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8歳9歳でも、子どもが「生理痛に苦しんでいる」ならすぐ産婦人科を受診してほしい。その「決定的理由」は

OTONA SALONE / 2024年12月10日 20時10分

「現在の子どもの初潮期にまつわる医学的な常識は、お母さまがたが子どもだったころとはかなり違います。『昔はこうだったから』と判断せず、痛みや不快感があるならばその都度産婦人科を受診していただきたいのです」

 

こう語るのは、五十嵐レディースクリニック院長の五十嵐豪先生。聖マリアンナ医科大学産婦人科学臨床教授も務める五十嵐先生は、川崎市医師会の理事でもあり、周産期や更年期のほか子どもまでを含む女性の健康に寄り添っています。

 

地域に密着した診察と、大学病院での高度医療、2つを両輪で手掛ける五十嵐先生が、日頃の診察を通じて感じている「子どもの初潮期の医療」について伺いました。

 

年齢を問わず、月経困難症はピルで治療ができる。しかし考えたいことは

「最近は4年生、8歳9歳くらいからお子さんたちが来院します。例えば、8歳で初潮を迎えたものの、1回目ですでに生理痛で苦しんでいるので何とかしてあげてほしいとお母さまが連れていらしたことがありました」

 

と五十嵐先生。初潮期はまだ周期も不安定で、2回目は痛くない可能性もあるため、「痛みがあったらもう一度来てね」と継続的に様子を見ていくそうです。どのように治療を進めるのでしょうか?

 

「経過をみて月経困難症と診断できれば治療がスタートします。実はピルは初潮を迎えた女性に対しては何歳からでも使用してよく、月経困難症治療のガイドラインでも黄体ホルモン・エストロゲン混合のLEP製剤を処方とあります。ですが、私は黄体ホルモン単剤のジエノゲストを処方することがほとんどです」

 

その理由のひとつは、発生の頻度は少ないとはいえ、エストロゲン投与による血栓症のリスクがゼロではないことだと言います。そしてもうひとつの理由は「身長」。

 

「初潮と前後して、分泌が始まった女性ホルモンの影響を受けて骨端線の閉鎖が始まるため、身長の伸びへの影響を考慮する必要があります」

 

ガイドライン上では、初潮を迎えた段階ですでに女性ホルモンの影響を受けているので、初潮から3か月たっていればLEP製剤でエストロゲンを取り込んでも特段の影響はないとされます。

 

「が、あくまで私の見解ですが、影響なしとの確証に至らないと感じるので、LEP製剤ではなく黄体ホルモン単剤を処方しています。子宮内膜を薄く保つので月経そのものが止まりますが、服用を停止すれば3か月以内に元に戻ります」

 

エストロゲンの投与は月経が安定する時期からでもいいのかもしれません、と五十嵐先生。現在のところ12歳までならば黄体ホルモン単剤からスタートして、何か不都合があれば処方を変更して調整してくのだそう。この処方の工夫は、クリニックが中学受験に挑むお子さんが多いエリアに位置することにも関係すると言います。

 

「5年生に進級する頃から受診される方が増えていらっしゃいます。我々医療サイドとしては、受験までに月経痛を和らげる薬に慣れてもらいたいですし、月経痛が勉強の妨げにならないようにしたいとも思います。場合によっては受験日と生理が重ならないような調整をすることもあります」

 

母親が、自分の受診をきっかけに子どもを婦人科に連れてくることもある

来院するお子さんたちは、やはり生理痛がきっかけなのでしょうか?

 

「はい、生理痛が強いことを見かねてお母さまが連れていらっしゃるケースがいちばん多いのですが、先にお母さま自身が受診していて、併せてお子さんのことをご相談いただくことも多いのです」

 

なるほど、小学校から中学校となると、母親はちょうど更年期に差し掛かる世代ですね。婦人科の受診も増えるころです。

 

「貧血や甲状腺、更年期障害などのトラブルで来院して、ご自分の症状が落ち着いてくると、ちょっと別件ですが娘が生理痛で苦しんでいて……とお話をいただくのです。ご本人を診察しないと診断はできませんから、また別の日に一緒にご来院いただきます」

 

お子さんが自主的に来院することはやはり稀だそうですが、理由を考えてみればそれもそのはずです。

 

「そう、子どもは腹痛ならば小児科に行ってしまうんです。お母さまもまだ10歳そこそこのお子さんを婦人科に連れて行っていいのか、小児科に行くべきか、受診する科に迷いがあって一歩を踏み出せなかったとよくおっしゃいます。しかし、初潮を迎えていて、生理痛など明らかに婦人科に関連する症状であれば、何歳でも産婦人科で対応します」

 

生理痛が「どうして引き起こされているのか」を調べ、「病気の完成を防ぐ」ことが大切

たとえ「いつもの」生理痛に見えたとしても、一度は来院してほしいと五十嵐先生。なぜなのでしょう?

 

「生理痛の原因をつきとめることが重要だからです。たとえば、子宮の奇形ということがあり得ます。私も過去に重複子宮という特殊な子宮の形を診断したことがありますが、こうした詳細な判断はお腹の上からの超音波では難しいのです」

 

その場合はどのように診察するのでしょうか?

 

「原則的に性行為の経験がない方は腟からの超音波検査はできません。ですので、本人の了承を得られれば肛門からの超音波検査を行います。誤解を招かないように重ねてお伝えしますが、なぜ生理痛が起きているのかを判断するのは非常に大事なのでこうした検査をお勧めはするものの、一番大事なことは診断そのものよりも『生理痛がよくなること』です。必ずしもこの検査を受けなければ処方ができないわけではありません」

そのほか、子宮腺筋症や子宮内膜症のごくごく初期の症状という可能性も考えられるそう。

 

「こうした疾患の多くには前駆症状がありますから、医師は『このケースは腺筋症に発展していく可能性が高いな』などの状態を診断します。痛みがあるということは何かしらその痛みを引き起こしている原因があるので、予防の目で診察してくれる婦人科医と巡り合えるのがベストです」

 

私も生理痛がひどかったのだから仕方ない、母親の体質が遺伝したのだろうから仕方ない、とあきらめないでほしい、と五十嵐先生。

 

「超音波診断がない時代には、病状が進行して症状が出るまで病気を見つけられませんでした。しかし、今は『病気が完成する前』に投薬で介入し、病状が進まないようコントロールすることができます。たとえば卵巣腫瘍のリスクがあるならば、腫瘍ができてしまう前にコントロールしていくのです」

 

繰り返しになりますが、生理痛がある時点で何かしらこうした先々に病気に発展する異常がある可能性を考え、予防する意思を持って受診をしたほうがいいのだそう。

 

「いまは痛みを我慢する時代ではなく、痛みの原因を調べ、その原因はつきあえるものなのかを弁別するところから始めます。痛みがあるならば薬で痛みもコントロールします。こうして介入することで明らかに生活のクオリティが上がります」

 

欲しい人数の子どもを誰もが得られる社会に。プレコンセプションケアの概念を大切に

たとえば分娩も、かつては「お腹を痛めて産んで一人前」などと平気で言われていましたが、今では無痛分娩が当たり前です。痛みは我慢するものではなく、管理する時代に変わりました。

 

「生理ごとに3日間生理痛に苦しむ場合、年間12回で合計30日を越えます。12か月のうち1か月分はパフォーマンスが落ちます。3年たてば約100日です。このロスで経済的、学力的に生まれる損失は見過ごしていいものではありません」

 

もうひとつ、新しい概念「プレコンセプションケア」にも意識を向けてほしい、と五十嵐先生。それは何でしょう?

 

「『病気が完成』してしまうと、今度は不妊の原因にもなります。子どもの将来は受験、結婚、妊娠可否などにも左右されます。生理痛を放置したことで、例えば子宮内膜症に発展していたり、卵巣腫瘍ができたり、あるいは卵管が詰まる、流産を起こしやすい子宮などの結果になっていると、もっとできることがあったと私たち医師も悲しいのです」

 

欲しい人数の子どもを誰もが得られるために、いま何をしてあげられるのかを真剣に考えるのが婦人科医です、と続けます。

 

「妊娠したいときに妊娠できるコンディションを初潮期から作っていくのが『プレコンセプションケア』。私たち産婦人科医の新しい仕事で、現在はこれを積極的に進めています。私は川崎市医師会の理事に就任したので、現在は少子化対策担当理事として市行政と地元医療者が一丸となってこうした対策を進めているところです」

 

困りごとがあったら、予防の観点を持ちながら、すぐ医療に相談をしたいものですね。

 

つづき>>>更年期症状の治療に「プラセンタ」を「おすすめできる人」とは?微妙に知られざるプラセンタの利点、極めた専門医が解説

 

五十嵐レディースクリニック 院長 五十嵐 豪 先生

聖マリアンナ医科大学 産婦人科学臨床教授。聖マリアンナ医科大学を卒業後、産婦人科を専門に研鑽を積む。母校の大学病院で18年にわたって経験を重ね、「南生田医療モール」にて開業。

 

≪OTONA SALONE編集長 井一美穂さんの他の記事をチェック!≫

 

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