更年期症状の治療に「プラセンタ」を「おすすめできる人」とは?微妙に知られざるプラセンタの利点、極めた専門医が解説
OTONA SALONE / 2024年12月10日 20時5分
更年期障害の治療法には現状大きく言ってホルモン補充療法(HRT)と漢方があります。あまり語られていませんが、もう一つの選択肢がプラセンタの注射。
「プラセンタは、みるみる全快!というわけではないのですが、いざ治療を止めると『先生、やっぱり打っていただいていたほうが調子がよかったです』と患者さんが戻っていらっしゃる。説明しきれない力を秘めた不思議な治療法だなと感じます」
こう語るのは聖マリアンナ医科大学 産婦人科学臨床教授の五十嵐豪先生。日本プラセンタ医学会の理事を務め、プラセンタを用いた更年期障害治療の第一人者である先生に詳しくお話を伺いました。
意外?プラセンタはじつは90年以上前から研究されてきた、長い歴史を持つ更年期障害の治療法
「プラセンタを用いた更年期障害の治療は1930年代、当時はまだソ連だったロシアで開発されました。当初は冷蔵した胎盤を皮膚に埋め込む『組織療法』というダイナミックな方法でしたが、それでは応用しにくいため、やがて現在のように製剤を注射するようになりました」
驚くような経緯を持つプラセンタでの更年期症状治療。現状日本で主流のプラセンタ治療法は週2~3回の注射です。45~60歳の更年期障害の治療には保険が適用され(地域差あり)、主にほてり、不眠、関節痛、頭痛など典型的な更年期症状に軒並み手応えを感じると五十嵐先生。
「プラセンタは更年期障害全般に強いのですが、不思議なことに、ヒトの胎盤から作られているものの女性ホルモンは含有されていません。現在のところ、16種類のアミノ酸,核酸塩基,キサンチンおよび6種類のミネラルを含むと判明しています。正確に調べれば定量下限値以下の微々たる女性ホルモンは存在するものの、作用を期待できる量ではありません」
女性ホルモンを含まないながら、医師は経験的にプラセンタが有効であることを知っています。慣れた医師はよく使うものの、作用機序が正確にはわかっていません。そのため、五十嵐先生が日本プラセンタ学会の学会長を担当した際に聖マリアンナ医科大学難病治療センターと共同で基礎研究を開始したところ、一定の成果を挙げたそう。この内容をプラセンタ学会や他の産婦人科・アンチエイジングにまつわる学会でも発表しているそうです。
なぜ女性ホルモンを含有しないのに効果があるのか?
そもそもは前述の通り、ソ連の「いろいろなものを移植して試す」文化の中で、胎盤の移植が更年期症状の緩和に奏功したため研究が進んだのがプラセンタ。
「じつは、なぜかはわからないけれど効くからと使っていて、あとから理由が判明することは多々あります。プラセンタはたとえば、保険外ではアレルギー、PMS、生理痛などにも手応えがありますし、美容にも使われます。これらのことから、免疫系にも関与しているのではないかなと考えています。そもそも胎盤とは母体と、母体にとっては異物である胎児を共存させるための中継地点ですから、今後は再生医療にも関連するのかもしれません」
とはいえ、女性医学学会が定める「ホルモン補充療法ガイドライン」では、プラセンタはホルモン補充療法(HRT)の代替にはならないと明確に書かれていますよね?
「前述の通り、女性ホルモンが含まれていないため研究が進んでないのもその理由の一つです。さらに、プラセンタ自体の価格が安いうえ、研究をしてもインパクトファクターがあまりないため、研究を進めるメリットもなかなかありません。ですが、更年期専門外来も担当する私のような医師にとっては、HRTや漢方が奏功しないケースではプラセンタが頼みの綱になるのも事実。何より患者さんの体感がよく、調子がいいので治療頻度を上げたいとリクエストを受けることもよくあります」
特に頼りになるのは、女性ホルモンが禁忌となる疾病です。特に「ホルモン受容体陽性の乳がん」は女性ホルモンの分泌を抑えて治療するため、更年期障害のような不調が出現します。この不調にホルモン補充療法(HRT)は使用できないため、代替にプラセンタが有力となるのです。
「最近人気のエクオールも元をたどれば大豆であり、何がどう効くかは経験によるところが大きいのです。プラセンタ製剤は最初1950年代に製造承認されたにもかかわらず製造がたった2社、薬剤で言えばメルスモン・ラエンネックの2種類しかありません。これは、原料となる胎盤の数に限りがあることも理由で、現在は全量が国産で供給されています。これは逆に、製造上の安心の根拠となります。あまり急激に注目されると供給できなくなるかもしれませんが、これだけ手応えがあるのですから医師としてはもっと広く治療に使われてほしいと感じますね」
さきほど価格が安いとおっしゃいましたが、どのくらいのプライスなのでしょうか?
「更年期障害の診断がある場合、1日1アンプルで月15回まで保険適用で、1回500円ほどです。他に乳汁分泌不全、肝機能障害の治療も保険が適用されます。私のクリニックには、プラセンタを指名で受診する人もいます。お友達が更年期障害を当院で治療なさっていて、プラセンタが効いたわよと口コミでお見えになるんですね。ただし、プラセンタには1つだけ問題があり、一度注射をしてしまうとそれからは献血をできなくなる点。ヒトの胎盤を利用しているためですが、現在までのところ、ウイルス性肝炎やHIV感染、ヤコブ病の感染を起こした例は国内で1例も報告されていませんので、安全性は高度に担保されていると捉えて大丈夫です」
更年期症状にHRTが「いまひとつ」だった人。プラセンタをぜひリクエストしてみて
ちなみにまで、五十嵐先生は日頃のご治療の中で、どのような更年期症状にもっともプラセンタの手応えを感じますか?
「何かにピンポイントで効くというよりは、全体的な身体状態が全部底上げされ、その結果苦しんでいた症状が消えるという印象です。ですから、だるさ、倦怠感、肩こり、頭痛、ほてり、不眠、関節痛といった主要な更年期症状にほぼ効果を感じますし、それ以外に肌やPMSというような随伴症状にも手応えがあります」
五十嵐先生は、更年期症状だと訴えて来院した患者さんたちに一定の割合で、DHEAなどのホルモンが足りていない、甲状腺の状態に問題があるなど、他のトラブルを抱える人を見出しているのだそう。更年期障害だと診断するためには背景に他の疾患がないかの除外診断が必須ですが、それについても「妊娠を希望されている患者さんの中には、治療が必要な数値ではないが甲状腺がいまひとつ」という中間の状態があり得ると言います。
「そもそも女性ホルモンの値も日々、波のような変動があります。採血してみて今日のホルモン値は十分でも、昨日がどうだったかはわかりません。一般に生理がまだ順調な間は更年期障害とは診断されませんが、そんな人でも症状から診断してHRTを始めてみると調子が上向くことはよくあり、検査数値はあくまでも目安でしかないなと実感します。こうした、はっきりしない状態での次の手としても、またホルモン補充がどうにもいやだなという人にも、価値が十分にありますから、ぜひ医師にリクエストしてみてください」
HRTか漢方かという選択肢にもう一つ、プラセンタも加えてほしいと五十嵐先生。
「ひとつ問題があるとすると、注射が苦手な人には困難なところでしょうか。更年期障害はHRTに反応しないノンレスポンダントという人が2割いるように感じます。患者さんが自分にあった治療を探していく中、わざわざプラセンタを除外する必要はないと思います。強力な選択肢になりますから、ぜひご記憶いただきたいのです」
つづき>>>8歳9歳でも、子どもが「生理痛に苦しんでいる」ならすぐ産婦人科を受診してほしい。その「決定的理由」は
クリニックを探す際には、日本プラセンタ医学会のHPが便利です。
五十嵐レディースクリニック 院長 五十嵐 豪 先生
聖マリアンナ医科大学 産婦人科学臨床教授。聖マリアンナ医科大学を卒業後、産婦人科を専門に研鑽を積む。母校の大学病院で18年にわたって経験を重ね、「南生田医療モール」にて開業。
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