手土産、マンネリ化していない? 敏腕バイヤーおすすめ「夏の和菓子」。仕事先でもホームパーティーでも「会話力」を上げてくれる裏技とは?
OTONA SALONE / 2024年7月28日 15時31分
蒸し暑い日本の夏に一服の涼をもたらす夏の和菓子。
今までに3万点以上の和菓子を食したという高島屋の和菓子バイヤー畑主税(はた・ちから)さんに、おすすめの夏の和菓子をご紹介いただきました。和菓子誕生秘話や背景も、とても興味深いものばかり。今回教えていただいた4つの地域の人気和菓子はお取り寄せも可能です。
和菓子バイヤーならではの視点で、和菓子と飲み物の組み合わせやよりおいしくいただくための食べ方、ホームパーティーにお菓子を持って行く時の気配り術についても教えていただきました。
オトナサローネ読者にだけ教える桜餅の食べ方も。夏の和菓子を存分にお楽しみください。
◀この記事の【前編】を読む◀以前と贈答の量や商品選びにも変化が! 今どきの粋な手土産を選ぶコツやマナーを、高島屋の和菓子バイヤー畑さんに語っていただきました。__◀◀◀◀◀
山形県 : 佐藤屋「空ノムコウ」
七夕の時期もそうですが、夏場になると青い寒天のお菓子がよく出ます。「空ノムコウ」は夏に限らず通年で作っている寒天の錦玉羹です。佐藤屋の八代目が山形県のガラス作家の作品に感銘を受けて作ったそうですが、現在人気を博していて、オンラインショップでは入手に時間がかかるそうです。
佐藤屋の八代目は京都の「末富」という和菓子店で修行したのですが、末富は和菓子に初めて食欲減退色のブルーを使った店です。だんだんみんなが「青も大丈夫なんだ」と和菓子に青を使うようになり、今ではブルーの和菓子の元祖、「末富ブルー」として知られています。八代目が末富で修行していなければ「空ノムコウ」は誕生しなかったかもしれません。
「空ノムコウ」は一見するとブルー一色に見えますが、よく見ると紫も入っていてマーブル状になっていて、二度と同じ模様のものはできません。さらに断面を横から見ると、細かい気泡が入っているのも分かります。実は、昔は寒天菓子に気泡を入れるのは御法度だったのですが、あえて気泡を入れることで満点の星空を表現。銀河の向こうに想いを馳せてみるのもいいのではないでしょうか。
ほのかにジンジャーの香りがするのも爽やかな逸品。ジンジャーは紅茶に合うので、お茶ではなく紅茶と一緒にいただくのもいいですし、ハイボールなどのお酒に入れて幻想的な気分を味わってみるのもおすすめです。
大阪府 : 五條堂「鴻池花火(こうのいけはなび)」
大阪府はフルーツ大福のメッカ。和菓子職人がこぞっていろんなフルーツを入れたり、あんの塩梅を変えたりしてフルーツ大福を世に広めました。
大阪府東大阪市にある五條堂の「鴻池花火」もそのひとつ。2代目の女将が作ったのですが、柔らかい滋賀県産羽二重餅の中には生クリームときめ細かいさらしあんが入っています。あんは、こし餡であっても普通はザラザラした食感がしますが、「鴻池花火」のさらしあんは、渋きりという工程と裏漉しを何度も重ねて滑らかな口当たりにしてあります。そのため、口に含むと滑らかな生クリームと絶妙に溶け合います。
フルーツ大福のあんは白あんが多いのですが、「鴻池花火」の場合、あんの色は薄墨色。花火が打ち上げられた夜空を表現しています。生クリームの中には甘い香りのフランボワーズや甘酸っぱいパイナップル、とろけるような甘みのバナナと濃厚な風味のブルーベリー、爽やかなオレンジ、5種のフルーツが入っていて角度の違う味が口中で弾けます。
菓銘をフルーツ大福としていないところに女将の世界観が感じられる「鴻池花火」。実は、「フルーツ大福」と名付けた方が売れるのですが、あえて二歩引いて、想像力を掻き立てる名前にしているそうです。華やかな打ち上げ花火が夏の夜空を彩る情景が脳裏に広がる逸品です。
広島県 : 藤い屋「淡雪花(あわせつか)」
マカロンのような「淡雪花」。発売された当初は白だけでしたが、ピンクができて、高島屋と一緒にブルーベリーや抹茶なども作ってバリエーションが増えました。
藤い屋は広島県宮島にあるもみじ饅頭の老舗ですが、若旦那が赤坂の塩野で修行して、その後パティスリーに修行の場を移しました。和菓子と洋菓子、それぞれ3年くらい学んで広島に帰り、自分が習ったものを反映させたいという思いで作ったのが「淡雪花」です。
2013年に広島で菓子博が開催された時に発表。当時はまだ瀬戸内レモンの名はあまり知られていなかったのですが、広島はレモンの産地なので、たくさんの職人がこぞってレモンを使ったお菓子を出品しました。レモン風味のあんが入ったもみじ饅頭やレモンの羊羹など想像に難くないお菓子が多かったのですが、畑さんは「淡雪花」には度肝を抜かれたと言います。
白い部分はふわふわのギモーヴ(※)で、間に挟んであるのはレモン香りと味わい豊かな錦玉羹。和菓子と洋菓子を合わせた表面にかかっているのは氷餅です。氷餅は餅を凍らせてから崩して作る素材ですが、雪が降っているように見えて涼を感じさせます。
※編集部注:卵白を使わずにフルーツなどのピューレにゼラチンを加えてつくるお菓子のこと。
シャリふわっとした食感。地元素材の王長レモンの香りが豊かに広がる広島らしさあふれる一品です。若旦那の和菓子と洋菓子、両方修行してきた人生も反映されています。
高温には弱いので、冷蔵庫で保存して召し上がってください。冷凍してもギモーブは凍らないので、キリッと冷やしていただくのもおすすめです。
富山県 : 薄氷本舗 五郎丸屋「きせつのさがしもの(夏色)」
硝子造形作家の山本真衣さんのガラス作品シリーズ「Breezeブリーズ」に感銘を受け、五郎丸屋16代目の渡邉克明さんが生み出した傑作。和菓子の世界に旋風を巻き起こし、話題になっています。木箱に一つずつ丁寧に入れられている琥珀糖はまるで宝石のよう。型を上下合わせて球体を作ると真ん中に合わせ目ができてしまいますが、「きせつのさがしもの」には、その継ぎ目が見当たりません。どのようにして作るかは企業秘密とのこと。
五郎丸屋にはもともと「薄氷」という氷に似せた銘菓があるのですが、15代目まではそれ一辺倒だったそうです。時は移ろい、16代目になると、薄氷の形を円形にしたり色や味を変えたりして、いろんなお菓子を作り始めました。その中で2年前に誕生したのが「きせつのさがしもの」でした。
季節ごとに味や色合いが変わるのですが、全てカクテルの風味。水色はバカラ、浅葱はモデラート、薄黄はモダーン、青紫はジュピターなど、その組み合わせの妙を楽しむこともできます。アルコールは飛んでいるので、お酒に弱い方でも雰囲気を楽しめます。木箱の掛け紙も季節ごとに変わるのですが、今は夏に合わせて涼やかなデザインになっています。大量には作れないので、毎週金曜日午前8時から、オンラインショップで数量限定で予約販売しています。
オトナサローネ世代のホームパーティーが盛り上がる裏技とは?
もちろん、ここでも大きな箱入りのお菓子ではなく、小さな袋に入るものを選ぶのが正解。
畑さんは、春にホームパーティーに呼ばれた時、神田のささまで花筏(はないかだ)という上生菓子と桜餅を購入して持って行ったそうです。洋菓子はチョコレートを使った1週間くらい日持ちする焼き菓子を用意して、2個小さな袋に入れたものを7個作ってもらうという気配りも。食べきりサイズだし小さい袋なので、いっぱいもらったという感じもしませんし、お金をたくさんかけたのではないかと気を遣わせることもありません。
さて、桜餅と花筏。どちらも生菓子なので両方その場で食べなければいけません。その日はお肉を焼くと聞いていたので、桜餅は食前にホットプレートで焼いてから食前酒と一緒にいただかれたそうです。桜餅は道明寺と長命寺がありますが、どちらもバターでちょっと焦げ目がつくくらいに両面焼くと美味しいとのこと。
このようにお菓子に少し手を加えて食べたらパーティーが盛り上がること間違いなし。前編でご紹介した「したたり」や後編の「空ノムコウ」のようなお菓子をソーダに入れても場が盛り上がります。上生菓子の花筏は食後に楽しまれたそうです。
「こんな食べ方をしたら美味しかったよ」と一言添えて和菓子を贈ったり、目の前でおすすめの食べ方を実演したりすると話に花が咲きます。ぜひチャレンジしてみてください。
<畑主税さんプロフィール>
全国1,000店以上の和菓子店を駆け巡り、10,000種類以上の和菓子を食べた、高島屋全店の和菓子担当バイヤー。2003年高島屋に入社し、2006年に和菓子売り場担当に。京都の和菓子を作り立てのままでお客様に提供したいという思いから、人気店の上生菓子を自身が京都に行って朝一番で受け取り、新幹線で運び、夕方には新宿店の店頭に並べた。これが和菓子好きのお客さまから大好評を博し、2009年に和菓子担当バイヤーとなる。フィールドを全国に広げ、和菓子店を自身で駆け巡る日々。自分の足で稼いだリアルな和菓子情報は、プライベートで書いているブログ「和菓子魂!」やX(旧ツイッター)などで発信。
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