まじめに働く人が「残念」と言われる時代に必要な軸思考とは
OTONA SALONE / 2022年7月13日 21時0分
私たち日本人は、まじめで勤勉な国民だとよく言われます。企業においても、多くの人は「職務に忠実で勤勉」に働いています。日本人が持つこの特性は、間違いなく昭和の日本経済の高度成長を支えてきました。
にもかかわらず、令和の今、他の競合国が急速に生産性を伸ばしている中、日本が懸命に続けている努力が生産性の伸びにほとんど結びついていない。約 30年前のバブル崩壊以降、日本の給料はまったく上がらず世界の水準から取り残されている、という厳しい現実があります。
「職務に忠実で勤勉」に働くだけでは生産性は上がらない?
生産性を高めるのは、豊かな社会を創り上げるためであり、そのためには無駄な「動き」を減らし、新しい価値を生み出す「働き」を増やすことが必要になります。今の日本の厳しい現実は、私たちの勤勉な努力が「無駄な動き」になっていることを示しています。
平成の間に企業の現場では合理化が進み、安定志向が強まりました。今も社員はまじめに一生懸命働き、国を挙げて「働き方改革」にも邁進しています。しかし、思うほどには効果は見えず、どこか「あきらめ感」さえ漂っているのが今の日本の現状ではないでしょうか。
そうした中で見逃されがちなのが、企業の現場に現代の「職務に忠実な勤勉さ」がもたらす「思考停止」が蔓延し、弊害が起きているということです。
“勤勉”がもたらす「枠内思考」。思考停止に陥りがちな危険とは?
「思考停止」と言っても、何も考えていないということではありません。私が「思考停止」と言っているのは、日本の多くの企業で見られる、無自覚に“前提(枠)”を置いて、その前提のもとに「どうやるか」を考え、“制約(枠)”の範囲でものごとを処理する、ある意味では効率的で便利な思考姿勢のことです。
これを私は「枠内思考」と呼んでいます。「枠内思考」で無自覚に仕事をすると、ビジネスモデルが安定している会社であればあるほど、お客様に直接使う時間よりもはるかに多くの時間を無駄な仕事に割いています。間違いが起きないよう、作法通りの面倒な手続きを踏みながら、すべての仕事を制約の範囲内で処理していくからです。
この「枠内思考」は、新たな発想を必要とする仕事には適していません。ただし、従来の価値を再生するオペレーションを実行するためだけなら、余分なこと考えずにすむシンプルで楽な思考方法です。問題なのは、「枠内思考」が制約という“枠” を置くことが当たり前になっており、“枠”の意味を問い直す姿勢を持たないことです。つまり、“枠”を外して考えなければならない場合と、“枠”で処理したほうがいい場合の区別が必要とされていないのです。結果として「無自覚な枠内思考しかできない状態」が続いてしまうことが問題なのです。
新しい価値を生み出そうと思えば、前提そのものを問い直す姿勢が何よりも必要になります。前提、つまり“枠”を問い直そうとしない「枠内思考」のままだと、新たな価値を生み出す発想を期待できないことは明らかでしょう。
“意味や目的、価値”を考え抜く姿勢が「軸思考」
“枠”に縛られた「枠内思考」に対して、“軸”をしっかりと持っているのが「軸思考」です。たとえば 、「仕事を任せる」ことと「失敗」との関係にも、価値観に基づいた判断基準(共有する軸)を持つか持たないかの違いを見ることができます。
部下に仕事を任せる場合、まずは、任せて失敗したときのリスクの大きさを予測します。そして、そのリスクが、自分が負うことができる範囲内であれば、作業を任せるだけでなくリスクを伴う重要な判断も任せます。
この場合、根底にあるのは、「人間は失敗する生き物であり、名人でも達人でも失敗は起きる」という現実から目をそらさない姿勢です。現実を大切にする姿勢を持つなら、「失敗を起こすな」という上からの圧力は脅しとなり、委縮しか生まないことがわかるのです。
大事なことは、失敗したら、どんな小さな失敗であっても隠すことなく表に出し、その失敗の原因を徹底的に究明する。つまり、「失敗から学ぶ姿勢を堅持する」という“軸”を大切にする、ということです。「失敗を起こすな」という上からの圧力は、失敗を学ぶ対象ではなく隠す対象にしてしまうのです。
“軸”とは、「意味や目的、価値を徹底的に考えようとする姿勢 」そのものであり、ときには「意味や目的、価値」を考え抜くときの判断基準にもなり得るものなのです。
“軸”についての7つの「仮説」
①めざすものを持った生き方を志向する
②タテマエよりも事実・実態を優先する
③“当事者”としての姿勢を持つ
④常に“意味や目的、価値”を考え続ける
⑤“拓かれた仮説”にしておく
⑥“めざすもの起点”で考える
⑦衆知を集めて担当責任者が決める
「軸思考」は、自分の頭で考えることを何よりも大切にします。ここで紹介した「仮説」も、「自分たちの頭で考え抜いて新しい価値を創り上げていくときに拠り所にする仮説」という位置づけで参考にしていただければと思います 。
生産性を伸ばすには、働く私たちが「無自覚な枠内思考しかできない状態」から抜け出す必要があります。「軸思考」を身に着けることができれば、枠内思考も効果的に使い分けることができるようになり、仕事のしかたも変えていけるのです。
■文/柴田昌治
株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー。1979年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。大学院在学中にドイツ語学院を起業した後、ビジネス教育の会社を設立。80年代後半から組織風土・体質改革の支援に本格的に取り組む。社員が主体的に協力し合っていきいきと働ける会社にしたい、という社長の思いがスピーディに組織の隅々まで伝わる会社づくりをめざしサポートを続ける。2009年にシンガポールに会社を設立、対話によるチームづくりを通じて日本企業のグローバル化を支援している。
著書に『なぜ会社は変われないのか』『なんとか会社を変えてやろう』『トヨタ式最強の経営(共著)』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか』(以上、日本済新聞出版社)など多数。
≪株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表/創業者 柴田昌治さんの他の記事をチェック!≫
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