政略結婚は「お金持ちの娘」の宿命⁉ 平安時代、幼いころから親と離ればなれは普通だった?【NHK大河『光る君へ』#26】
OTONA SALONE / 2024年7月1日 22時0分
*TOP画像/倫子(黒木華)大河ドラマ「光る君へ」 26話(6月30日放送)より(C)NHK
紫式部を中心に平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第26話が6月30日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
時代に翻弄される女たち…実権を握る者の娘として生まれた女が背負う苦労
安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の予言のとおり都では災害が続き、多くの人たちが命を失いました。道長(柄本佑)は水にのまれ、建物の下敷きとなり100人以上が命を失った現実に心を痛めます。
こうした危機の最中、道長は天変地異をおさめる方法を安倍晴明から告げられます。
安倍晴明によると、帝のお心の乱れがおさまれば天変地異は収束するといい、それには左大臣の一の姫・彰子(見上愛)を入内させる必要があるといいます。
道長は彰子の引っ込み思案な性格や口数の少なさを理由に娘の入内に否定的ですが、内裏を清めるために娘を入内させることに心を決めます。
道長は姉・詮子(吉田羊)に娘の入内について相談しますが、詮子は姪である彰子が厳しい境遇にあることを察しながらも入内に肯定的です。
安倍晴明が言うように入内は彰子の宿命ですが、詮子は入内を彰子の使命として考えています。詮子は「子供であろうともそれが使命であればやり抜くでしょう」と道長に助言します。
思い返すと、詮子自身も自分のためではなく、家のために翻弄されてきました。家の繁栄のために入内したものの父・兼家(段田安則)に裏切られ、夫・円融天皇(坂東巳之助)からも寵愛を受けられず孤独を抱え、数多くの涙を流してきました。
詮子は当時の権力者の娘として生まれた宿命を受け入れ、自分の意思とは反することであっても時の流れに従って耐えてきました。彼女は世の定めをよく理解していると考えられます。実権者の娘として数々の苦悩を経験してきた詮子は、彰子に対しても自分の使命をまっとうすべきだと考えているのです。それこそが、貴族の女性として生まれた女性の使命だから。
倫子の母としての強さ。娘の宿命を受け入れ、共に背負う意志を表明
倫子(黒木華)は貴族社会の規範やルールを理解しているものの、父・雅信(益岡徹)から何かを無理強いされたり、詮子のように出世のために利用されたりしたことはなく、当時の貴族女性としてはのびのびと育ってきました。
道長は彰子の入内をまもなくして決めますが、倫子は自身の生い立ちも関係しているのか母として娘の宿命を嘆き、我が家にこれまでどおり置いておきたいと考えます。
道長から「続く天変地異を鎮め世の安寧を保つためには彰子の入内しかない」と聞かされると、彼が正気であるのか疑いつつも、反対します。
「嫌でございます。あの子には 優しい婿をもらい 穏やかに この屋敷で暮らしてもらいたいと思っております」
母親が娘に願うことの根本はいつの時代も同じなのだと考えられます。倫子は彰子に女子(おなご)として高い地位を得ることよりも、朝廷のために犠牲になることよりも、将来的に優しい婿と一緒に穏やかに暮らしてもらうことを望んでいます。
現代でも娘が女として高い地位を得ることよりも、穏やかに暮らすことを望んでいる母親は多いと思われます。どの時代においても母親の心は同じなのかもしれません。
しかし、倫子は母・穆子(石野真子)から助言を受け、道長の左大臣としての覚悟を知る中で、自身も肝を据え、娘を入内させることに同意します。倫子の「気弱なあの子が 力強き后となれるよう私も命を懸けまする」という台詞には、平安時代という厳しい時代を生き抜いてきた女としての強さ、そして母としての強さが表れています。
時代に翻弄されるのは弱き女です。抵抗できない女たちは人知れず涙を流すこともあります。しかし、彼女たちは自分の宿命を受け入れ、それを果たす中で男以上に強く、たくましくなることさえあるのです。
彰子は親から愛情を注がれて育った姫君です。また、彼女は道長が幼い頃のようにおっとりしていて、出世欲もなさそうで、純粋な印象を受けます。道長と倫子の娘である彰子が一条天皇(塩野瑛久)とどのような関係を築き上げていくのだろうか。
【史実解説】伊勢神宮の神さまにお仕えする若き姫たち
飛鳥・奈良時代から約660年にわたって、天皇が交代するたびに斎王(さいおう)が選ばれていました。
伊勢神宮の神さまにお仕えする斎王は天皇の子どもや孫(未婚の女子)の中から占いによって選ばれます。最年少の斎王は2歳と伝わっており、小学生くらいの年齢の女子が選ばれることも多くありました。
斎王に選ばれた女子は俗世界から離れる必要があります。家族と別れ、200人前後の従者とともに斎王群行と呼ばれる旅に出ます。
斎王は斎宮で生活し、世の中の平和を願うことを日々のつとめとします。伊勢神宮で催されるお祭りには年に3回参加しました。
余暇には都で暮らす貴族の女性たちと同じく、貝合わせや盤すごろくで遊んだり、和歌を詠んだりしていたそうですよ。
都に戻った斎宮の多くが静かに余生を過ごしたと伝わっています。結婚した人や尼になった人もいます。
『光る君へ』では道長の娘・彰子の入内が内裏や都で暮らす民のために決まりましたが、史実においても年若くして住み慣れた場所を離れ、世のために自身の使命をまっとうする女たちがいたのです。
▶つづきの【後編】を読む▶平安貴族たちの出産・育児がよくわかる、『子どもは欲しいけど「出産はけがらわしい」ものだった。授乳も夜泣きも、ぜ~んぶお任せ。平安貴族がうらやましい⁉』__▶▶▶▶▶
参考資料
≪アメリカ文学研究/ライター 西田梨紗さんの他の記事をチェック!≫
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