天気痛」も、私たち女性にはどこか「なっても仕方ない」というあきらめがあると思うんです。むくむのは仕方ない、雨だから頭痛は仕方ない、そこで諦めて終わっていました。でも、私が知らなかっただけで、そういう課題にちゃんと向き合って商品提案をしてくれている企業さんたちがこんなにたくさんあったんだな!と驚きました。
そもそも私たち、むくみがそんなに真剣な課題だと認識していなかったですし、向き合ってもこなかったですよね。これはフェムテック全般に言えることで、まず「これは課題だと思っていいんだ!」と気づくことが大事。この大切なことが展示会で表現できたな、と思っています。幅広い世代の女性に向けて「こういうことが実は課題なんですよ、悩んでいいことなんですよ!」と提案できたのが大きな一歩でした。
――次回開催時は会場までお伺いしたいです。ぜひご企画ください!
はい、定期的に開催してほしいという声も集まっていますので、ご期待ください!
お話/高橋知世(たかはしともよ)さん
大丸梅田店(だいまるうめだみせ) 「ミチカケ」 責任者
2006年より大丸梅田店にて婦人靴売り場を担当し、婦人靴売り
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