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心肺停止寸前で救急搬送されてわかった。私は漫才をしたい。マイクの前に「立ちたい」と【なにわ介護男子#6】

OTONA SALONE / 2024年9月26日 20時1分

日本を代表する夫婦漫才・宮川大助さん・花子さん。2019年に花子さんに血液のがんである「多発性骨髄腫」が発覚、今もなお闘病生活を続けています。

 

今年6月末に『なにわ介護男子』(主婦の友社刊)を上梓。完治しないこの病気を抱えながら生きる花子さん、そして自身の体調も芳しくない中でも懸命に支える大助さん。花子さんはそんな大助さんを「なにわ介護男子」と命名し、大変な闘病と介護の日々にもクスッと笑えるスパイスを忘れません。本連載では、おふたりのお話から、「生きる意味とは?」「夫婦とは?」を考えていきます。また、介護をする側・される側の本音にも迫ります。

 

「あわてず、あせらず、あきらめず、私はこれからも挑戦を続けます」。著書の終わりをそんな前向きな言葉で締めくくっている花子さんですが、実際には計り知れない痛みや苦しみ、葛藤を経験しているのは想像に容易いものです。前編記事『検査数値が悪化する。センターマイクが遠ざかっていく。私はもう、あそこには立てないに続く後編です。

 

宮川花子が「車椅子では漫才が成立しない」と断言するこれだけの理由

車椅子でいる以上、漫才はできない」、それは長年にわたって舞台に立ってきた漫才師・宮川花子さんとしての矜持。決して、車椅子への偏見ではないのです。共に活動してきた大助さんも花子さんの考えと同じでした。

 

「笑いというのは本当に繊細なんです。いつもとちょっと違うところがあるだけで、それが気になって笑えなくなる。私が車椅子で舞台に出てきた時点でお客さまは、そこばかり見てネタに集中できなくなるでしょう。すると、もう漫才は成立しないんです」

 

「“プロ”だからこそ、甘えは許されない」。花子さんのプロ魂を強く感じるお言葉です。そんな思いから、漫才のステージに復帰するなら、車椅子生活から卒業してからと心の中で決めていたと言います。その覚悟のおかげで、闘病をがんばれたという事実もあったでしょう。

 

「芸人は同情されたって仕方ない。そうなったら笑いをとれない。もし漫才をやるんだったら、お客さまが気にならないくらい元気になってから。かたくなにそう思っていました。だからこそ、なんとしても歩けるようになりたかった。リハビリもがんばりました」

 

ところが、実際にやってみると「お客さまは肩を揺らして笑い、大きな拍手を送ってくださいました」

「再び漫才をするなら、元気になってから」と思うと同時に、ほかの思いがあったのも本音。心の底では「今の状況を受け入れて、この体で生きていくしかない。もう「病人」ではなく、障害者手帳を取得した「障がい者」なのだから。その中で何ができるかを考えなくてはいけないという思いも抱いていたのです。

 

「特に2022
年10月、心肺停止寸前で救急搬送されたとき以降、気持ちは大きく変わっていきました。車椅子に乗ったままでも漫才をしたいという思いを抑えられなくなったのです」

 

大助さんにも打ち明け、マネージャーを通じて吉本興業にお二人の決意を伝えたのだそう。こうして、先に書いた4年ぶりのなんばグランド花月での漫才復帰が実現したのでした。まさに宮川花子という「パラ漫才師」の誕生です。

 

「なんばグランド花月でも大須演芸場でも御園座でも、お客さまは肩を揺らして笑い、大きな拍手を送ってくださいました。車椅子は、大助・花子にとってハンディにならなかったのです」

 

お客さまは正直。リアルな声や表情を目の当たりにして、花子さんはもちろん、大助さんは本当の意味で、一生治らないと言われる病を抱えて余儀なく車椅子生活を送る自分、そして「パラ漫才師」として仕事をしていく自分を受け入れられたのでしょう。同時に自らの使命や目標に気づいた瞬間とも言えそうです。

 

「『もう漫才はできない』と思い詰めていた当時の自分に見せてやりたいと思いました。『ほら、お客さん、こんなに笑ってくれたはるで』と。世の中には、車椅子で生活している人がたくさんいるし、劇場に車椅子で来る人もいらっしゃるでしょう。そんな方々に、私が車椅子で舞台に上がることで元気や勇気を与えたい。今は心からそう思っています」

 

次の話(9月27日20時に配信します)>>>>「なんでやねん!なんで俺、おしめ替えながらプーされなあかんねん」宮川大助の介護

前の話<<<<検査数値が悪化する。センターマイクが遠ざかっていく。私はもう、あそこには立てない

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『なにわ介護男子』宮川大助・花子 著 1,650円(税込)/主婦の友社

『なにわ介護男子』宮川大助・花子 著 1,650円(税込)/主婦の友社

 

<著書プロフィール>

夫婦漫才の第一人者。大助は1949年、鳥取県生まれ。会社員を経て、浪曲漫才の宮川左近に弟子入り。ガードマンの仕事をしながら100本の漫才台本を書く。漫才ではネタ作りとツッコミ担当。花子は1954年、大阪市生まれ。大阪府警に入庁後、チャンバラトリオに弟子入り。漫才ではボケ担当。79年にコンビ結成。87年に上方漫才大賞の賞受賞。2011年に文化庁芸術選奨 文部科学大臣賞 大衆芸能部門を受賞、17年に紫綬褒章を受章。19年12月、花子が自らのがんを公表。2023年5月に大阪・なんばグランド花月に復帰。徐々にステージやテレビ、ラジオ出演を増やしている。書籍は『あわてず、あせらず、あきらめず』(主婦の友社)ほか。

 

 

≪ライター 濱田恵理さんの他の記事をチェック!≫

 

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