平安貴族の「脱毛」事情とは?平安時代が令和に負けず劣らずルッキズムの時代だった理由とは
OTONA SALONE / 2024年6月3日 18時1分
*TOP画像/道長(柄本佑) 明子(瀧内公美) 大河ドラマ「光る君へ」22回(6月2日放送)より(C)NHK
『光る君へ』ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は平安時代の「美容・脱毛」について見ていきましょう。
▶この記事の前編 を読む▶『謎に包まれた新キャラが登場。ミステリー小説のようになってきた!光雅(玉置孝匡)や周明(松下洸平)の正体は⁉【NHK大河『光る君へ』#22】』
時代ごとに異なる女性の美的規範。多様性をうたう令和にも「時代が求める女性像」がある現実
女性の美的規範は時代ごとに異なります。筆者の記憶に新しいのは『Ray』(主婦の友社)や『CanCam』(小学館)の黄金時代、2010年頃です。
当時におけるこれらの雑誌に登場する女性たちはブラウンのロングヘアをきれいに巻き、アプワイザーリッシェやレッセパッセなどのフェミニン系ブランドの洋服を上品に着こなしていました。
令和においては多様性が認められ、ファッションにおいてもジェンダーレスを取り入れたデザインが人気で、女性の服装もカジュアル化しています。
とはいえ、令和はこれまでにないくらいルッキズムの時代といえるのかもしれません。垢抜けるには「脱毛」「歯科矯正」「ホワイトニング」「パーソナルカラー診断」「眉サロン」などが必須といった意見もありますが、これらすべてをクリアするにはお金も時間もいくらあっても足りないですよね。
令和の女性はプチプラファッションや雑貨を好み、足元はスニーカーであっても、現代における美の規範に従うためにお金や時間を意外とかけている傾向にあります。
女性たちがルッキズムや美的規範に振りまわされ、ムダ毛処理に力を入れるのは現代に限らず、いつの時代も同じなのでしょうか。以下、平安時代における女性の美的規範や脱毛事情を見ていきましょう。
平安貴族の女性には「美しさ」が求められていた。「私、美容に興味ないっす」では許されない事情とは?
前述のように現代社会はルッキズムの時代ともいわれています。とはいえ、美容やファッションにお金や時間をかけているのは美意識の高い方やファッションに関心がある方などに限られています。なんだかんだ言われていますが、美容やファッションにほどほどの関心をもって暮らしている女性の方が多いのではないでしょうか。
しかし、平安時代は違いました。
平安貴族の女性の役割といえば、帝や上流貴族と結婚し、子どもを産み、家を繁栄させることです。
当時は婿取婚が一般的な時代。妻の実家が夫の生活費などを賄っていたため、男性側は妻とする女性に対して実家の経済力、および父の地位を重視していました。
とはいえ、本人にも和歌などの芸事の才、さらには外見の美しさを求めていました。「あそこの家の娘は美しいらしいぞ!」と評判になれば妻を探している男性の耳にもだいたい入りますので、求婚を前提に訪ねてきたり、文をよこしてきたりします。
また、帝に寵愛され、夫婦の夜の営みをしてもらえるかどうかも「美貌」が決め手になってきます。
さらに、女性は子どもを産んだ後も気を抜けません。帝の関心が他の女性に移らないようにするには美しさを保つ必要があります。
平安貴族の女性たちには「外見に興味がない」「化粧も髪の手入れもめんどくさい」ではすまない事情がこのようにありました。
当時の医学書『医心方』にはしみやそばかすの治療法についての記載があります。卵白とバラ科サクラ属の落葉小高木スモモの種子の中の仁がそばかすに効くと考えられていました。また、米がもつ美白効果もすでに知られていました。
女性の美しさは顔よりも髪と考えられていた平安時代、貴族の女性たちは長い髪を垂らしていました。この髪の扱いが大変だったろうと察せるのです。髪を耳にかける行為は「耳挟み」と言われ、品位に欠ける行為としてみなされます。また、髪を結ぶ姿は労働者階級(庶民)をイメージさせるため、卑しさと結びついていました。さらに寝るときは、髪を打乱箱(うちみだりのはこ)に入れ、乱れないようにするという徹底ぶり。
いつの時代においても女性は時代における美的規範を意識し、時間や手間をかけていたのですね。今でこそ、女性らしい外見をつくりこまなくても生活に支障が出ることはほとんどありませんが、時代における美的規範に必ず従わなければならなかった平安貴族の女性たちは大変だったことでしょう。
美意識の高い平安貴族たち。平安貴族の女性も「脱毛」をしていた
平安貴族の女性たちも脱毛をしていました。ただし、金属製の毛抜きを使って額の毛を抜いたり、眉毛を整えたりする程度。
清少納言も金属製の毛抜きを使っていました。『枕草子』において「ありがたきもの」の1つに、「毛のよく抜くるしろがねの毛抜き(毛がよく抜ける銀製の毛抜き)」が挙げられています。この記述には当時における毛抜きの貴重さがうかがえます。
ただし、平安貴族にとって顔以外の部位の毛は脱毛の対象ではなかったと思われます。他の部位のムダ毛の処理にも関心が向けられるようになるのは江戸時代以降です。江戸時代の遊女たちから少しずつ広まったといわれています。
参考資料
大塚ひかり『くそじじいとくそばばあの日本史 第 1 巻』ポプラ社 2020年
砂崎良 (著), 承香院 (監修)『平安 もの こと ひと事典』朝日新聞出版 2024年
吉澤秀和 (監修)『お医者さんが教える 知らないとソンする!本当にキレイになれる脱毛の話』クロスメディア・パブリッシング(インプレス) 2020年
≪アメリカ文学研究/ライター 西田梨紗さんの他の記事をチェック!≫
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