検査数値が悪化する。センターマイクが遠ざかっていく。私はもう、あそこには立てない【なにわ介護男子#5】
OTONA SALONE / 2024年9月26日 20時0分
日本を代表する夫婦漫才・宮川大助さん・花子さん。2019年に花子さんに血液のがんである「多発性骨髄腫」が発覚、今もなお闘病生活を続けています。
今年6月末に『なにわ介護男子』(主婦の友社刊)を上梓。完治しないこの病気を抱えながら生きる花子さん、そして自身の体調も芳しくない中でも懸命に支える大助さん。花子さんはそんな大助さんを「なにわ介護男子」と命名し、大変な闘病と介護の日々にもクスッと笑えるスパイスを忘れません。本連載では、おふたりのお話から、「生きる意味とは?」「夫婦とは?」を考えていきます。また、介護をする側・される側の本音にも迫ります。
多発性骨髄腫という病と闘いながらも「漫才復帰」という目標を掲げ、実際にそれを叶えた花子さん。しかし、思いがけないことから右の頭の骨に新しい形質細胞種が発見され、またしても入院をして放射線治療を開始せざるを得ませんでした。その後無事に退院を果たし、2023年10月には名古屋で4年ぶりの単独ライブを開催。程なくして、名古屋で再び漫才をお披露目することとなったのです。当時の病状をはじめ、なぜ精力的に仕事に取り組めたのかなど、当時の自身を振り返っていただきました。
やめる、やめると言い続けてきた私が。専業主婦になりたかった私が。いま、漫才に救われた
11月14日に名古屋の御園座で開かれた「年末恒例大爆笑大会 よしもと爆笑公演」に出演した花子さん。この日の熱気はとにかく、すごいものだったそう。時間がたった今も忘れられないほどだったと言います。
「舞台袖には若手の芸人さんが大勢立ち、私たちの舞台を食い入るように見つめていました。漫才を終えるとお客さまの拍手は鳴りやまず、なかには立ち上がって大きく手を振る人も。いつまでも拍手が続いたため、次の出演者に申し訳なく思ったほどです」
これまでも舞台に出るたびにお客さまに温かく迎えてもらっていた花子さんですが、漫才に復帰して以降、日を追うごとに歓声や拍手が増えていくのをひしひしと感じていたとか。「がんばってや、花ちゃん!」「花ちゃん、やってるな」「花ちゃん、待ってたで!」。そんなかけ声があちこちから聞こえてきたそう。花子さんは「それがどれほど励みになっているか、ひとことでは表せなかった」と、そのときを思い出します。
「私、漫才を始めてからずっと『やめる』『やめる』とばかり言ってきた人間なんです。どんなインタビューでも『一番の夢は専業主婦。一番幸せだったのは、大助くんと私がコンビを組む前、二人ともガードマンをしていた時代です』と答えていたくらい」
でも、多発性骨髄腫になって以降は、「やめる」や「やめたい」といった言葉は一度も言っていないのだとか。それは「意地でもやったる」と決めているから。そう思えるようになるまでは、それはそれは、ものすごい葛藤があったに違いありません。前著『あわてず、あせらず、あきらめず』(主婦の友社刊)の最後に、花子さんはこう書いています。
長〜い闘いになるけど、あきらめるわけにはいきません。
センターマイクが遠ざかる。いやいや、いつかたどり着いてみせる。
どんなことがあろうとも。
みんなと笑顔で会える日まで。
あわてず、あせらず、あきらめず。私は闘い続けます。
数値の悪化、「もう無理かもしれない」。センターマイクが遠ざかっていく、立てない
この部分は、本が出る直前にフリーライトチェーンの数値が上がったため、急きょ加筆したそう。「前向きにがんばろうとする気持ち」と、相反する「もう無理かもしれないという後ろ向きな気持ち」が入り混じった複雑な思いや心の機微が読んで取れます。実際、花子さん自身も……。
「今読むと、『センターマイクが遠ざかる』の一文に再発した悔しさがにじんでいます。もう一度、自分の足で立ちたいという願望と、それはもうかなわないだろうというあきらめがせめぎ合っていた時期でした。パラリンピックで活躍する選手の皆さんに感銘を受け、自分も『パラ芸人』としてやっていこうと思い始めてはいたものの、車椅子でセンターマイクの前に立って漫才をすることだけは考えられませんでした」
その思いは大助さんも同じだったよう。二人にとって「センターマイクの前に立つ」とは、「センターマイクの前に自分の足で立つ」こと以外にありえなかったのです。「車椅子でいる以上、漫才はできない」と頑な思いを抱いた花子さんと大助さんは、その後いかに? 後編では、車椅子に乗った花子さんが本当の意味で、自身の「パラ漫才師」を受け入れたときの心境に触れていきましょう。
次の話>>>>22年、心停止寸前で救急搬送されてわかった。私は漫才をしたい。マイクの前に「立ちたい」と【なにわ介護男子#6】
前の話<<<<「花子さんは舞台で死にたい人だと思ってた」死の淵をさまよった経た芸人が「生き証人」に伝えた言葉は
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『なにわ介護男子』宮川大助・花子 著 1,650円(税込)/主婦の友社
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