いちど触れたら「覚悟」が決まる…坂東眞理子さんが語る『女性の覚悟』で積もる迷いが吹っ切れた
OTONA SALONE / 2022年11月2日 21時0分
6月、主婦の友社ゆうゆう編集部から坂東眞理子先生の最新刊『女性の覚悟』が発売されました。
発売に際し、担当編集の井頭博子が手記『「もう働きたくない」47歳編集者が卵巣をとって『女性の覚悟』に触れるまで』をオトナサローネに寄稿。「6月30日に左の卵巣をとった」という衝撃的な独白から始まるその内容にも大反響が集まりました。
坂東眞理子先生が『女性の覚悟』をテーマとする講演会を昭和女子大学でご開催と聞き、私も参加してきました。そしてやっぱり、たった1時間で惚れに惚れて、さっそく「覚悟組」の一員となりました。その経緯をお話します。なお、昭和女子大学は来春1年制の専門職大学院を開設します。そのご案内も文末に。
女性を取り巻く問題のうち、残ってしまったものもある。40年を振り返ると
「働き続ける女性は増えたが、お給料が伸びていません。正社員で働く人、管理職・役員になる女性が少なく、男性との差が大きい。これらがまだ問題として残っています」
まずは2部構成の書籍の内容に沿って、40年以上前の坂東先生の処女作『女性は挑戦する』(主婦の友社刊)執筆当時と現在の比較からお話がスタートしました。女性を取り巻く問題のうち、上記は解決されず残ってしまった一つです。
実は、男女平等に見えるアメリカやヨーロッパでも賃金格差はあります。北欧の場合、制度は整っているものの、女性は福祉や教育、公務員など社会貢献をする仕事に就くケースが多く、男性はITや金融でお金を動かして儲けます。このように職域が違うため、男女に所得差が出るのだそう。
「日本はそれ以上に、正社員と非正社員、管理職とヒラ社員での差があります。でも、女性にも働いてもらわないと社会が回らなくなるので、政府も働いてくれと言うようになっていますね」
また、日本の若い女性の自己評価の低さも気になります。「私なんて大したことないのよ」「今さら頑張ってもしょうがないわ」と考えてしまう傾向がまだまだあるとのこと。この傾向は40代50代にも見られます。
「40代50代で『いまの若い人たちはいろいろ育休や産休の制度があるけど、私たちには十分にはなかった、損している』と言う人もいます。でも、私は、こうした自己否定は甘えなんじゃないかなと思います。この顔はいやだ、大した才能がない、ファミリーに恵まれていない、亭主が出世しない……」
言い出したらきりがありません。これが現実なんだ、親や顔を否定してもはじまりません。ここで、覚悟がスタートします。
「この現実を受け入れてそれで生きていく覚悟が必要なんじゃないかなと思います。受け入れた上で、あきらめるのではなく、その中で何ができるのか、この私でもできることがあるんじゃないかと考えないとなりませんね」
長くなった人生後半をどうしていけばいいか。「アナザーステージ」への移り方は
坂東先生ご自身も50代で公務員から大学という「アナザーステージ」へ移りました。長時間働き、部下がいるのが当たり前の公務員から一転、大学では事務も研究も一人で何でもやらなければなりません。書籍を何冊出していようと関係なく、業績は学術論文や学位で決まります。
「私は大学という世界では通用しないのかな、こんな私にこれから何ができるのかなともやもやしていました。でも、別のステージに移行するときは当然誰にでもそういう『探索』が起きます。リンダ・グラットン(『ライフ・シフト』『ワーク・シフト』など)も、右から左に抵抗なく移ることはなく、2~3年探求する時期があると言っています」
57歳でステージを移った坂東先生は、58、59歳と3年の間は戸惑ったそう。ハーバード大の研究員を勤めるなどして視点を変えようと努力を重ね、そして60歳で自身初のベストセラー『女性の品格』に恵まれます。
「よくベストセラーを書くにはどうすればいいですかと聞かれますが、私は『32冊めであきらめないことです』と言います(笑)。それまでは売れても8万部くらいでしたが、『女性の品格』は300万人以上の方に読んでもらえました。公務員のままならできないことが、アナザーステージへ移ったことで可能になったのです」
人生の後半は肩書よりも「自分を支えてくれる周囲の人々との関係」が重要に
これらの経験を経たうえで、人生の後半でより重要になっていくのは「無形資産」だと言及します。
「特に男性は稼ぎと肩書で自分の価値が決まると考えがちですが、肩書やポストは運やめぐり合わせにも左右されます。所得や有形資産は目に見えるためいっけん豊かに見えますが、目には見えないけれど人生に大事なのが『無形資産』じゃないかなと思います」
たとえば一生懸命やっている活動があり、そんな自分を肯定できる。そして、支えてくれる知り合いや友人がいる。これらが大切にすべき「無形資産」です。
「人生の後半ではそれまで伴走してきてくれた、欠点も長所もわかってくれる友人がぽつぽつと世を去っていきます。とても悲しくてさびしいけれど、そのいっぽうで出会いは50代60代になっても続きます。こういう人と出会えたおかげで人生豊かになったな、という新しい出会いもたくさんあります。親友にしがみつくのではなく『新友』も探すタイミングです。出会いが増えるチャンスには出かけてください。明日もしかして生涯の新友に出会うかもしれないんです」
また、必ずしも友人として仲良くなるのではなく、一方的に「いいな」とファンになることも坂東先生のおすすめです。友だちではなく「推し」の関係ならば相手との関係性の構築は必要ありませんから、ただ単純に「好きな人」が世界に増えていきます。「いいな」と感じる瞬間がどんどん増えていく、このことが自分の人生を豊かにしてくれるのです。
「女性は愛され、与えられるものを受けとることが幸せな人生だと思いがちですが、自分が与えることができる、応援することができる、役に立つことができるというのはありがたいことだなと思います。若い方を『推す』の感覚で付き合えば、何かを教えてあげようと上から目線になって反発されることもなく、人生後半になっても社会にとっても有用な存在であり続けることができます」
若い時は人生が上り坂、年を取ってきたら下り坂というだけの考え方は長寿社会にはふさわしくありません。別のステージなんだと考えると、若い時には見えなかったことがなるほどそうだったのかと納得できるとも。
「若い時は、他人の成功を見ると自分と比べて『私なんて』と思いがちです。でも、『徳あるは讃(ほ)むべし、徳なきは憐むべし』(意味/他人の長所はほめ、短所は責めずに憐れみの目でみる)という道元禅師の言葉の通り、自分と他者を比べることは煩悩。また、いじわるをいう人は徳がないので憐れむべき人なのだ、腹を立てると同じステージの人になってしまうのでリフレーミングして視点を変えよう。こんなふうに考えられるのは年の功なのだと思います」
▶【この記事の後編】坂東先生、教えてください!「私たちは人生の後半にどんな覚悟をすればいいのか?」
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