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「ぼくは怒る瀬戸内寂聴先生と一緒に酒を飲みたかった」グリーフケアを撮る監督が語る自身の「喪失と悲嘆」との向き合い方

OTONA SALONE / 2023年11月23日 21時1分

多死時代ともいわれる現代、喪失に伴う悲嘆をケアする「グリーフケア」の動きが進んでいます。

このグリーフケアをテーマとしたドキュメンタリー映画『グリーフケアの時代に』が12月1日より全国公開されます。監督の中村裕さんに「なぜいまグリーフケアを取り上げたのか」お話を伺いました。

 

悲しみは比較するものではない。すべての悲嘆を等しくみんなで受け止めるところから始まる

――LOVEを「力」と訳すのは、言われてみればなるほど、よく言ったものだと思うのですが、監督の「成長につながる体験」とは?

ぼくが寂聴先生を亡くしたばかりだと知ったグリーフサポート団体の方が、「中村さんご自身こそグリーフの最中じゃないですか!」と言ったんです。ああ、もしかして、ぼくもそれをなんとかしたくてこの取材をしているんじゃないか?と、時間をさかのぼってここで気づきました。

 

気づいていなかったけれども、ぼくの心には大きな穴が開いていました。でもぼくはその穴をふさごうとも思っていなかった。取材を重ねるうち、いつしかその穴に心地よい風が吹き、きれいな水が流れ始めるのを実感して、開いちゃった穴はそのままでもいいんじゃないかなとも思いました。この体験はぼく個人の感覚で、グリーフケアを進めるうちに感じる感覚は人それぞれだと思います。

作中より、わかちあいの会。無料でオンライン開催される。

作中にはグリーフ専門士協会代表理事の井手敏郎さんが主宰するオンライン講座の様子が出てきます。その中でのわかちあいの会では、ペットのうさぎが世を去ったことを悲しむ人、20年以上前に喪った祖父母の話をする人、数年前に娘さんががんで亡くなった悲しみを語る人、さまざまな人が喪失を共有します。

 

この、うさぎも祖父母も娘も喪ったものの大きさは等価、悲しみに多寡はないというのがまさにグリーフケアの本質です。その人が抱えている悲しみをみんなで聞き、全員でそれぞれ受け入れていきます。悲しみを外に出さずに抱え込んでいると、人は一歩も前に進んでいけない。話すことでしか解放される方向には向かわないのだなと実感しました。

 

――そのシーン、一瞬「ペットとわが子を同列に語っていいのか」と驚きましたが、次の瞬間、いや違うこれこそがバイアスだ、悲嘆とは量的質的に比べるものではない、自分の悲しみが絶対値なのだとすぐに気づくところにも自分で驚きました。そのような場であるのですね。

作中より、グリーフ専門士協会代表理事・井手敏郎さん。

講座は女性参加者がほとんどでした。女性のほうが社会的に他者にコミットしやすいのでしょうね、自分が誰かの役に立てるんじゃないかという感覚は女性のほうが強い。まだまだ男性、とくにおじさんの世代は社会の中で個人的な悲しみを他人に話すことにハードルを感じますし、誰かの役に立つだなんてことまで考えず、もっと自分本位です。男の沽券にかかわるとまで考える人もいるかもしれません。でも20代30代の男性はもっと違いますから、いまは過渡期なのでしょう。

 

瀬戸内寂聴先生に中村監督が「言えなかった言葉」と、向き合ったグリーフ

――ここまで伺って、やはり私には、中村監督ご自身が寂聴先生の喪失を癒していく過程だったのだなと感じられました。

そうなのかな、やはり先生が導いてやらせてくださったのかな。先生はご一緒した17年の間、いつも親以上にぼくのことを心配してくださいました。「裕さんは生きるのがヘタだから」なんて、いつもうるさかった。いいんだよ俺はやりたいことやってるんだからって反抗して、「私のことを映画にしてお金を儲けなさいよ」「いやぼくはテレビの人だから」と何度も答えて。

 

生きてる間に映画を見てほしかった。先生が死んじゃったら意味がないんだよね。「なんでこんなとこ撮るのよッ」て怒る先生と一緒に酒を飲みたかった。

 

先生が亡くなってすぐに映画の話が出たけれど、だから当初は全然やる気になりませんでした。でもいろいろな経緯で映画に着手して、17年分の映像を直近から順番に見ていき、目をそらさず先生の愛情の深さを検証しなおす作業をしたことがぼくのグリーフケアになったのでしょうね。

 

最後の取材は亡くなる半年前で、その後も朝日新聞のコラム連載が続いていて、ぼくらしき人物も登場する。ああ、先生は作家として終わっていないなと感じていたのに、コロナが始まって取材に行けなくなり、そうこうするうちに亡くなってしまった。でも、心残りがあるわけではなく、全部やり切ったという思いがあります。そんな中、本作でグリーフケアについていろいろな人の話を聞き、まさに盲を解かれる思いでした。

 

――とくに感情の動いた、思いを新たにしたエピソードはありますか?

池田小学校遺族の本郷さんの体験は、あまりにもひどい、声のかけようもないお話です。ですが本郷さん自身は書籍を2冊書き、グリーフケアの活動も精力的に続けています。

 

悲しみはまだ癒えていないのでしょうが、なんと本郷さんは刑務所でも講演をしています。犯罪被害者遺族であることを隠して講演し、最後に明かすと、受刑者のみなさんがびっくりするそうです。自分たちはあなたの敵みたいな人間のに、なんでわざわざ来て話すんですか?と聞かれた本郷さんは、あるとき「犯人も被害者の一人だから」と答えたそうです。

 

それはもう、表現のしようのないとてつもない話ですよね。不死鳥が火口に飛び込んで再び舞い上がるような、灰になるところまで燃えたところから新しいものが生まれるかのような、そんな筆舌に尽くしがたい思いをきっとされてその境地にたどりついたのでしょう。

 

――どのような方にこの作品を見てもらいたいと感じるのでしょうか。

この質問には昔から「ぼくが決めることじゃない」と答えていました。しかも映画はお金を払っていただき、しばらくのお時間お付き合いいただかねばなりません。

 

でも、敢えて言うならば、いま悲しみを抱えている渦中の人は映画を見に出かけられないかもしれませんから、周囲に元気のない人がいて悲嘆の種を感じる人、また財産を失った、ペットロス、自尊心が傷ついたなどのグリーフの原因を身の回りに感じている人でしょうか。

 

ぼくたちの身の回りにはグリーフの種がいっぱいあるのに、気づかず、向き合わずにすり抜けて生きているところがありますよね。そういうことにちょっとでも気づけると人生がよりよくなると思います。こうした気づきが積みあがっていくと社会全体が寛容になり、SNSですぐバッシングする社会以外の道が開けるのではないかなと思います。

 

――いま愛に満ち溢れている人にも見てもらいたいなと思いました。

そうですね、満たされてるときは分け与えようとは思わないかもしれませんが、愛に満ちているということはその分だけの喪失があるということでもあり、満たされてると思っているときは周囲に目を向けるチャンスかもしれません。そうした、ちょっとした気づきの種になる作品だと思います。

『グリーフケアの時代に』

東京・名古屋・大阪・京都・秋田・岐阜・宮城・大分で上映決定、詳しくはHPを
https://grief-care-movie.com/

 

東京、大阪、京都での舞台挨拶が決まりました!

【ヒューマントラストシネマ有楽町 舞台挨拶】
■12月1日(金)

10:00の回上映後(11:25頃予定)
登壇:中村裕(監督)/ 井手敏郎(公認心理師・日本グリーフ専門士協会代表理事)
日景健貴( 音楽 )
司会: 益田祐美子プロデューサー

■12月2日(土)

10:00の回上映後(11:25頃予定)
登壇:中村裕(監督)/ 音無美紀子(語り)
井手敏郎(公認心理師・日本グリーフ専門士協会代表理事)
日景健貴(音楽)/ 本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)
司会:三山宣美

ヒューマントラストシネマ有楽町:12/1(金)~ 12/14(木)限定公開
住所:東京都千代田区有楽町2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ4F  03-6259-8608

 

【シネ・リーブル梅田 舞台挨拶】
■12月3日(日)

10:00の回上映前(10:00開始予定)
登壇:廣田稔(天外者:総指揮)
鈴木とし子(天外者:共同プロデューサー)
本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)
司会:益田祐美子プロデューサー

シネ・リーブル梅田:12/1(金)~ 12/14(木)限定公開
住所:大阪府大阪市北区大淀中1-1-88 梅田スカイビルタワーイースト  06-6440-5930

 

【UPLINK京都 舞台挨拶】
■12月3日(日)

12:00の回上映後(13:25頃予定)
登壇 :井手敏郎(公認心理師・日本グリーフ専門士協会代表理事)
本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)
司会:益田祐美子プロデューサー

■12月4日(月)

12:00の回上映後(13:25頃予定)
登壇:円純庵(和文化研究家・心学者)
司会:益田祐美子プロデューサー

UPLINK京都:12/1(金)~ 12/14(木)限定公開
住所:京都府京都市烏丸姉小路下ル場之町586-2  075-600-7890

 

【注記】 舞台挨拶につき、 諸事情により変更となる場合はご容赦ください。
当日料金:一般¥1,500(前売り券利用可)/ 詳しくは各劇場ホームページをご覧願います。

 

 

お話/ドキュメンタリーディレクター 中村 裕(なかむら ゆう)

1959年札幌市生まれ。82年早稲田大学教育学部教育学科卒業、ライオン株式会社入社。85年映像制作会社オンザーロード入社、主に龍村仁監督に師事。1994年 フジテレビ NONFIX「先生ひどいやんか!大阪丸刈り狂騒曲」でディレクターデビュー。2000年1月株式会社スローハンドと年間契約、07年フリーランスの映像ディレクターとなり、現在に至る。「情熱大陸」には立ち上げ期から参加、「落語家・立川談春」「俳優・生田斗真」「作家/僧侶・瀬戸内寂聴」など26本を演出。2016年 NHKスペシャル「いのち 瀬戸内寂聴密着500日」ATP賞テレビグランプリドキュメンタリー部門最優秀賞など。

 

 

≪OTONA SALONE編集長 井一美穂さんの他の記事をチェック!≫

 

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