その男は妻を妊娠させたというのに「まだ不倫がしたい」と言い放った【不倫の精算#59】後
OTONA SALONE / 2022年9月6日 22時1分
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
「不倫」を選ぶ女性たちは何を考えているのか。どうして「不倫」を選ぶのか。
地方都市に在住し、恋愛相談家として幅広い世代の女性の悩みに寄り添うライターのひろたかおりさんが、垣間見た女性たちの胸の内を語ります。
【不倫の精算#59】後編
「遊びだから」って自分に言い聞かせているけれど、心とカラダはそう都合よく切り離せないでしょう?
Pさんと既婚男性が出会ったのはマッチングアプリで、会話が弾み写真を交換したらすぐ会うことをお互いに同意し、スムーズに約束したと聞いていた。
男性は結婚していることを隠さず、「妻とは仲が冷めており、慰めあえる相手がほしい」とPさんに堂々と伝えていたそうだ。
「慰めあう」がどんな状態を意味するかすぐに察したPさんだったが、「顔が好みで体型も気に入った」「今は仕事が忙しくて彼氏はほしくないし、寝るだけの相手にちょうどいい」として彼を受け入れたのだった。
お互いに「先はないけれど肉体関係ありきのつながり」だと納得ずくで始めた関係であり、だから彼に「君だけだから」と歯の浮くような甘い言葉を投げられても
「不倫相手にはそう言うのがマナーですよね」
と、したり顔で済ませていたのだ。
ところが、目の前に座る今のPさんは、当時の「軽やかに不倫を楽しむ自分」の設定を忘れたように「奥さんが妊娠した」と報告してきた不倫相手に怒りを抱えていた。
嘘をつかれたことに腹を立てるのはわかるが、既婚男性のそんな狡さを責める資格はPさんにはない。
不倫関係を選んだのは自分であり、社会的にも法的にも許されないつながりに身を置くのなら、既婚者側からこんな「仕打ち」を受けたとしてもどこに出して罰することもできないのだ。
今、「不倫する男なんてこんなもの」と吐き捨てるのなら、そんな男との関係を望んだ自分もまた、等しく「こんなもの」になる。
その現実を、怒りに支配されたPさんは忘れていた。
信じられないことに、その男は「妊娠した妻」を抱えてまだ不倫を続けたがる
食事が運ばれてきて、それからしばらくはこの話題から離れ、お互いの近況について静かに言葉を交わしていた。
Pさんはこちらに強い拒絶を向けた自分に今になって怯むのか、ことさらこちらに話をさせようとする様子に焦りがあった。
食後のデザートが運ばれてくるタイミングで、「もう相手とは終わったのだよね?」と切り出すと、
「あ、はい。
LINEも電話も拒否にしています」
と小さな声が返ってきた。
「そう」とだけ答えてコーヒーカップに手を伸ばすと、
「割り切った関係だったし、もうこんな関係は切っていいですよね」
と、Pさんが確認するようにつぶやくのが聞こえた。
「切るしかないよね、向こうももう会うつもりはないだろうし」
目を見ないままにそう言うと、
「ううん、彼はまだ会いたいそうです」
と同じ調子で返事があり、思わず「はあ?」と高い声を上げてPさんに目をやった。
「会うの?」
「まさか」
「だよね」
即答には、この場を乗り切るためではなく本心でそう思っている力強さを感じた。
「この期に及んでまだ寝たいって、アホか」
これはこちらの本心だったが、Pさんは大きく頷いた。
「一番腹が立つのがそこなんですよ。
嘘をついて裏切っておいて、まだ続けたいとか、ありえないでしょ」
「妊娠したら奥さんとはやれなくなるものね、だからお前が相手をしろって?
ああ気持ち悪い」
散々に既婚男性をこき下ろしながらやっと表情がほころぶPさんを見て、この瞬間がほしかったのかもな、とふと思った。
「もう戻らない関係」なのだけれど、彼女の心の中に残るのは怒りだけではない
「二度と会いたくないですよ」
大きなため息をつきながら、Pさんが言った。
「そうだよね、これ以上馬鹿にされるのは許せない」
「はい」
水滴の浮かぶグラスを口元に運び、Pさんはもう一度息を吐いた。
「こんなもの、ですよね……」
唇から漏れる言葉には、諦めの響きがあった。
もう拒絶はないだろうと、意を決して言いたかったことを口にした。
「相手の正体がわかったなら、潔く身を引くのが正解だと私は思うよ。
時間がもったいないよ」
正体……とつぶやいて、彼女がこちらを見る。
「不倫する男が全部こうだとは思わないけれど、やっぱりまともじゃないでしょ、奥さんを裏切って不倫相手の女にも嘘をついて、自分だけがいい思いをしていたいって人なんだよ」
まっすぐこちらを見つめながら、わずかに息を呑むPさんだったが、この「正体」を今こそ正面から受け入れるべきなのだと思った。
そんな男との肉体関係を選んだ自分への虚しさが生まれるとしても。
「はい」
反射のように出た言葉には、ヒリヒリした痛みが込められていた。
「ないがしろにされる自分」を知り潔くつながりを断ち切ることが、この不毛な怒りや悲しみを繰り返さないためなのだと、ふたたび色を失ったPさんの瞳を見つめながら思った。
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