別れた不倫相手と、職場で再会して…。アラフォー女性の取った行動は(後編)
OTONA SALONE / 2024年5月24日 19時1分
ジェクス ジャパン・セックスサーベイ2020によれば、浮気・不倫経験があると答えた男性は67.9%、女性は46.3%。40代女性の32.9%が「特定の人物1人と(現在も)している」と答えています。婚外恋愛は、決して遠い対岸の火事ではありません。
では、過去に不倫を経験した人たちは、その後どんな人生を歩んでいるのでしょうか。
相手との関係や自身の生活の変化について、女性たちのリアルをお伝えします。
【不倫のその後#14】後編
過去の不倫相手が「仕事相手」として現れたが… 次ページ
過去の不倫相手が「仕事相手」として現れたが…
「……でもさ、もし会社の人がふたりの過去を知っているなら、その人をメンバーに入れることはしないんじゃない?」
「……」
「そんな問題のある社員をわざわざ加えるとはちょっと思えないけどね」
その取引先は、県内では大手とはいえなくても長い歴史のある会社で知名度は決して低くはなく、たとえば日向子がこの男性の過去の不倫相手とわかった段階でまずメンバーから外すのではないか、という予想はあった。新しい火種を生む可能性を放置することは、まともな会社ならしないだろう。
「そう……だよね」
低い声のまま、ようやく日向子の声に落ち着きが戻った。過去のふたりの記憶に縛られて、特に自分について悪い印象を相手は持っているに違いないと思うと、どうしても視野が狭くなる。
プライベートなことではなく、これは「仕事」なのだ。その正しい割り切りを持たないと、かえって周囲の不審を買う振る舞いに出る。日向子の動揺の激しさを感じていると、気持ちは理解できるが慎重な行動こそ今は肝心なのだと強く思った。
バレる恐怖に我を忘れそうになり… 次ページ
バレる恐怖に我を忘れそうになり…
日向子は仕事熱心な女性で派遣先では常に引き止められるような場面を繰り返しており、何度か「派遣じゃなくてどこかの会社で正社員になればいいじゃない」と伝えたことがある。ソフトを使いこなして要望を形にしてみせる速さや正確さは、実態を知らなくても報告だけで十分理解できた。
だが、日向子は「正社員だと異動があるし、そればかりはできないかもしれないから」と自分なりにリスクを想像していて、派遣ならそのスキルをずっと活かせて働けると言っていた。派遣の期間は常に半年以上で福利厚生も一応は確保されており、そこに居着かないことで「人間関係のしがらみからも解放される」と、自分の働きやすさを常に優先する姿勢があった。
だから派遣先では常に腕の高さを認められるが、今回のようにプライベートの「不祥事」が深く関わってくることは初めてで、それが日向子を混乱させていた。不倫は人からそしられる関係であって、これが席のある今の会社や派遣の登録会社に知られたら、日向子の立場は一気に悪いものになる。その恐怖が、毎朝オフィスに足を踏み入れた瞬間に「部長に呼び出しをくらう自分」を想像させ、日向子の思考から正常さを奪っていた。
「仕事の人格を忘れたらいけないよ」
きつい口調だと自分でも自覚しながら大声でそう言うと、日向子は「えっ?」と驚いたように声をあげた。
「本当のことがどうであれ、与えられた業務を遂行するのがあんたの役目でしょう。公私混同しちゃいけないよ、それが会社なんだから」
そう続けると、日向子がはっと息をのむ気配がした。仕事の人格を正しく育ててきた日向子には、ヘタな慰めより叱咤のほうが今は効くのだ。
過去の不倫が、今の生活に… 次ページ
その不倫相手が、仕事に与える影響は
「その人がメンバーにいることが、あんたの仕事にどう影響するんだい」
と言っても、日向子は黙ったままだった。おそらく、「仕事の人格」という言葉から現実を客観的に考えようと頭を回転させているのだ。
「過去はもう仕方ないよ、変えられないでしょ。それはお互いさまよね、向こうだって知られたら相当まずいリスクがあって、自分の仕事に影響させるほど馬鹿じゃないと信じたいよ」
日向子を励ます意図ではなく、これが客観視した現実だった。いい年をした社会人でしかも結婚している男が、過去の不倫相手が取引先に登場したとして大騒ぎするだろうか。見栄もプライドも人並みにある男ほど、こんな事態に遭遇しても素知らぬ顔で自分のやるべきことに集中するはずだった。
「そうだね……」
日向子の声は小さくなる。動揺して騒いでいるのは自分のほうで、相手がどうかはどこまでも想像でしかない。その状態に、気付いたのかもしれなかった。
「お互いさまだよね」
「うん」
力強くうなずくと、日向子はふうと息を吐いた。過去が今の自分にどう影響しようと、背負うしかないのだ。
「知らん顔して図面出してればいいじゃん」
と言うと、やっと日向子がふふっと笑った。
「うん、あの女がこれを引いたのかってびっくりするかもしれないけど」
事務員と伝えていた自分の「本性」を知られることは、日向子にとって臆する事態ではなかった。これが日向子の本来の姿なのだから。
「結婚している男って、こんなにずるいのかと思う」彼女の本音は 次ページ
過去の自分と向き合う勇気
この男性と不倫関係にあるとき、日向子が「結婚している男ってこんなにずるいのかと思う」とつらそうに漏らしたことがある。若い頃に婚約で失敗し、それから普通のお付き合いに背中を向けることが多かった彼女は、不倫という不毛な関係を手にしてふたたび、男性不信に陥っていた。
別れを選んだのは、既婚男性のいいように存在させられる自分に「本当に嫌気が差した」からで、別れ際にひどい言葉をぶつけたとしても、それが本音だった。ただ、みずから選んだのにそれを棚上げしていることへの不甲斐なさも、日向子には確かにあったのだ。
だから今回のような現実が襲ってきて、「駄目な自分の過去」が一気に日向子の心をむしばむのだろうと思った。自分さえ忘れれば済むはずだった過去の不祥事が、大好きな仕事に関わるなんて状況は、まともな精神を保っていられない。だからこうやって人に不安をぶつけるのだ。
それでも、不倫は「悪いのはお互いさま」だからこそ、今の現実に持ち込まないのが自分のためなのだ。仕事ならやるべきことが決まっているのは救いで、知りようがない相手の思惑に一方的に振り回されて「下手を打つ」ほうが、今の日向子にとってはまずいのだ。
不倫の影響は、こうやって終わった後でどこに出るかわからない。改めてそう思ったが、過去を悔やんでも仕方ないし乗り切るしかない。どれだけつらくても、自分が選んだことの結果が今なのだ。
「あんたは大丈夫だよ、できる女だから」
そう言うと、
「ありがとう、知ってる」
と、スマートフォンの向こうから笑い声が聞こえてきた。
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