不倫相手の家に電話するほど追い詰められて…。不毛な駆け引きの行きつく先は【不倫の清算・リバイバル14】(後編)
OTONA SALONE / 2023年6月4日 22時31分
恋愛心理をただひたすら傾聴し続けたひろたかおりが迫る、「道ならぬ恋」の背景。後編です。
<<前編:久しぶりの再開に高揚が止まらない彼女。彼の下心には目を閉じて…
どこまでも「腐れ縁」でしかない関係
案の定、「妻のダイエットのため」という名目は早々に消えた。彼から連絡がきて会うたびに、「昔と変わらず綺麗だ」「相変わらず頭が良いんだね」など、自分を持ち上げてくる彼の存在はF子の日常に大きな刺激となった。
「ヤらせる気はないけど」と言うF子の言葉のほうが嘘に感じられてきた頃には、彼女はすっかり彼の気をどう引くかで必死になっていた。一度でも寝てしまえば、それは彼女にとって「負け」になる。体の関係を避けながらいかに彼の恋心を引っ張り出すか、親身に「彼の妻のためのメニュー」を提案してみたり仕事の愚痴で弱い姿を見せてみたり、F子は上手く彼を操作しているつもりだった。
だが、彼のほうはいつまでも本当に「友達」を続けようとするF子の姿に、次第に飽きてくる。
「結局、ただ寝たいだけだったんだよね」
と悔しそうにその頃を振り返るF子だが、そもそも彼の目的はそこだったはずだ。わかって始めた関係だったのに、いつの間にかF子のほうが彼に本気になっていた。
10回を超える夜のデートが続いたある日、さっさと帰ろうとするF子に彼は「これ以上は君に迷惑をかけるから」とこれからは会わないと言った。
「俺のために一生懸命になってくれてありがとう。また君を好きになりそうだから」
という彼の言葉は、明らかにF子を誘っていた。そして、「これを断るならもう機会はない」という最終通告でもあった。
F子は彼を失いたくないという自分の気持ちに逆らえず、ホテルに行くことを提案した。これで、「あの人の勝ち」が決まった。
彼から誘ったのではなく、あくまでF子のほうが不倫関係を望んだという形になってから、形勢は逆転した。
肉体が結ばれてからは、F子は彼への執着を止められなくなった。「ここまでやったのに」という悔しさもあり、何とかして彼の気持ちを繋ぎ止めること、妻より求められる存在であることが、彼女の目的になった。
そんなF子は、彼にとって扱いやすい女性であっただろう。いつだって別れをちらつかせれば途端に従順になるF子は、自分の好きなときに抱ける都合の良い存在。「これ以上君を好きになることが怖い」とさえ言えば、彼女のほうから追ってきてくれるのだった。
「でも、いつまでこんな関係なんだろうって」
その頃、F子の悩みはどこまでも「腐れ縁」のようなつながりしか感じさせない彼への不満だった。
愛情で結ばれている、と思っているのは自分だけで、彼からは常に「俺には妻がいるから」「君を好きだなんて言えないよ」と一歩引いた言葉ばかりが返ってくる。それが責任を取りたくない男のずるさなのだと話してもF子は受け入れることができず、本当にただ体でつながった縁が何年も続いていた。
せめて、彼からもひとこと「俺も愛している」と言ってもらえたら。
ホテルからひとりの部屋に戻る寂しさに耐えきれずにF子が連絡を寄越してくるたび、スマホの向こうから聞こえてくるのはそんな叫びだった。
▶彼の自宅に電話を掛けてしまった
後悔を捨てる勇気
「私、彼の家に電話しちゃった。奥さんが出た。すごく明るい声だった」
F子は泣きながら話してくれた。
ホテルで彼が仮眠している間に、こっそりとスマホから調べた彼の自宅の番号を、F子は「最後の手段」と以前言っていた。
「家にかけるときってさ、もう不倫がバレるの覚悟してだよね」と思い詰めた顔で言うF子の目は、輝きを失っていた。
そして今日、ついにその番号へかけてしまったことが、彼女の忍耐の限界を告げていた。
「もう耐えられない」
とF子は繰り返しながら、タバコに手を伸ばす。寒いから中に入ろうと促しても、首を振るばかりで動かなかった。
ここ数ヶ月、彼からの連絡が激減していることは知っていた。理由は「仕事が忙しくて」と言われていたが、本当は「奥さんと仲良く過ごしているんじゃないか」という一方的な疑いが、彼女を苦しめていた。
その奥さんとの仲を取り持つようなことを自分は最初していたのだという事実が、余計に彼女の悪い妄想を駆り立てていた。
「ねぇ、何とかして彼の様子を知る方法はない?」
と言う彼女に、「諦めるなら今しかない」と繰り返し伝えることしかできなかったが、F子の本当の後悔は軽はずみに彼の誘いに乗ってしまったことにあると、彼女自身が気づいているだろうか。
その悔いを捨てる勇気のみが、彼女を立ち直らせる唯一の術になるのだ。
既婚者の下心に簡単に応えることは、独身の女性にとってリスクが高いものでしかない。
その代償は、本当に愛して欲しくなっても今度は応えてもらえない側になるという、大きな苦しみしか生まないのだ。
彼を追い詰めれば追い詰めるほど、実は自分の退路がなくなる事実に気がついた人間だけが、その不毛な関係を終わらせることができるのだろう。
この記事は2018年1月に初回配信されました
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