不倫相手を忘れられない…。既婚男性にすがる35歳女性の孤独は(後編)
OTONA SALONE / 2024年4月13日 20時31分
ジェクス ジャパン・セックスサーベイ2020によれば、浮気・不倫経験があると答えた男性は67.9%、女性は46.3%。40代女性の32.9%が「特定の人物1人と(現在も)している」と答えています。婚外恋愛は、決して遠い対岸の火事ではありません。
では、過去に不倫を経験した人たちは、その後どんな人生を歩んでいるのでしょうか。
相手との関係や自身の生活の変化について、女性たちのリアルをお伝えします。
【不倫のその後#9】(後編)
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「不倫慣れ」していた人
咲希の不倫相手だった男性は、本人が言うには「不倫経験者」で、これまでも別の女性と関係を持っていたそうだ。そんな話を女性にあけすけにできる時点で「軽いな」とは感じたが、不毛な関係に慣れている自分を伝えることでつながりに重みを持たせたくないのだろうな、と当時は思っていた。
咲希は、「不倫慣れ」しているからこそ自分との関係も上手に扱ってくれるだろうことを期待した。出会いはマッチングアプリで、彼氏を見つけるはずが口の達者なこの男性とのやり取りに刺激を覚え、気がつけば会う約束を取り付けられていて、初回の待ち合わせからホテルに行っていた。
彼女の飢えを見抜いた彼は… 次ページ
最初から既婚を隠そうとせず、「お互いに同意のうえで」肉体関係を持つ流れを男性は作っており、不倫は世間に知られればまずい関係だと理解していながら、咲希は「この人となら苦しまないだろう」と勝手に思い込んだ。彼氏がほしくてマッチングアプリに登録する30代なかばの独身女性の飢えを男性は見抜いていおり、「堂々と表を歩ける彼氏にはなれないけれど、今すぐに疑似恋愛を提供できる」とサービス精神たっぷりで言葉を送っていた。今までもこうやって相手を見つけていただろうことは、聞いていて簡単に想像ができた。
その結果、ホテルに行くことが前提の約束しか男性とはできなくても、咲希は溺れていったのだ。男性の狙いは肉体関係だけであって、抵抗なく自分と会ってもらうためにそれ以外の時間は甘い言葉を送り続け、咲希の「男性に求められる自分が見たい」という欲求を満たしていった。「好きだ」「かわいい」「会いたくて苦しいよ」「早くベッドの上でめちゃくちゃにしたい」と言われ続ければ、独身で彼氏のいない女性は落ちるだろう。そうやって手のひらで転がすように女性の気持ちを扱う既婚男性は、多く見てきた。
そして、終わりは常に男性側の一方的な決断を押し付けられる形となり、散々好きになるよう仕向けられた女性のほうは、未練に苦しむのだ。咲希もそうやって肉体を堪能された後の倦怠期に差し掛かったところで捨てられていた。不倫慣れしている男性との関係など、どこまでも軽く不誠実さばかりが最後は目立つ。振られてからやっと咲希はその現実に気が付き、未練はあっても追いかけることはしなかったのだった。
それなのに未練が残って… 次ページ
別れた不倫相手への「未練」の正体
「新しい相手がいたりするのかなあ……」
咲希の言葉は、「次の人」がいる可能性が十分に高いと理解しているから出る不安だった。自分と同じように声をかけられ、持ち上げられ、上っ面の言葉に舞い上がってやすやすと肉体を差し出す女性が世の中には大勢いることも、咲希には想像がついていた。
「いたところで、もう関係ないでしょ」
あえて突き放すように言ったのは、まともな関係の築けない既婚男性への未練など無駄でしかない、と気がついてほしいからだった。
「そうだけど……」
咲希は言葉を濁す。考えたところで意味がないと自分でもわかっていても、相手の姿を見てしまったことでその現実の重さが改めてのしかかるのだろうなと思った。
「あのね」
「うん」
「後をつけちゃった」
「え?」
「誰かと一緒かなって、気になって。
でもずっとひとりで、駐車場に向かうのを見て怖くなってやめたの」
これが尾行か、と自分でツッコミを入れて、咲希はふふと笑った。
「……やめなよ、後を追われたって分かったら、あんたが不審人物で通報されるかもしれないよ」
呆れてそう返すと、咲希は「二度とやらないから」と投げやりな口調で答えた。
今の未練の正体は、自分だけがいつまでも忘れられずに相手にはすでに新しい不倫相手がいるという、「置いてけぼり」にあった。相手の「やり方」を知ったからこそ生まれる焦りであって、そこには憎しみも恨みも含まれる。
「前と変わらず調子の良さそうな顔を見たら、腹が立ったのよ」
電話をかけてきたときの落ち込みとは別の重みを感じさせる声色で、咲希は言葉を吐いた。
次の男に会ってみたけれど 次ページ
前に進むことの難しさ
咲希は、この既婚男性と別れた後で何とか別の独身男性と知り合い、デートまでこぎつけたけれど結局は気持ちを育てるエネルギーを持てずに自分から終わりを選んでいた。その「悪あがき」の経験が、余計に今の既婚男性の状態を気にする理由になるのだろうと思った。
独身者同士の恋愛と違い、相手が離婚するまで関係を公にすることもできない不倫は、失恋後も未練を抱えるほうがいつまで経っても成就できない思いに苦しむ。不倫で痛い思いをした女性の多くが次の恋愛では独身男性を選ぶのは、その果てのない絶望を二度と繰り返したくないからだった。
咲希もそうやって続きの見える独身男性との恋愛を望んでいたが、実際はそう上手くいかず、不倫相手との幸せな記憶に翻弄されていた。「今すぐ疑似恋愛を提供できるスキル」が高い既婚男性との不倫ほど、その次の「相手と恋愛感情を楽しむためには時間がかかる普通の恋愛」を受け入れることが難しくなる。これが当たり前だと理解はできても、心がついていかないのだ。
前に進むことは本当に大変なのだと思うのは、本人にその意思があっても「手軽に味わえた高揚と刺激」がもたらす強い幸福感と、それを取り上げられて供給のなくなった心に生まれる虚無感が繰り返し襲うからで、そんななかで根源の人を目にしてしまえば、とんでもない行動に出る自分に違和感も持てないのだ。
過去の不倫相手が「誰と一緒か」を確認するために後をつけるなんて、惨めでしかない。そんな自分を受け取ることが、余計に新しい一歩を阻む。わざわざ言ってこなかっただけで咲希のなかではずっと苦しみが続いていたことを、改めて考えた。
その男に、次の女がいたら… 次ページ
「戻らない」決意
「でもさ」
「なあに?」
ふてくされたように黙ってしまった咲希に、静かに声をかけた。
「その新しい相手もさ。もし、いたらだけど、かわいそうだよね。不倫なんて先のない関係で幸せになれるはずがないじゃん。あんたはもう、そこから抜けたんだからさ」
そう言うと、咲希が息を詰める気配がした。
「そうだね」
「そうだよ」
今できるのは、不毛な関係から脱出してひとりになった現実を正解だと認めることで、「不倫で幸せになれるはずがない」という言葉を受け止めてほしかった。もし今もその既婚男性と関係が続いていたところで、実感のこもらない愛の言葉と実際は肉体だけ求められることの虚しさにはいつか気がつく。
それよりも、ひとりになったからこその自由を、きちんと味わう器が今の咲希には必要だった。戻らない決意は、次の恋愛で正しく相手を見る力になる。不倫でつらい気持ちを経験したのなら、「繰り返さない自分」を受け取ることが新しい自信になる。
「こんな偶然はまあ、これからもあるかもしれないけどさ」
そう言うと、
「本当は、そこにいても気が付かないくらいがいいのよね」
咲希はぽつんと答えた。「そうだよ」とうなずきながら、次はそこに一緒に買い物に行こうと約束した。
「新しい服がほしいな」と言うと、
「そうね、友達と買い物に行くためにおしゃれするのって久しぶり」
と、咲希の落ち着いた声が返ってきた。
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