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更年期世代も「まだ恋愛をする」理由とは?脳の仕組みから考える「極めて明快な理由」【脳科学者・黒川伊保子先生に聞く】

OTONA SALONE / 2024年6月29日 20時0分

「婚外恋愛」「セカンドパートナー」など、従来の夫婦・家族のあり方とは違う関係性を指す言葉が知られるようになりました。国内では引き続き3組に1組以上が離婚し*1、1カ月以上夫婦間で性交渉がないと答える「セックスレス」の割合も64.2%*2と増加が止まりません。いっぽうで育児が一段落する50代以上の再婚率は上昇基調にあり*3、もしかすると婚姻・恋愛に関してだけは「やり直しのきく社会」が実現しつつあるのかもしれません。

 

オトナサローネは共同親権・女性躍進などと並行して「超少子化・人口減社会に於ける家族のかたち」を考えています。その入り口として、人気の高い記事群「不倫問題」にフォーカスし、そもそも不倫とは何であるのか、どうして起きることなのか、なぜみんながこれだけ記事を読むのかその背景を真剣に考えたいと思っています。「にもかかわらず少子化」だからです。

 

シリーズ1回目は、国内の人工知能研究のパイオニアであり、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』など脳機能解説を多数執筆する脳科学者・黒川伊保子先生にご登場いただきます。「なぜ人は不倫をするのか」、脳の仕組みから読み解いていただくと、そこには意外な結論が。

 

【家族のかたちを考える#1 脳科学者・黒川伊保子先生】

 

人はなぜ「パートナー以外」を必要としてしまうのか? 脳の仕組みについて教えてください

――生涯添い遂げるご夫婦がいらっしゃる一方で、離婚をする人、また婚姻を継続したまま他のパートナーを探す人もいます。このうち、いわゆる「不倫」とはヒトの脳の仕組みから見た場合、どういう必然性があって起きるのでしょうか。

生物の種の繁栄は、遺伝子の多様性にかかっています。たくさんの遺伝子の組み合わせを残しておけば、あらゆる環境に適応して、子孫が生きていけるからです。

 

このため、脳には「できるだけバリエーション豊かな生殖をしたい」という本能があります。

 

一人の相手とでは、それほどバリエーションは作れないでしょう? だから、たった一人の相手にフォーカスできないのです。癌に強い遺伝子も、細菌に強い遺伝子も、農耕に長けた遺伝子も、狩りに長けた遺伝子も欲しいから。

 

――遺伝子を残すという生物的な視点で見た場合、「生殖の有利さ」で説明がつく、ということなのですね?

はい、多様性は、すべての生物にとって繁栄の基盤です。そして、雌雄でつがう動物は、相手を変えることで多様性を容易に上げることができる。

 

ただし、その論理にのっとっても、浮気しないメスが時々います。それは、彼女が生きる環境において、彼女のパートナーが最も免疫力が高いケース。

 

動物行動学の竹内久美子先生によれば、ツバメはペアの阿吽の呼吸で巣作りするので、容易にはつがいを変えないのですが、その巣の中には、その周辺の他の雄の遺伝子の卵が混在してるのだそう。つまり、オスもメスも浮気してるわけですね。

 

さらに興味深いのは、そのコロニーで最も尾が長く、2つに分かれた尾先の左右バランスがいいオスは、どの巣にも彼の遺伝子を擁した卵があり、彼のパートナーの巣には彼の卵しかないということ……!

 

ツバメの場合、尾の長さと、その左右バランスの良さが、免疫力の高さに比例していて、ツバメのメスは、左右差のない長い尾のオスを「イケてる」と感じ、浮気しちゃうわけですね。けど、その際に、自分のパートナーよりイケてない相手は選ばない。かくして、そのコロニー全体の免疫力が上がっていくというわけ。脳というシステムは、本当によくできていると思います。

 

――ツバメと人類を同じ論理で考えても問題はないのですね? 差異もあるのではと思います。

振り返るに、巣作りと子育てににコストも時間もかかる人類もよく似たシステムのはず。理性によって行動をセーブしたり、浮気する度に子どもを作るわけじゃないというだけで。

 

ちなみに、パートナーの免疫力が「メスの行動範囲内」で最も高い場合にメスは浮気をしないわけですから、行動範囲の狭いメスは、浮気の確率が低いということになりますね。

 

40年ほど前、女性の社会進出が加速した頃、「妻は専業主婦にしとくものだ。社会に出したら、浮気なんかして始末に悪い」と口に出す中年男性が多くて辟易したけど、あれは案外、真実だったのかも。まぁ、女性の立場から言わせてもらえば、「夫が十分イケメンなら、安泰なんだけどね」。ちなみに人類の場合、顔と身体だけじゃない、言葉や心根でもイケメン度は上げられます。

 

なお、オスは、相手の免疫力にメスほどこだわらないので(数を稼げるから)、メスよりも浮気心を抱く機会は多くなります。

 

婚外恋愛=不倫とは、脳科学的にみてどのような状態なのでしょうか?

――浮気という言葉が出ました。浮気というのはある意味「確定的に起きる状態」なのですか?

恋は永遠ではありません。なぜなら、生殖に至れない相手に一生フォーカスしていたら、生殖機会を逸してしまうから。人類の場合、「何をしても愛しい」というアバタもエクボ期間は、長い人でも3年ほどのようです。

 

このため、私は、可能ならば、「交際1年以内に結婚を決め、交際2年以内に結婚し、交際3年以内に懐妊する」のを推奨しています。それを過ぎると相手への不満が募るから。

 

さて、結婚しても、要は同じこと。この春、話題になった韓流ドラマ『涙の女王』でも、結婚3年目で冷めきったカップルが主人公でした。子どもを持たないまま、共働き夫婦でいると、同志感や友情に転じてゆき、やがて、婚外の誰かと恋に落ちる可能性は十分にありますね。

 

それと、先にお答えしたように、子どもを持った後は、脳が「さらなる別の遺伝子」を求めるので、これまた、婚外恋愛に陥る可能性高し。動物の生殖システムにおいて、浮気は想定内ということになります。

 

「なぜ」不倫が起きるんですか? 言われてみれば、理由はシンプルな…!

――つまり、婚外恋愛=浮気はある意味、避けられない? でも、仕組み的にはNGですよね。にもかかわらず、なぜ起きるのでしょう?

それは、一夫一妻制の結婚制度があるからでは? 本来、人類の生殖スタイルは、平安時代のような多夫多婦制のはず。それを一夫一妻制にしばったから恋が不倫と呼ばれてしまうだけで、恋する気持ち=「脳の、よりよい遺伝子を求める本能に基づく情熱」には、独身も婚外も関係ありません。

 

ただし、その情熱に身を任せていいかどうかは、また別の話。というのも、人類のオスには生育責任があるからです。

 

人類の生殖リスクは、動物界最大。生まれて1年以上歩かないなんて人類だけ。脳が発達した人類は頭も大きいのでお産のリスクが高いし。このため、メス単体では生殖の完遂は難しく、オスの生育責任もまた、人類の生殖の仕組みの一環です。

 

生育責任の範疇を超えて、遺伝子をばら撒こうとするのは、結果、合理的でないはずです。

 

性別や世代などで不倫に対する脳の違いがありますか?

――こうした判断は、若い人でもシニアでも同じような原理原則に基づいているのでしょうか?

50歳過ぎて、生殖能力が落ちてくると、想念の恋になってくるので、生殖本能に基づくそれに比べて、衝動については、おだやかになるはず。ただ、しみじみと相手を思うようになるので、根が深いかも。

 

――男女ではどうでしょう、違いはありますか?

男女は生殖の仕組みが違うので、浮気のありようも違います。

 

女性は、妊娠・出産・乳児期の子育てにおいて、一人の相手にフォーカスしたほうが安全性が高いので、恋に落ちて最初の生殖サイクル(人によって違うけど2〜3年)は、一人の相手に集中します。それを脱したころ、目の前に、より免疫力の高い遺伝子の持ち主が現れると心が動き、恋に落ちることも大いに考えられます。

 

その場合は、今の相手に最初に向けられていたような情熱を、次の相手に集中します。つまり、心理的には、完全に乗り換えます。

 

女性の浮気は浮気じゃない、次の本気に移っただけ。ただし、ツバメと同様、生活のパートナーは容易には手放せないだけです。

 

男性の場合、生殖はセックスで終了ですから、一人に集中する理由があまりありません。生育責任が果たせる相手の数には、人それぞれ限度があると思いますが。このため、複数の相手を、同等に愛せることもあります。

 

ちなみに、男女とも、年齢や健康状態によって脳自体が生殖に積極的でないときには、おだやかに一人の相手に寄り添えます。

 

――つまり、生殖時期が終わったあと、女性でいえば閉経の後は、パートナーに対する気持ちはそれより前とは変わり得る。それは脳科学的に仕方ないのだということなのでしょうか。

とはいえ、人類は本能だけで生きる動物ではありません。恋に賞味期限があっても、思いや記憶を共有できる相手、悲しみをユーモアで癒してくれる相手、苦しみを笑顔で癒してくれる相手を人は手放せないのです。

 

そういう大切な人を守り抜くために、浮気な恋に手を出さない人も、たくさんいます。浮気は、生物多様性の論理に則った必然の仕組みですが、全ての個体が浮気に走るわけではないこと、そう努力できることは言い添えておきたいと思います。

 

――黒川先生、本日はありがとうございました。

 

お話/黒川伊保子先生

株式会社 感性リサーチ 代表取締役社長 人工知能研究者、随筆家。人工知能エンジニアとして自然言語解析の現場に早くから従事し、1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピュータの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。やがて、男女で「とっさに使う脳神経回路」の初期設定に大きな違いがあることをつきとめる。『恋愛脳』『夫婦脳』など脳科学本を経て、2018年には『妻のトリセツ』がベストセラーに。以後、数多くのトリセツシリーズを出版。

 

*1 令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況 特殊離婚率(離婚件数÷婚姻件数)38.7%

*2【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2024

*3 e-Stat 人口動態調査 人口動態統計 再婚 2015年と2022年の比較

 

 

≪OTONA SALONE編集長 井一美穂さんの他の記事をチェック!≫

 

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