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熱中症「梅雨明け前のこの時期がいちばん危険です」死なないためにできることは【医師に聞く】

OTONA SALONE / 2024年7月10日 11時40分

気温がぐんと上がり、熱中症リスクが増加する季節に入りました。

「熱中症は深刻化しており、昨年度は9万人を超える搬送者が出ました。沸騰化している日本で熱中症をなくすのは難しいのですが、せめて重篤な副作用を起こさない状態で済ませるための啓もうをしていく必要があります」

そう語る早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室教授 医師・博士(医学)永島計先生に今年の傾向と対策を聞きました。

 

なぜ熱中症は起きるのか?

「ヒトは産生熱と熱放出のバランスをとることで深部体温を37度に保ち、生命活動を維持しています。体温調節機能が働くには汗が重要。かつ、汗の元になる体水分を常に保つことが体温調節機能、ひいては体の機能の維持のため重要です。汗で体温調節するのはヒトだけではないかと言われているのです」

 

【熱中症対策の3原則】

・暑熱順化 熱くなる前からの準備。暑さに強い体を作る

・水分補給 効果的な水分補給で対水分を維持。脱水を防止

・内部冷却 体温への直接アプローチ。なってしまって体温が上がった時の対応

 

この3つが揃ってはじめて熱中症に備えることができると永島先生。水分補給だけではダメなのでしょうか?

 

「人の深部体温は約37度に保たれています。37度は生命活動に欠かせない酵素が最も活性化する温度で、37度より高温、低温になると酵素活動が保てず脳や体の働きが低下します。熱産生と熱放散のバランスがとれてはじめて、体温調節ができます」

 

夏以外の季節の、たとえば安静+温度中性域(28~31度)の状態では熱バランスをとるための仕組みは強くは働いていません。ヒトにとっての快適な環境とは服を着て軽作業をしていて25度くらいで、体深部の体温37度と環境温度は12度くらい違うものなのだそう。

 

「発汗による熱放散は、100gの汗の蒸発で体温の1度上昇を防ぎます。体温37度で10分歩いた場合、汗が出れば37度を保ちますが、仮に出ないと38度まで上昇します。およそ10分で100g程度の蒸発を繰り返している、と記憶してください。汗腺はもともとすべりどめでしたが、こうして熱放散を助けるようになりました。発汗し、水とナトリウムを失いながら体温調節をするのがヒトなのです」

 

では、その原資となる水分はどのように摂取し、また排出しているのでしょうか?

 

「食物1、飲料水1.2、体内で作られる代謝水0.3、計2.5リットル。ですから、食事をとるのはとても大切な行為です。いっぽうの排泄は、尿1.5、大便0.1、皮膚や呼吸0.9、計2.5。このように、水は常に、かつ動的に失われています。尿だけではなく時々刻々とどこかで出入りしているのです。睡眠497g、通勤340g、長時間座位210g、入浴(41度15分)822gと、意外と損失します」

 

人の60%は水でできています。大まかに、筋肉40%、間質液15%、血漿など5%。つまり、筋肉は水分を貯蓄する場所でもあるのです。女性と老人は熱中症リスクが高いとされますが、その理由も明快。女性は脂肪が多く筋肉が少なく、また高齢者は加齢により筋肉が少ないため、どちらも身体の含水量が減り、結果的に脱水リスクが高まるとのこと。

 

絶句…「頭が痛くなってきた」とき、すでに50㎏女性なら2.5リットルもの水分を失っている

よく「熱中症かもという状態になったんだ」という体験を話す人が、「体が熱くて、頭が痛くなってきて」と表現します。その状態がどのような段階なのかを、失った水分量で並べていくと……

 

■脱水時に現れる症状(初期体重の%水分)

3% 口喝、唇の乾燥

4% 体温上昇、皮膚の紅潮、尿量の減少と尿の濃縮

5% 頭痛、体のほてり

6~7%  めまい、チアノーゼ、高度な口渇、口内乾燥、乏尿

8~10% 身体の動揺、痙攣

11~14% 皮膚乾燥、舌の膨化、嚥下困難

15~19% 排尿痛、目のかすみ、難聴、舌の縮小

20%以上 無尿、死亡

 

驚くことに、頭痛が出た時点ですでに中度以上の熱中症と考えられます。過去にありませんか? 日中暑いところにいて、帰宅してから頭が痛いという経験。なんだか具合がよくないな、という状態をあなどってはならないのです。

 

まだ真夏ではない「梅雨明けまでの間」が熱中症の発生ピークである理由

「水を飲むのは大事ですが、自分の体を強くして、暑さに耐性を付けることも必要です」と永島先生。

 

熱中症とは、暑熱環境や活動によって体温上昇・脱水が起きた結果、体水分バランス・体調節機能が低下し起こります。

 

「脱水で深部体温上昇が起きて、やがて元に戻らない麻痺などの障害、そして死が起きるのがいちばん悪いパターンです。こうも暑いと軽度の脱水は日常茶飯事になりつつありますが、口喝や唇の乾燥、体温上昇などの段階で気づくようにもなります。体水分バランスを保ち、体温調節機能を維持することが重要です」

 

ところが、不思議なことに、7月半ば以降は暑さが続いても熱中症の搬送数は減っていくのだそう。いま、梅雨明け前で気温の上がった時期がピークなのです。

 

「暑さに長くさらられることで、暑さへの慣れが起きるのではないか、と考えられています。暑さが本格化するに従って対策を学習するなど、行動面での対策もあるのかもしれませんが、それらも込みでこれを『暑熱順化』と考えています。問題は、これが翌年またリセットされ、ゼロからのスタートになる点なのです」

 

もうひとつ、それほど知られていないことですが、実は「食べること」でも暑熱順化が可能。運動直後にたんぱく質+糖質を摂取することで血漿量が増加し、体温調節機能が改善され、発汗速度や末梢血管の拡張能力も5日で高まるそうです。高齢者も8週間の継続で改善されるとのこと。

 

「暑熱順化できていても、脱水を起こしたら台無しです。体温調節機能が働かなくなりますから、まずは脱水にならないことが最優先。暑熱順化の際、運動と栄養補給を意識することが、血漿量の増加や体水分を貯蔵しておく筋肉量の増加につながり、体水分のリザーバーを大きくすることも期待できます」

 

水分のリザーバーである筋肉を大きくすることが、案外と重要なのですね。

 

「水を飲まないとならないのはわかるけれど、タプタプしてしまって飲めない」の対策は

さて、熱中症を防ぐために最重要なのは水分摂取ですが、たとえば真夏の炎天下にどうしても畑仕事をしないとならない場合、2リットルのペットボトルをさすがに2本は飲み干しきれなくて、結局は熱中症というようなことも経験しました。

 

「汗が出たらその分は摂取しないとなりません。ブドウ糖とナトリウムが腸管での吸収を高めますが、比率の影響を受けます。また、飲んだらすぐ吸収されるのではなく、小腸から吸収されるのに時間がかかります」

 

つまり、飲み干しきれないのも当然で、いちどに飲んでも吸収できる量には限りがあるというわけです。

 

「糖質量が多い飲料ほど血漿量回復効果が高く、持続もすると考えられます。糖と電解質が入っているイオン飲料は水に比べて血漿量が低下した状態からの回復が速やか。普段の食事で食べている糖、水分でもじゅうぶんですが、急に汗をかくときはこうしたナトリウムを入れることが重要です」

 

「比率の影響を受ける」とはどういう意味なのでしょうか? たとえば、よく知られる経口補水液 「OS-1」はナトリウム濃度がイオン飲料より高いため、熱中症というよりは嘔吐下痢でのナトリウム喪失に使うのが最適なのだそう。

 

「下痢で失われるのは小腸大腸の液体ですが、これらのナトリウム濃度は汗よりかなり高く、血漿の濃度に近い。嘔吐の場合なら胃液がなくなります。同じ脱水でもナトリウムの損失はかなり違うため、その都度補給する飲料を選択していくのも大事なのです」

 

腸管での吸収スピードと水分再充填の効果を考えると、やはり糖質も含まれたイオン飲料が最適となるそうです。

 

この夏は「必ず覚えておいてほしい」内部冷却の方法とは

「もうひとつ、身体の内部から冷やす内部冷却は、使わないとならない場面が出てくるかもしれません。熱中症の最終段階は体温が上がってたんぱく質が変性を起こし、不可逆な脳障害が起きることです。この予防が必須です」

 

アスリートの場合、明らかに体温が上がるとわかっていたら氷を浮かべたお風呂「アイスバス」に身体ごと漬けるそうです。

 

「これは乱暴なようでとても有効。人間は2500kcalの半分以上が基礎代謝で、とても多量の熱を作ります。それが調節できないときは氷に漬けて冷やすしかないんです。よりマイルドな方法は、氷で冷やしたアイスタオルをからだじゅうに巻き付けて扇風機をあてる、水をかける、アイスベストなど。熱中症の症状を出している人に対して何もしないのは絶対にだめ、最低でもクーラーの効いた安全なところへ連れていき、異変を感じたら、アイスタオルくらいはできると思うから迷わずやる。AEDと同じです」

 

もうひとつ、最近知られつつあるのが内部冷却です。

 

「消防士など、汗をかいてもまったく蒸発のない防護服の現場では、凍った飲み物を体内に入れるアイススラリーを取り入れています。冷たい氷を飲ませ、食べさせて、休んでいる間にちょっと早めに体内から冷やすのです」

 

記録的な猛暑がすでに始まった今年の夏、どうか対策は万全に。

 

 

 

 

お話/早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室教授 医師・博士(医学)永島計先生

ながしま・けい 1960年生まれ。85年京都府立医科大学医学部医学科卒業、95年同大学大学院医学研究科(生理系)修了。同大学附属病院研修医、米イェール大学医学部ピアス研究所ポスドク研究員などを経て現職。専門は生理学、とくに体温・体液の調節機構の解明。

 

≪OTONA SALONE編集長 井一美穂さんの他の記事をチェック!≫

 

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