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世界同時株安と「LTCM破綻」の類似性、一部の金融関係者がひんやりと思い出した暴落の「正体」とは

OTONA SALONE / 2024年8月8日 11時55分

大学生のアキさん、高校生のルミさん、2人の娘を持つ個人投資家・文筆家の澤田信之さん。娘たちに「生きる視点」を伝言するメッセージ書評連載です。

【父から娘へ書評#7『「戦争経済」に突入した世界で日本はどう生きる』国谷省吾】

生き残れた金融マンならば思い出す「LTCM破綻」とは何だったのか

2024年8月5日は日本株投資家にとって忘れられない一日になりました。戦争も、テロも、災害も起きていないある日、日経平均は史上最大の幅で下落しました。

 

特に午後2時以降の価格形成は、主要銘柄がストップ安になり、それ以上売買ができないことで売りが先物に殺到、現物と先物の価格差が5%近くになるという前代未聞の動きでした。

 

さて、これは僕が金融機関に勤めていた頃の話です。昔も今も、ロシアという国は、投資家にとってとても扱いが難しい投資対象でした。

 

旧ソビエト連邦の解体で1991年に生まれたロシアは、90年代前半著しい不況に陥りますが、その後主要な輸出品である原油価格が上昇したことで経済が安定、国際資本市場に回帰します。

 

でもそれは長く続きませんでした。ロシアのような新興国市場の多くは米ドルに自国通貨をリンクしてインフレを抑える通貨政策を取っていましたが、多くの場合は金利差を背景にした投資資金が過剰に流入するせいで通貨が高止まりし、自国生産品の競争力を失うことになります。段階的に通貨を切り下げようとしますが、為替市場はそれを許しません。結果的に管理通貨制度を放棄し、変動相場制に移行することになります。

 

ロシアもその影響を受けました。国際資本市場では米ドル建て中心にロシア国債が流通していましたが、相対的に低金利である米ドルで資金を調達し同じ米ドル建てやルーブル建てのロシア国債に投資する動きが流行しました。

 

中にはロシア国債を担保に入れて資金調達し、さらにロシア国債に投資するといったレバレッジを強く利かせた投資も散見されました。そしてロシアは資金繰りの悪化から利払いを停止、国債の価格が暴落したことで世界的な株価の調整につながります。

 

これはLTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)という名前のヘッジファンドが破綻したストーリーです。

 

環境も国も早いピッチで変化するが、「人が取る行動」はほぼ変わらない

こうした動きに輪をかけたのが、ファンドマネジャーたちの投資行動でした。

 

破綻するまでの数年間、LTCMは高パフォーマンスの象徴でした。四半期や年度の数字で評価されるアクティブファンドマネジャーたちは割高だとわかっていても敢えてロシア国債を保有していないと、ベンチマーク(運用の基準)に負けてしまいます。

 

同業他社に負けると運用資産が減少し、ファンドマネジャーたちは職を失います。パフォーマンスを求める結果として、業界全体のポジションがLTCMに類似していきました。そして破綻。「火事だ」と劇場で誰かが叫び、全ての観客が出口に殺到する世界線です。

 

そう、ドライかつプロフェッショナルに見える巨額の資産運用も、実は感情に大きく左右され、また相互の同調圧力が強く効く世界なのです。背景にあるのは人の原始的な感情、欲望と恐怖です。今回の真相は単なるレバレッジの解消でしょう、しかし恐怖は人を突き動かしました。

 

さて、ここまで私の前歴の話をしましたが、この連載は私が2人の娘に書籍を勧めるものです。アキ、ルミ、世界の暦は8月に入りました。暑い東京を避けて家族で一緒に軽井沢に行っていた頃は、2人とも小学生でしたね。

 

標高が1000メートルくらいで、だいたい東京よりも5度低い軽井沢ですが、東京が40度近くにまで気温が上がるようになったところ、暑い日にはクーラーが必要になったと聞きます。温暖化とヒートアイランド現象、どちらも10年前に予想していたよりも早く進んでいるようです。

 

今回紹介するのは、世界的な報道機関で国際問題に取り組んで来られた国谷省吾さんの『「戦争経済」に突入した世界で日本はどう生きるか』です。なぜこの本を選んだのか。

 

平和を謳歌する日本だが、戦争は世界のどこかで「常に」起きてきた

中学生の時、アキは夏休みの課題で戦争体験の聞き語りをしていたね。親類の中では適当な人が見つからず、人づてに語り部を探すのに苦労しました。第2次世界大戦が終わって80年が経過しようとする現在、日本では大人として戦争を経験した人はいなくなってしまいました。

 

この本は、軍事の世界から日本の現状を読み取ろうとする作品です。重要な点は、経済への影響にも言及しているところです。

 

一度は皆が撤退してしまった汎用半導体の生産に、日本が再度国策として取り組もうとするのはなぜか。軍隊を持たないことになっている日本で、軍需産業に関与する企業の株価が上昇しているのはなぜか。そんな素朴な疑問にも明快な回答が述べられます。

 

投資家としての僕にも興味がある話です。どちらも、なぜだと思いますか? 僕にとってはとっても納得のいく答えでした。今回の世界同時株安にも、演繹すればつながりが見えてくる内容です。お金と世界のパワーバランス、欲望と恐怖は恐ろしいほどに密接にリンクしていますから、あらゆることに興味を持つのはとても大事です。いらない情報などというものはこの世にないのです。

 

人がいない閑散とした東京証券取引所、いまでは値付けはコンピューターがしています。しかしその背後では欲望と恐怖が交換されています。恐怖が支配した市場、何千、何万という人々が投資をやめてしまうでしょう。8月5日に失われたお金の総量よりも、投資をやめてしまう人々が増えることが社会にとっての損失だと思います。

 

それでは、また

チチより

 

『「戦争経済」に突入した世界で日本はどう生きる グローバル経済終焉後の安全保障とエコノミー』 国谷省吾・著 2,200円(10%税込)/徳間書店

 

 

≪文筆家・個人投資家 澤田 信之さんの他の記事をチェック!≫

 

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