相手の「気持ちをほぐせる」人に共通している「チカラ」とは?まひろの作品にも反映されていた【NHK大河『光る君へ』#35】
OTONA SALONE / 2024年9月16日 16時0分
*TOP画像/彰子(見上愛) 大河ドラマ「光る君へ」 35話(9月15日放送)より(C)NHK
平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第35話が9月15日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
中宮・彰子の「涙」に秘められた思いとは
まひろ(吉高由里子)が書いた物語に中宮・彰子(見上愛)や女房たちも夢中になっています。女房たちはそれぞれが光る君や幼い姫君について思うことを次々に口にします。
女房たちが去った後、彰子は「光る君に引き取られて 育てられる娘は私のようであった」「[この娘は]光る君の妻になるのがよい」と物語上の娘に自分を重ねてまひろに自分の感想を伝えます。まひろは「帝に まことの妻になりたいと 仰せになったらよろしいのではないでしょうか?」と中宮の本心を察し、背中を押しました。
彰子は自分の思いを伝えるのは私らしくないとまひろの提案を拒みます。この返答に対し、まひろは「ならば 中宮様らしい中宮様とはどのようなお方でございましょうか」と問いかけます。青い空や冬の冷たい気配が好きで、左大臣の苦労もよく知っており、いろいろなことにときめく心をもっている…と、まひろは自分が知る彰子について話します。彰子は他の女房には好きな色さえも口にしませんでしたが、まひろの言葉でありのままの自分を受けとめてくれている人がいると安心したのでしょう。
そして、一条天皇(塩野瑛久)が彰子のもとをちょうど訪ねてくると、「お上!」「お慕いしております!」と自分の心の内をストレートに伝えました。彼女の涙はこれまで堪えていたさまざまな思いが溢れ出ているようにも見えます。
一条天皇は定子(高畑充希)が最愛の人であり、彼女を失った悲しみを抱えているものの、彰子には自分と重なる部分もあることに気付いているはず…。一条天皇は自分の意思も芽生えていないような年齢で定子と結婚し、定子を姉のように慕う時期もありました。また、彼は高貴な生まれであるゆえに、母親である詮子(吉田羊)の事情も理解していました。彰子は幼い頃に一条天皇の妻として内裏に入り、彼女もまた父親である道長の事情を知っています。一条天皇にとって彰子の境遇は他人事では決してなく、自分と重なる部分も感じていたはず。一条天皇は彰子にそっけなかったものの、「いつの間にか大人になっておったのだな」という台詞には彰子を妹のように思い、そっと見守っていた彼の思いが込められているのかもしれません。
彰子は物語上の娘に自分の思いを託そうとしましたが、彼女は御嶽詣のご利益もあり、自らの手で帝との間にあった壁を打ちこわしました。彰子と一条天皇の関係性は今後どのように変わっていくのだろうか。
なぜ、まひろは人の心の扉を開けるのか?
まひろが一条天皇の心だけでなく、貴族たちの心を物語でとらえられたのは、人生の苦みを知り、さまざまな人たちと関わってきたからだと思います。まひろは中下級貴族の生まれですが、彼女は社会的な地位にとらわれず、偏見のない目でさまざまな人間を見てきました。道長のような実権者の息子の心の内や苦労を知り、直秀(毎熊克哉)をはじめとする民の心にもふれてきました。物語作家が多くの人から共感され、求められる作品を書くには、人間のさまざまな側面を知ることが大切だと思います。
また、作中の登場人物への共感度や生きることで抱える悩みの内容は社会的な地位によって変わることはさほどないのかもしれません。我が子を心配するのも、人を愛することで喜びや苦しみを感じるのも、大切な人と離れ離れになった辛さを感じるのも、誰かの陰謀により苛立ちを抱くのも誰もが同じでしょう。
まひろは人間の心の複雑さや人間の多面性を知っているからこそ、あらゆる立場の人に適切な助言を与えられるのだと思います。本放送では、まひろは一条天皇に道長の娘を思う親心を伝え、新王様を亡くした悲しみに暮れるあかね(泉里香)に寄り添って執筆を勧めていました。
どのような立場にある人にも寄り添い、思いに共感し、適切な助言を与えられるまひろの才能は物語にもあらわれていると思います。
▶つづきの【後編】では、平安時代「都の治安」についてお伝えします。紫式部も恐怖心を抱く体験をしていた。平安時代、内裏の近くには「盗賊」や「鬼」の存在も!?__▶▶▶▶▶
≪アメリカ文学研究/ライター 西田梨紗さんの他の記事をチェック!≫
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