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「ここ30年で働き方を取り巻く環境は大きく変わりました」変遷期を乗り越えてきた各分野の女性リーダー4名がダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)について語り合う(後編)

OTONA SALONE / 2024年4月12日 11時51分

男女雇用機会均等法の施行は1986年。同年に社会人になった、いわば「均雇法1期生」の女性たちが現在定年を迎えつつあります。あとに続いた先輩方が道を切り開いてきたからこそ、いま私たちは働く環境を享受しているのですが、中でも「役員」のポジションまで進んだ女性たちはいったいどのような荒波にもまれてきたのでしょうか。

入社時に「出世しよう!」と思っていたのか? 当時まだ女性のいない社会でどのように自分の立場を作っていったのか? 各界を代表する女性役員4名にありのままの「これまで」を伺いました。

前編記事につづく後編です。

 

短時間勤務の管理職女性は私が初めてでした

廣松さん 私の転機は、育休が終わり会社に復帰した時でしょうか。最初に営業店を経験した後は本社のクレジット部門の担当になり、その後はだいたい3年ごとに業務内容が変わっていました。20代後半は仕事のことでくよくよ悩むことも多かったのですが、30代以降はそういったことを乗り越えて、とにかく仕事が楽しかったですね。

仕事を通じて自分が解放される感覚だったり、いろいろなアイデアや想いが仕事の中で実現されていくことだったり。他にも、成果が数字になって表れることや、お客さまやお店からの反応一つひとつが楽しくて、達成感ややりがいを感じていました。

そのような状況で、管理職になってすぐのタイミングで妊娠が判明。人事部門の部長から「どうするの?」と言われたことを今でも覚えています。

産休育休を取って、私が職場復帰する際に短時間勤務を申請したところ、社内では「廣松を管理職のままで戻すのか」という話し合いがあったそうです。当時は短時間勤務の管理職はおらず、会社にとってもすべてが初めてのことでした。

しかし、やはりこれからの時代、「子どもがいる人は管理職にはなれない」となったら、女性が上位職をめざさなくなる」と話をされた役員の方がいて、 結局、私は会社初の時短勤務の管理職として復帰しました。

 

――南里さんもおっしゃっていましたが、育児をしながら管理職でいるということは、当時はとても珍しく、また難しいことだったんですね。

 

廣松さん そうですね。私が育休から復帰した後に管理職の女性5人で作る女性活躍推進の委員会が発足し、メンバーとして参加しました。さらに次の年、私は人事部門に異動。異動を希望していたわけではなかったので、その辞令は実はとてもショックだったんですよね。大好きな仕事から引きはがされたという気持ちでしたが、それでも、人事として多く社員からさまざまな話を聞いているうちに、次第に考えも変わっていきました。

「こういう施策が足りない」「こういう施策があればもっと社員が長く働き続けられる」。問題点を見つけては解決に向けて動く、ということをしているうちにこの仕事もどんどん楽しくなってきました。

役員と触れ合う機会が増えて視座が高まったというのも、いい経験でした。

 

コロナの影響でやるべきことが早回しになった感覚はあります

――キャリアを形成していくにあたり、女性であることで苦労を感じたことはありますか?

 

南里さん あります。若手時代、担当の変更でクライアントにご挨拶に行ったところ、そこの中小企業の社長から「女性の担当は嫌だ」とはっきり言われました。そういう方も中にはいらっしゃるとは聞いたことはあったのですが、実際に言われたのは初めてだったので、やはりショックでしたね。

他にも拠点長をやっているときに、ある会社の担当になって2年くらいたってからお客さまに「今だから言うけど南里さんが普通の人でよかった」と言われました。

女性の拠点長と聞いて、カツカツ音のするピンヒールの、お化粧ばっちりで高圧的な女性がくるのでは、と思っていたそうです。でも、実際にやってきたのは、そういうイメージとは程遠い私だった(笑)。女性リーダー=高飛車というステレオタイプの刷り込みがまだまだあるのかと、ちょっと、笑ってしまって。

 

栢原さん 私も同じことを言われました。2020年から3年間、九州支社の支社長だったのですが、私が実際現地に着任するまで、女性支社長に対して現地の得意先も同業である他社の食品メーカーの支社長さん達も同じような怖いイメージを持っていたみたいです。

 

南里さん もちろん嫌なことばかりではなくて、女性であることで名前や顔をすぐに覚えてもらえるという利点もあります。でもそういう固定観念は、なかなか拭うことはできないですよね。

 

田中さん 銀行で言うと、ほんの30年前まで、社内結婚をすると女性の方が退職する、という暗黙のルールがありました。今では社内結婚をしても女性が仕事を続けるのは当たり前です。それを考えると女性活躍に関する30年の進歩はすごいなと思いますよね。

一方で私が気になっているのが、まだまだ長時間労働がなくならない、ということ。実際長く働くことを評価する上司が多いのも事実です。この風土を変えていくためにはもう少し時間がかかりそうだなと思っています。

他にも営業職がどうすれば自宅で仕事ができるのか、なども並行して考えていかなくてはいけないと思っています。

 

 

会社の垣根を超えて、社会全体で大きな輪を作り、回していくことが大切

廣松さん 女性が結婚や出産をしてからも自分らしく働き続けるためには、女性だけではなく男性がどれだけ家庭にコミットするかということも大切になってくると思います。

仕事と家庭の両立、というと女性だけのことのように言われますが、これからは男性もどうすれば両立できるかを考えていかなくてはいけません。

私自身も仕事と家庭が両立できているのは夫が一緒にやっているからなのですが、「廣松さんは、仕事と家庭を両立していて偉いね」と言われることはあるものの、夫は誰からも褒められません(笑)。男性も家庭に関わることがあたりまえ、という風潮にしていきたい。ですので、弊社では「男性の産休(産後8週以内)取得率」や「1か月以上の育休取得率」などをKPIとして公表し、夫婦共に仕事と育児を両立しているかを数値で可視化して追っています。

ただ、一つの会社の中だけでこのような取り組みをしても効果はなかなか上がりません。弊社の女性社員が家庭で育児をしている分、別の会社にいる彼女の夫が長時間働いている、ということになっていては意味がないですから。

 

栢原さん 今回のメンバーでメーカー勤務なのは私だけですが、支社長時代、男性社員に「あなたは1日のうち仕事している時間が長すぎて、結果的に、家庭的責任を負えていないよね?」ということを言うと、「得意先が働いているんだから仕方ない」と反論されることがありました。

でも、お得意先の中にも、早く帰って子どもをお風呂に入れたいと思っている人がいるかもしれないですよね。

そこまで考えて、5時以降はお互い電話をしないという風に、ルールを決めていく必要があると私は思います。

世代が変わっていくうちに自然に変わる部分もあるとは思うのですが、それではやはり時間がかかりすぎ。現役世代の時間を確保するためにも、早急に取り組むべき課題だと思っています。

 

南里さん 一社だけの話ではないんですよね、相互に関連していることなので、会社の垣根を越えてみんなで少しずつ歩んでいきましょうと。そうしないと、いつまでもネジが巻かれません。

このような交流の場で話題にしたり、身近な上司に訴えたり、自分の周辺に働きかけたりしながら、企業同士も公的に連携して進められていけるといいですね。

 

田中さん コロナがあったことで、考え方が加速した部分もありますよね。早く帰ることに後ろめたさを感じにくくなったというか。コロナ禍がよかったとは言いませんが、時計の早回しにはなったと思っています。

 

栢原さん コロナ以前は、あれだけみんな無理無理って言ってたのに、いざとなれば帰れるよねって思いました(笑)。

 

管理職になって自分がやりたいことをどんどんチャレンジしてほしい

――これからキャリアを作っていく若手の読者に向けて、管理職の立場から感じることや伝えたいことはありますか?

 

廣松さん まずは、そもそも管理職に魅力を感じないという人が増えていることに懸念を感じています。管理職=プライベートもなく働かなくてはいけない、どこに異動するかわからない、というイメージを持っている人が多く、マイナスポイントばかりが目立って見えるのが理由だと思います。弊社では今、管理職の働き方改革に着手し始め、意識と行動の両面から取り組みを始めています。

 

栢原さん 弊社でも管理職になることを躊躇する社員は一定数いますね。女性だけではなく、男性も「管理職はやりたくない」という人がいるほど。そのぐらい、現状の管理職の働き方は大きな問題だと思っています。ワークインライフで自己実現するという考え方に応えきれていないですね。

 

南里さん 管理職に限らず、上位職に上がることの魅力が伝えられていないのは残念ですよね。私は、上位職ならではの喜びややりがいもあると実感しています。それは、人材育成だったり、この位置に立たないと見えないものあるということだったり。

他にも、上位職になると自分が若い頃に違和感を感じたことを「やめる」という決断や、時代に合った運営をすることが出来るようになります。私は、子どもがいて長時間労働ができなかったし、やりたくなかった。だから管理職になった今は、長時間労働をできるだけ減らす工夫をしています。

もちろんそのルール作りは独断ですることはありません。ルール変更をみなさんに提案して、一緒に考えて進めることが大事。そうやって管理職が楽しそうに働いている姿を、常に見せていかないといけないと思っています。

 

田中さん 南里さんと同じで、私も管理職になってすぐに「早帰りデー」や「みんなで一斉に休暇を取る日」というものを作りました。もちろん部下全員が賛同してくれたわけではありません。定時で帰ることにまったく意義を感じない、という人たちもいました。

取り組みの本当の目的は、みんなが定時で帰るということではなく、自分の意志で帰りやすい雰囲気を作ることでしたから、この点は成功したと思っています。

 

後輩のスキルが上がったり感謝されたりするとき、管理職をやってよかったなと思う

南里さん 管理職の大きな仕事の一つとして人材育成があると思います。先日、5年ほど前に転勤していった後輩と久しぶりに会ったところ、「南里さんと働いている時にできなかったことが、いまは経験として生きて、できるようになった」と言われました。

何年も前に部下だった方から年月を経て感謝をされると、ぐっとくるものがありましたね。

このように、管理職だからといって、何かを教えてすぐに相手から反応があることはないかもしれないけれど、後輩に少しでも影響を与えられるのはうれしいことですよね。そこは、私のビジネスライフの中の重要なエネルギー源となっている気がします。

 

田中さん 若者が育っていったり、スキルが上がっていったりするのを見るのは本当にうれしいですよね。

 

栢原さん 私から、管理職になるべきかどうか悩んでいる人にかける言葉があるとすれば、何をそんなに躊躇してるの。今までと違う景色が見られるよ!と言いたいですね(笑)。周りから声がかかっている時点で、一定の評価を受けているわけだから、自信を持っていいと思います。

 

南里さん 仮に失敗したとしても、あなただけの責任ではないんですよ!と言いたい。

 

廣松さん 特に女性の場合、「今後、結婚したら、子どもが生まれたら、仕事と両立できるだろうか?」など、まだ迎えていないライフイベントを先取りして不安になる人が多いように思います。これは男女関係なく言える話ですが、不安の先取りは、すごくもったいない。自分で自分にブレーキをかけないで、ぜひトライして欲しいなと思います。

 

 

変革期を乗り越え、新たな時代を切り開いてきた女性役員の皆さんの本音トークは、いかでしたか。今回の対談でも、女性リーダー人材の育成は、女性だけではなく、男性の働き方も含めて変えていくことが大事であること、またこういった女性リーダー育成につながる取り組みは一企業だけではなく、企業の枠組みを超えて取り組んでいくことも必要であるというお話がありました。

 

前編記事>>>>「ここ30年で働き方を取り巻く環境は大きく変わりました」変遷期を乗り越えてきた各分野の女性リーダー4名がダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)について語り合う(前編)

 

経済産業省が実施している施策

企業での女性活躍を推進する取り組みは、政府においても様々に行われています。最後に、その事例として、経済産業省が実施している、「女性のキャリア形成支援」と「男女問わない両立支援」を両輪で推進する「なでしこ銘柄」や、企業における女性リーダーの育成を目的とした施策についてご紹介します。

 

なでしこ銘柄

 

女性活躍推進に優れた上場企業を銘柄として選定し、投資家の方に紹介することで、各社の取り組みを加速化することを目的に経済産業省と東京証券取引所が共同で実施しています。

 

令和5年度は、「共働き・共育てを可能にする男女問わない両立支援」についての評価を拡充し、「採用から登用までの一貫したキャリア形成支援」とともに両輪で進めている企業を「なでしこ銘柄」として選定予定です。その中でも特に「共働き・共育てを可能にする男女問わない両立支援」についての取組が優れている企業を、新たに「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」として選定することで、男女問わないキャリアとライフイベントの両立を推進しています。

 

なでしこ銘柄について:
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/nadeshiko.html

 

 

女性リーダー育成研修「Women’s Initiative for Leadership(通称WIL)」

 

民間企業の女性リーダー人材の育成を目的として、経営者に必要な高い視座の獲得と企業横断的な人的ネットワーク構築の機会を提供することを目的とした研修で、2015年からスタートし、2023年度までに8期のプログラムを実施しました。延べ265人が参加し、受講生から女性役員も誕生しています。

 

WILについて:

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/wil/index.html

 

 

クロスカンパニーメンタリング

 

女性の昇進意欲向上やリーダーシップ向上への後押しを目指し、さらにメンターとなる役員側の意識改革を図ることも目的に、2022年度に実施した企業横断型のメンタリングプログラムです。実施前、参加者のうち昇進を「強く望んでいる」、「望んでいる」と回答した女性は3割弱でしたが、実施後は約7割に大きく増加するなどの成果を上げました。企業や民間団体でも同様にクロスカンパニーメンタリングを実施できるようノウハウをまとめたPLAYBOOK*が公開されています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/wil/R4playbook.pdf

 

≪ライター 皆川知子さんの他の記事をチェック!≫

 

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