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「オワコン日本」なんて日本をサゲたら儲かる奴が言ってるだけ、「最先端の超高齢国家」の意外なコレが富を生む(後)

OTONA SALONE / 2024年7月22日 20時1分

いま更年期の世代の人たちの10人に1人が100歳まで生き、子どもの世代は5人に1人が100歳を迎えると推測されます。

「生きたい、生きたくないに関わらず、現実にあなたがたはもっと長生きするんです」、こう語るのは、近畿大学アンチエイジングセンター 教授の山田秀和先生。

抗老化医学の先端を走る山田先生に、なぜそんなにも長生きが実現するのか、そして超高齢の日本が「とるべき意外すぎる道」を伺いました。

どうして「老化」が起きるのか? ついにその鍵となる事象が見つかった

「60歳から測定をスタートしたとして、20年後の80歳のとき、生物学的年齢が70歳ならば老化速度が半分に抑えられ、10歳若くなっていると解釈できます。この競争が始まったため、科学者・医学者が一斉に『生物学的年齢で世界を捉える考え方もありだな』とスタンダードを変えたのがこの3年です。生まれてから何日経過したかの『暦年齢』を見ずにその人の年齢を算出しましょうというのが『エピジェネティック・クロック』、つまり『生物学的年齢』の考え方。これには『DNAのメチル化』というキーワードが深く関与しています」

 

これらの抗老化研究は、もともとはノーベル賞受賞者・山中伸弥先生のiPS細胞の研究がベースになっているのだと山田先生。

 

「日本ではiPS細胞から臓器を作るほうに研究が進みましたが、海外には同じ概念を用いて『細胞を山中ファクターに投入すれば本当に細胞年齢が0歳になるのか?』という実験を始めた研究者がいました。そのうち『DNAメチル化時計』という概念が登場しました。これは本当にすごいことで、並んだゲノムにメチル化という変化が加わるだけで年齢が変わるだなんてこと、誰も考えつかなかった」

 

できるのかもしれないと考えた研究者が全ゲノムのメチル化計測を行いました。横軸に暦年齢、縦軸にメチル化パターンを置いて、相関係数が0.85以上になるセットを探せとAIに指示、すべてをチェックしたところ、なんと353個の2塩基配列(CpG)の組み合わせの時に0.85を越えました*1。つまり、353個のCpGがDNAメチル化時計に深く関連していることが示唆されたのです。

 

「そんなうさんくさいこと(笑)、当時の日本では誰も信じませんでした。でも、私は2018年に日本に米ハーバード大学大学院のデビッド・A・シンクレア教授を呼ぶために勉強する機会があり、どうやらこれは今後とても重要になるぞと気づきました。やがて教授が緑内障のネズミの目を疾病前の状態に戻し始めて。とんでもないことが起きた、ああそうか、老化ってひょっとしたらDNAのメチル化が関係してるのかと、やっとみんなが気づき始めたのがここ2年ほどのことです」

 

ここで簡単に「DNAのメチル化」について。DNA は情報だけを持つ存在で、その情報をもとに RNA が特定のアミノ酸配列を持つタンパク質を合成し、私たちの体のさまざまな細胞を作り出しています。DNAの二重らせんがいちどほどけてメッセンジャーRNA(mRNA)に転写されるため、DNAはほどけないとならないのですが、メチル化が起きるとほどけなくなってしまいます。この、タンパク発現に関わる遺伝子のスイッチは約2万3000個ほどあると考えられており、それらがその人の生物学的年齢を支配している可能性が高いのだそう。まだまだ解明中の分野です。

 

「ゲノムの調節機構は、まだわかっていない部分が多いのです。DNAメチル化時計でのマウスのCpGサイトのメチル化だけみても、年齢(30歳から60歳に相当)とともにメチル化が進むCpGサイト、メチル化が下がるサイト、変わらないサイト、などいくつかのパターに分かれることがわかっています。タンパク発現を起こす遺伝子のスイッチの機構がさらに高度に調整されていると思われるのですが、この分野の解明はこれからと思ったほうがいいでしょうね」

 

しかしどちらにせよ、これらは老化もすべて情報だと捉える「老化の情報理論」という考えに基づいています。いまや老化は病ではないため、食品摂取や運動で「エピジェネティック・クロック」が動くことがわかっています。

 

「従来なら予防医学と呼ばれていたことと同じですよね。食品、エピジェネティックセラピー、ヨガ、睡眠など、いいと言われることを複合的に組み合わせると、このメチル化に変化が起きるということまでが突き止められています。若返るとまでは言えなくても、老化の速度を遅くすることはできるのです」

 

日本は「超高齢社会の最先端国家」。実はこれこそが、国の持つ大きな資本なのです

「間違いのない事実として、我々は超高齢社会に関しては最先端の国です。つまり、諸外国に対してこういうことが起き得ると提示できる唯一の国家集団です」

 

はい、残念なことに、超高齢化の最先端であることは事実です。そして、すでに超高齢化しているので、「超高齢化」ですらなく先生の表現通り「超高齢社会」ですね。

 

「ね、日本はそのように、過去を『失われた30年』と呼んで、失速した落ちぶれた残念と自己批判ばかりしていますよね。なんで?って僕は思います。だって、100歳を越えた人が今や万オーダーでいるんですよ、そんな国世界のどこにもありません。これは国民ひとりひとりが胸を張って誇るべき成功だと思います」

 

でも先生、問題はいろいろ山積みです。私が先月から書いた記事だけでも、介護離職、不登校、相対的貧困、ジェンダーギャップ。

 

「もちろん問題はありますし、それを無視してはいけない。でも、これだけの人口を抱えた国が、道端で殺されず泥棒もされず、飢えず停電もしないばかりか、電車が定時にくるしおいしいものが安価で食べられる。教育水準は高い、医療もすぐ手が届く、社会制度だって整っている。僕はいつも疑問なんです、これが失敗だというなら、いったいどんな国家が成功なんでしょうか?」

 

確かに、大きな目で見れば、不満はあれど保険も年金も整備され、人々はどんどん若々しくなって、老いても元気に働いています。これからヨーロッパでも急速に高齢化が進む中、日本を見て「介護保険を作って医療と分離するんだな」「年金はこう整備したらいいんだな」と手本にされる、そう言われるとなるほどと思います。

 

「次は、暦年齢でなく生物学的年齢を使って、定年や高齢者の定義を変えるチャンスが来るでしょう。若々しい人からは、そんなものを採用したらいつまでも年金をもらう側になれない、支払うばかりになると反発されると思います。ただどちらにせよ、これから先、健康そのものは資本になります。健康資本、ウェルビーイング資本と呼ばれるのかもしれません。資産はどれだけ個人がそれを持っているかですが、資本ならば投資として使えます。我々のエピジェネティッククロック延長のノウハウは、日本の重要な資本になるのでしょう。これを使って投資をかけますよという話は現実のもので、現にこの分野では投資を受けた産学協同のグローバルベンチャーがたくさん登場しています」

 

「成功した超高齢社会」のノウハウは、そのあり方そのものが財産になり得る

考えてもみませんでしたが、超高齢社会の運用ノウハウが輸出産業に落とし込めるという意味ですね。

 

「ESG投資のような、ウェルビーイングファンドも成立し得ると思います。そもそもヒトは最重要の資産であり資本です。日本はこの30年ヒトに投資したからこそ長寿が獲得できたのです。だって、世界は今になって腸内細菌とか言っていますが、日本なんか普通に食べていても食事が超健康的でしょ。食塩濃度だけは何とかしないとなりませんが、あとは何もしなくても世界最高レベルの健康食です。加えて、病気を治すことにかけても世界一。これらは次の資産として生かしていける膨大な貯蓄です。100歳の人が万単位で暮らしている国なんて、世界のどこにもないんですよ、これを生かさないわけにはいきません」

 

現在日本は円安の影響もあり、貧乏な国になったと言われています。実際、通貨の価値で言えば相対的には貧乏なのでしょう。しかし、主観で見てこの国の暮らしのどこが貧乏かと言われると、人口ボーナス期が終わってこれから縮小するのだという「未来の予感」以外に根拠がないのかもしれません。

 

「ポートフォリオで見たら世界に類例のないいい資産を持ってる。災害復旧も早い、インフラは常に動いている。物流もこれから問題を抱えるけれど、きっと何かしらの手段を見出して日本は乗り越える。なぜ物価が安いことに文句を言うのか、誰がそれを言えと言ったのか? 貧しくて失ったことにしたほうがいい人がいるのかもしれません。しかし、それを疑わずにこのまま30年失った失ったと言い続けていると、やがて本当に失ったことになってしまいます。日本に残された諸外国との高齢化ギャップは20年分しかないんです。これまでが貯める30年だったのなら、次は運用する20年です。なるべく早くスタートを切りなおさないとならないんです」

 

一例として、たとえばUAEからは糖尿病制御に関する質問を受けたそうです。人口構成が完全にピラミッド型の国家で、人口の32%相当がすでに糖尿病または10年以内に発症するリスクの高い糖尿予備軍。特に若い人たちの割合が高く、これから未来に社会がどうなっていくのかが不安という内容でした。

 

「最初はどの国も疾患の治療をターゲットにするのでしょうが、途中で気づくはずなんです。実はターゲットにすべきは疾患ではなく、ライフスタイルだ、糖度の高い食事と運動不足を何とかしないとならないと。すると、そうした疾患をすでに社会的な仕組みで克服しつつある国はどこだ、ルックジャパンとなるのです。超高齢社会が問題を含みつつもうまく回っている、その秘密は何だ、ぜひ教えを請いたい。すると、今度は老化を測定する尺度が必要となります。それがエピジェネティッククロックですが、これはどうも民族ごとに違いそうです。東アジア人のほうが10歳ほど若く見える、ならばアラブ人ならこのくらいですと時計を作ってあげることになるでしょう」

 

これから「若返り」という言葉を耳にする機会が増える。確認しておきたい「3つの分類」とは

さて、このエピジェネティッククロックの概念を用いた若返り、リジュビネーション(Rejuvenation)は止められない医学の流れですから、これからどんどん関連するサービスも増えていきます。ただし「若返り」には3つの分類が考えられ、どれを指しているかが混在するのだそう。

 

「①生物学的若返り、②医学的若返り、③技術的若返りの3つです。①はここまでの話を読んできた皆様ならおわかりでしょう、エピジェネティッククロック改善で、老化細胞のマーカーが戻ったケースですね。②はたとえば老人の歩行距離が伸びた、200mが500mになったのなら若返ったと言ってもいいのかなという臨床的評価。③は美容医療などですね。サイエンスの世界では指標であるDNAメチル化で計った年齢が前より若くなっていることが重要ですが、それ以外の分野はどの文脈で若返りという言葉を使うのかを確認する必要があります」

 

ちなみにまで、更年期世代の女性に対して、何か直近で影響のある若返りにはどのようなものがありますか?

 

「閉経をできるだけ遅くすることです。日本の場合は更年期障害に対してホルモン補充療法、HRTをあまり行いません。しかし、女性ホルモンを補充すれば身体を若く保てますし、骨粗鬆症などアフター更年期の疾患の発症を後ろに遅らせることができます。がんの検査など多少は面倒がありますが、とても重要な若返り戦略です。また、小さなこと、たとえばアップルウォッチのようなデバイスを買って計測を始めたり、ヨガを始めたりと、情報リテラシーも上げていろんな情報を得て自分の健康資産を形成してほしいのです。お金の資産運用と同様に、健康も運用してほしいと思います」

 

こう話す山田先生は、実は2025 年大阪・関西万博の立役者のひとり。大阪パビリオン推進委員会の委員として、ヘルスケア先端予防医療ディレクターを務めます。

 

「このパビリオンを訪れると、ここまでご説明したエピジェネティッククロックの概念を応用して、2050年のあなたに会うことができます。まだ人生の時間がたっぷりあるみなさまに、『暦年齢』から『生物学的年齢』への転換の理解を深めてほしいのです。その場でDNA メチル化時計を計測することはできませんが、非接触・非侵襲の計測を準備しています。ぜひ万博会場で健康状態を見てください、楽しみに待っていてくださいね!」

 

つづき>>>「老いて貧しくなる失敗した日本なんて大ウソ」抗老化医学の先端を走る医師が「日本の未来は明るい」と断言する深いワケ

 

*1 Horvath S. DNA methylation age of human tissues and cell types. Genome Biol. 2013;14(10).

お話/山田秀和先生

近畿大学客員教授。日本抗加齢医学会理事長。日本皮膚科学会専門医。日本アレルギー学会専門医。日本東洋医学会専門医。近畿大学医学部卒業後、同大学院医学科博士課程修了。2007年、近畿大学アンチエイジングセンターを創設。同センター副センター長、近畿大学奈良病院皮膚科教授を歴任。老化時計(Aging Clock) など生物学的年齢計測技術を用いて、老化速度のコントロールや若返りの治療・研究や臨床試験に携わっている。

 

≪OTONA SALONE編集長 井一美穂さんの他の記事をチェック!≫

 

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