恵まれた主婦だったのに不倫に溺れ…。欲望の果てに「失った」その顛末とは(後編)
OTONA SALONE / 2024年4月19日 19時1分
ジェクス ジャパン・セックスサーベイ2020によれば、浮気・不倫経験があると答えた男性は67.9%、女性は46.3%。40代女性の32.9%が「特定の人物1人と(現在も)している」と答えています。婚外恋愛は、決して遠い対岸の火事ではありません。
では、過去に不倫を経験した人たちは、その後どんな人生を歩んでいるのでしょうか。
相手との関係や自身の生活の変化について、女性たちのリアルをお伝えします。
【不倫のその後#10】後編
不倫相手の「誠意」を信じてしまった…。そんな自分への怒り
「もう1年以上経つでしょ、連絡がなくなって」
ひとまずは付き合おうと思い言葉を返すと、
「うん。LINEも電話もブロックされてるし、会社で名前も出ないし、どうなっているのかわからないわ」
ソファに身を投げ出すようにしてゆり子は答える。転勤先の支社に電話をかければ所在の確認はできるが、拒絶の姿勢を見せている自分に対してパート勤めのゆり子がそこまでする勇気はないだろうと男性は思っているのかもしれなかった。
「あーあもう、どうしてあんなに貢いじゃったんだろう」
いつものようにゆり子は大げさに肩を落とす。その姿は、不倫相手の打ちひしがれた様子にすっかり流されて、「逃げられる可能性」をまったく考えていなかった自分への怒りのように感じた。
「ほんと、馬鹿だよね」
「……」
ゆり子が不倫相手にお金を渡していると知ったのは、関係が終わりを迎える気配を感じたゆり子からの告白だったが、あの頃、手を離れたお金が戻ってこない可能性より愛し合った男性が自分を捨てようとしている焦りのほうが強かったのを思い出す。
「あのときは、そうするしかなかったんだよ」
何度口にしたかわからない言葉をもう一度出すと、ゆり子は色のこもらない目でちらりとこちらを見た。
男から甘い言葉をかけられて、ホテル代まで出していたあの日… 次ページ
不倫した彼女の、怒りの裏にあるものとは
「それに、旦那さんにもばれなくてよかったじゃない」
何気ない口調を装ってそう言ったのは、ゆり子が不倫相手に渡していたお金は夫婦で管理している口座からこっそりと抜いたものだったからで、いわゆる「使途不明金」に夫が気づかないまま今も過ごせている幸運を指摘すると、ゆり子は黙るのだった。
「……そうね」
案の定、ゆり子は小さな声で短く返す。自分の稼ぎを差し出しても「まだ◯万円足りない」という不倫相手のために、夫婦のお金にまで手を付けたことへの恐怖と後味の悪さが、ゆり子の怒りを育てる火種にもなっていた。
会社で役職を得ている状態で、「専業主婦の妻が作った借金の返済に困っている」なんて情けない「設定」は、嘘か本当か確かめるすべもないうえに愛情が萎える立派な理由になるだろう。それでも、男性が直属の上司であり毎日顔を合わせる状況で、「君がいてくれるからがんばれるよ」と言われていたゆり子は、事実を知ろうとすることもなくホテル代まで全部自分が負担して逢瀬を続けていた。
関係が終わってみれば、そんな自分がいかに滑稽でまずい状態にあるか、「気にしないで」と言いながらお金を渡していたことを思い出せば相手に返済を迫ることもできず、結局は不倫相手に貢いでいた事実だけが残る。万が一夫に使途不明金について説明を求められたら何と言えばいいか、不倫は終わっても結婚生活は続くのであって、この焦りが常につきまとうのだった。
夫は優しいけど 次ページ
夫は優しいけど…。彼女なりの「穴埋め」は
自分の環境を「恵まれている」と口にできるのは、夫の年収の高さと問題を起こさず日々を送ってくれる子どもたちのおかげともいえるだろう。パート勤務に文句も言わず、その収入を妻が自由に使うことに何も言わない夫は、家事をやって家庭を支えてくれる妻への感謝があると感じる。それに甘えて陰で不倫をして、ばれたら大問題になることをやったのは、ゆり子自身なのだ。
これに懲りずマッチングアプリに手を出し、ふたたび不倫相手を求めたゆり子を見て、縁を切ろうかと考えたこともある。それを留まったのは、現実逃避しないと立ち行かないほど精神的に追い詰められていたゆり子の苦しみを知ったからで、自業自得とはいえ挽回のしようがない現実の重みに潰されそうになる気持ちは、理解できた。
不倫だけでも公にはできないことだが、その相手に夫婦で管理していたお金まで差し出していたなんて事実は、終わってからこそ失ったものの大きさを否が応でも伝えてくる。夫婦としての信用はもちろん、ありえない悪い一線を超えることができるその人間性の低さは、ゆり子自身の自尊心を蝕み、その現実に導いた不倫相手を恨む気持ちはなかなか消えない。
「穴埋めはしているのよ」
とゆり子は続けて、ふたたびカップに手を伸ばした。夫に言わず残業の時間を増やし、得た収入を貯めているのは聞いていた。夫婦の口座に戻せばその痕跡が夫の不審を買うかもしれず、いざとなったら「へそくりしていた」と言い訳ができるよう考えた苦肉の策だった。
「うん、それでいいじゃない、もう」
同じようにシフォンケーキの乗った皿を引き寄せながら言うと、「もったいなかったわよね」とまたゆり子の口から漏れるのが聞こえた。もったいないなんて余裕のある表現は合わないが、転勤の辞令が下りた途端に自分との関係をあっけなく捨てて音信不通にするずるい既婚男性には、自分が渡したお金の価値は高いのだと思いたいのだろうと思った。
人に言えない関係だからこそ 次ページ
不倫の代償は、たいてい…
ケーキも相変わらず美味しいね、と穏やかな会話に戻るゆり子を見てホッとしたが、いっときは見てわかるほど頬がやつれて生気を失っていた姿を思い出すと、不倫に狂って違う道まで踏み外した自分に感じるおそろしさはどれほどのものだったかがわかる。その逃避でまた不倫を選んでしまうほど心は正常さを失い、それでも続けなければいけない家庭に身を置くのは、不倫が人に言えない関係だからこそ苦しみは途方もない。
不倫相手の言葉にほだされてお金などを渡してしまう女性はほかにも知っているが、たいていは「回収」は叶わない。相手は表の世界で自分を追求できない関係とわかっていて求めるのであって、あくまでも女性側の好意や善意となるよう自分の設定を考える。口にする惨めな状況がたとえ事実であったとしても、本当に愛情があるのならネガティブな現実に相手を巻き込むようなことはしないだろう。
渦中にいればそれがわからない。自分が貢がないと、尽くさないと不倫を続けてもらえない状況になれば、相手を好きな側はどうしたって動くしかない。その結果、ゆり子のように最後は奪われて戻るものは何もない自分を目にすることになる。
その後悔を繰り返さない勇気を持てるようになればいいななどと思うのは、第三者の傲慢さだとわかってはいるが、不倫はこうやって終わった後も重い現実を背負わせる関係であって、「選ばない」ことが自分のためなのだとつくづくと思った。
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