「母親ではない私だから…」焦らず、見守り、理解しながら。「3世代ステップファミリー」の心地よいカタチを探し続ける【体験談】
OTONA SALONE / 2024年10月5日 21時1分
「家族=家父長制(※)」がスタンダードだという考え方は、今は昔。そのあり方や価値観は急激かつ多様な広がりを見せ、それぞれに唯一の「家族像」が描かれる時代を迎えています。
この「家族のカタチ」は、私たちの周りにある一番小さな社会「家族」を見つめ直すインタビューシリーズです。それぞれの家族の幸せの形やハードル、紡いできたストーリーを見つめることは、あなた自身の生き方や家族像の再発見にもつながることでしょう。
お一人目としてご紹介しているのは、51歳で初めての結婚をし、結婚10年目を迎えたひろみさん(仮名)。
離婚歴のある4歳年上の夫と結婚後、3人の息子の家庭を見守りながら、ステップファミリーとして過ごしています。
【前編】では、20代で結婚に明るい未来を見いだせなかったひろみさんが、51歳で結婚に至るまでの心の移ろいやその道のりをご紹介しました。
【後編】の本記事では、ステップファミリーをどう理解しながら関係を構築してきたかについてお聞きします。
◀この記事の【前編】を読む◀ 『51歳、初めての結婚。夫の家族に飛び込んで「ステップファミリー」に。決断できた決め手とは【体験談】』__◀◀◀◀
※男性の「家長」が一家の長となり,ほかの家族メンバーに対して絶対的な支配権 をもつ家族制度のこと。
【家族のカタチ ♯1】後編
母になろうとしない。程よい距離感を大切にしたステップファミリーとの関係構築
ひろみさんが夫となるAさんとの結婚を決めたのは、婚活開始からちょうど1年を迎えた頃。Aさんと出会ってからは3ヶ月というスピードでした。スムーズに事が進んだのは、互いに婚活中の熟年カップルだったという点も大きいですが、それに加えて家族からの祝福があってこそだったといいます。
「結婚を決めた当時、彼は離婚して3年。義母にしてみれば“まだ3年”という感覚だったのでしょう、『少し早すぎるのでは?』と言われました。けれども、お互いにいい大人ですからね。きちんと思いを伝えることで理解してもらえました。
かたや私の両親も、一度は出来上がった家族の中に結婚歴のない私が飛び込むことを心配はしていましたが、むしろ私に支えてくれる存在ができたことの喜びのほうが勝って祝福してくれました」。
Aさんの3人の息子さんからも、大きな反対はなかったのだそう。
「息子たちは全員独立した大人でしたし、そのうち2人は既に結婚もしていました。
ステップファミリーといってもそれぞれに家庭があって同居するわけでもなく、適度な距離感と年齢でしたからね。何より、自分の父親が一人で老後を過ごしている心配のほうが大きかったようで、パートナーを迎えることを歓迎してくれました。
長年連れ添ってきた彼の家族がいて、そして私には彼がいて。
だから、彼に任せておけば悪いようにはならないだろう、というのが私の基本スタンス。あまり大きな心配はありませんでした」
と、謙虚さと穏やかさを胸に新生活をスタートしたというひろみさん。
「二人の間にやってくるハードルは、巡り会えた信頼できる相手と一つずつ乗り越えていけばいい」――婚活中に胸に抱いた自らの考え方を体現するかのように、ひろみさんは、息子3人とそのお嫁さん、さらには義母に孫からなる大きなステップファミリーの一員となりました。
同時に、Aさんの元の奥様とのお付き合いも――。
「私と夫が結婚して間もなく、いくつかの家族行事がありました。孫のお宮参りには元の奥様と私が一緒に出席したものの、息子の結婚式には私は遠慮して元の奥様のみが参列しました。それはまったく気になりませんでしたね。だって、息子たちにとって唯一の大切な母親ですから。私が前に出る必要はないんです。
息子たちのことは、人と人として仲良くしながら見守ればいいかな、と思っていました」。
一方で、元奥様との関係には少々葛藤もあったのだとか。
「今の住まいは広いので、息子たち一家が揃って泊まりに来ることも多かったんです。時には、元の奥さんも一緒にね。
同じ空間にいれば、元奥さんからの夫の評価が私の耳にも入ってきます。お別れした元妻から見た夫は、必ずしもプラス評価ではない。当然ですよね。でも、これから家族としてやっていこうという立場の私にしてみれば、複雑な思いを抱いてしまうこともありました」。
それでも最初は「子どものためにも、元の奥様ともっと仲良くしたほうがいいのでは」と考えていたというひろみさん。ところが、徐々に思いに変化が生まれてきたといいます。
「夫のネガティブな話を耳にする私は、幸せではない。だったら、変に『子どものため』と自分を犠牲にせず、ほどよい距離でお付き合いしていけばいいのかな、と思えるようになりました。私はもともと人と距離を詰めるのが苦手で、それは悩みの種でもあったのですが、このときだけは別。自然に心地よい距離感をキープできているのは、自分の資質のおかげです」と笑います。
周囲との関係は「現実」を受け入れる。夫婦の関係は妥協なく話し合う
そんな程よい距離の取り方は、他の家族に対しても発揮されたようで――。
「基本的に、私たちにとって最も大切なのは、私たち夫婦が仲良く過ごしていること。
だからこそ、私たち二人以外の外の世界には口出ししない、というのが一貫したルールです。子どもたちがしたいことは全力で応援しますが、人生の先輩ぶってアドバイスや意見はしません。だって、私たちは彼らより30年も考え方が古いんですから」とひろみさん。
「息子たちは父親思いで、頻繁に自宅に寄ってくれますが、そういうときも私がその場に無理に入っていくことはありません。
一方で、元奥様と息子たちもよく会っているようですが、それも私がつべこべ言うことではない。
息子たちとの距離を詰めようとしたり、お母さん的ポジションを目指したりすることなく、夫と息子たちの様子を一歩引いたところから見守るのが基本的なスタンスですね」。
さらに2年前に亡くなった義母との関係構築についても。こんな風に振り返ります。
「義理の母の介護では私も泊まり込んでお手伝いしたことも多かったのですが、いざ看取りを迎えたときには、夫の姉と元の奥様が介護の中心でした。元の奥様は息子たちを育てる時期に、義母を頼っていたことも多かったと聞いているし、何より義母と過ごしてきた時間の長さが私とは圧倒的に違う。関係の深さの差を感じるようで、辛かった瞬間もありました。
それでも、義母との関係は私なりに丁寧に構築できていたとも思います。
もちろん、嫁と姑ですから、巷によくあるような悩みや揉め事はありました。でも、私たち以上に年を重ねた義母ですから、在り方や考え方をこちらに合わせてもらうのは非現実的ですよね。だから、義母のスタイルは受け入れて、気持ちの折り合いがつかない時は夫に聞いてもらう――そんな風にバランスをとりながら関係を積み上げていきました」。
それぞれの家庭の環境や文化を受け入れ、自分好みに無理に変えようとしない。現実を受け入れ、それを前提に自分たち夫婦の在り方を考えるのがひろみさん夫婦のひとつのカタチだったようです。
ところが、「夫との関係構築となると話は別!」とひろみさんはいいます。
「夫婦の間の違和感は妥協なく話し合い、結果として互いに変化していますね。
たとえば、私は亭主関白な両親の関係に疑問も抱いていたし、男女がフラットな仕事場で過ごしてきたから、夫とも対等な関係で過ごしたかった。けれど、夫は食事中に何かが必要になると、母親や奥さんに持ってきてもらうのが普通だったようなんです。最初は男尊女卑!?と思ったのですが、よくよく聞いてみると、実は『女がやれ』ということではなく、自分のために心配りをして手間を割いてくれることがうれしい、という意味合いだったんですね。
そういう話し合いを何度も重ねました。長距離ドライブの途中でケンカになって、途中で車を停めて路肩で話し合い、なんてこともしばしば(笑)。でも、『お互い大人なんだから』と物分かりのいいふりをせず、すり合わせを重ねて作用しあっていくこの工程が、夫婦関係においてとても大事だったんだな、と今は思います」。
育児未経験のままおばあちゃんに。その知識と経験を補うためにとった行動とは……
新たな家族との関係構築ではこれまでの経験を活かせたひろみさんでしたが、絶対的な自らの経験不足を実感せざるを得ないシーンがあったといいます。それが、育児。
結婚と同時に3歳の孫のおばあちゃんにもなったひろみさんは、出産・育児は未経験でした。さらに、孫のママ世代であるお嫁さんたちの悩みや感情も想像しきれなかったといいます。その経験不足を補うためにひろみさんは2つの行動をとりました。
「1つめは、学習塾でのアルバイトです。幼児から小中学生まで通う場で学習サポートをしました。泣きながら勉強する子もいれば、遊んでばかりで全然勉強しない子もいますからね。日常の育児に比べたらもちろんほんの一部に過ぎませんが、それでも子どもの実態に触れることができる貴重な機会でした。
そしてもう1つの行動が、30~40代のワーキングマザーが中心をなすオンラインコミュニティへの参加です。お嫁さん世代の頭の中や悩みに触れながら、どう付き合えばいいかのヒントを得られれば、と」。
家族のことを理解したい――すべてはその思いが原動力だったといいます。
「日常生活では、自分とは違う世代と触れ合う機会もなく、入ってくる情報も限られますよね。コミュニティでは、その壁を越えてお嫁さん世代の一生懸命な姿勢に触れられる……それがとてもうれしいんです。ステップファミリーとの人間関係にはもちろんのこと、自分の暮らしや生き方まで豊かになったと感じます」。
自分に足りないところを素直に見つけて、確かな行動で課題を一つずつクリアしていくひろみさん。その行動力の秘訣を聞いてみると――。
「すべては、結婚して、家族を得たことに集約されると思います。
実は昨年から日本語教師を目指して勉強をしていて、つい先日就職が決まりました。以前の私なら『人に教えるだなんておこがましい』と思って、選択肢にすらのぼらなかったはず。ところが結婚して家族ができたことをきっかけに、先ほどお話したような新たな場への扉を開く機会に恵まれました。
すると、『人の上に立つのは向いていないけれど、後ろや横から応援したり伴走したりするのは好きだ』という自己理解まで深まったんです。
家族が与えてくれるきっかけが、私の興味と行動力を生み出してくれています」。
互いに無理をしない。サステナブルな関係づくりのためにできること
50代での結婚とステップファミリーの存在によって、世界を広げ、豊かな日々を過ごしているひろみさん。時を経て、家族との関係はますます良好になっているようです。
「夫は情熱的でストレートな人ですから、私へのものの言い方が強くなる時も。そんなとき、長男が私の味方になってくれます。
また、お嫁さんたちには仕事がありますから、体調を崩した孫の預け先に困ったときには私が呼ばれて、泊まりがけで育児のサポートをすることも。
自然に頼られたり、支えてもらったり……そんな瞬間に出くわすたびに、ステップファミリーがいてよかったなぁ、と思うんです」
相手を尊重しながら、時間を味方にじんわりとステップファミリーとの関係をあたためてきたひろみさん。
前にしゃしゃり出てアピールしなくても、その気持ちがきちんと伝わっていたことがわかる日常は、家族のカタチに迷う人に対しての『焦らなくても大丈夫』というメッセージにも思えます。
「結婚当初は、息子たち家族がみんな揃って自宅に泊まりにくることがうれしい一方で、『お料理やおもてなしを、がんばらなくちゃ』という力みもありました。でもね、最近は近くの大きなお宿に頼っているんです。昼間は自宅で、みんなでにぎやかに過ごして、夜になったらお宿に移動。食事や布団の上げ下ろしは私以外の方にお任せするというハイブリッド型にしたら、ものすごく楽になりました」。
結婚10年目を迎える今も貪欲に、互いに楽でいられる方法をブラッシュアップし続ける様子がうかがえます。
「そういう情報や選択肢は、オンラインサロンの若い世代の仲間から教えてもらうことが多いんです。自分だけの価値観に頼ると『自分の手を動かさなかったら手抜きに思われるんじゃないか』なんてことも、嫁世代にしてみると実はむしろ合理的だと感じていたりするものなんですよね。だから、今はお料理も全自動調理鍋に頼ることも多いんですよ。
時代にフィットしたアイデアやインスピレーションを取り入れるのは、良好な関係維持の大きなポイントかもしれません」。
できないことが増えていく老後も、自分に責任を持ち続けるために
50代で結婚したひろみさんも、今は60代。今後迎える老いに対しても、ステップファミリーへの思いやりを忘れません。
「いよいよ私たちも『どう歳をとって、どう暮らしていくか』を考える必要が出てきました。もちろん、これからできないことが増えていくけれど、それでもいつでも楽しみながら生きていきたいと思っています。
大前提は『何かあったら私たちは施設に入る』というスタンス。これは以前から息子たちに伝えてあるんです。
その上で、できるだけ長く自分の身の回りのことができるよう、惜しみなく環境を整えるようにしています。自宅はもともとバリアフリーの一戸建てを中古で購入しましたが、さらに床暖房を導入したり手すりを追加したり……。
でもね、だからといって自宅に執着しているわけでもないんです。街自体が過疎化すれば、都心のマンションに移ることもあるかもしれない。あらゆる変化や家族の考え方に対応できるよう、最大限選択肢を広げておくこと。それが自立した老いであり、家族の生活を守ることでもあると思っています」。
自分がきちんと幸せであることを、何より大事にしてほしい
昨今多様化し続ける、家族のカタチ。決断のタイミングも家族を取り巻く状況も千差万別だからこそ、模範解答にも頼ることができません。ステップファミリーの一員として迷ったとき、ひろみさんはどうしているのでしょう?
「自分の真ん中に置くべきなのは、『自分が幸せかどうか』という基準ですね。
……なんて、偉そうに聞こえるかもしれませんが、これまでの私はついつい人のことを優先しすぎる真逆の人間でした。相手がどう思ってくれるだろう、相手の期待に応えなくちゃ、ということばかり考えて。でもね、ステップファミリーに飛び込んだ今思うのは、『やっぱり自分が幸せじゃなくちゃ』ということ。
誰かのためにがんばっても、気に入られようと尽くしても、自分が幸せじゃないと、結局空回り。相手にとっても重いし押しつけがましいし、うれしいものとして受け取ってもらえない。気づかないうちに発動している自分の勝手なこだわりが、誰のことも幸せにしていないことって、意外と多いんですよね。
だから、私の場合はオンラインコミュニティなどで様々な情報に触れながら、いろんな生き方や暮らし方に触れて、自分にない価値観や選択肢を知ることができることがとてもありがたいんです」。
そして最後に、オトナサローネ読者の人生の先輩として、こんな言葉も。
「女性って結婚や出産をするかどうか、それをいつにするか迷う方が多いですよね。それで納得できる結論と結果にたどり着ければいいけれど、思い通りにいかなかったり、『本当にあれでよかったのか』と悩み続ける人も多い。
でもね、どんな今を手にしていても、自分を責めたり、傷つけたりしないでほしいと思うんです。
みんなと似た時期に同じような経験ができなかったからって、あなたがダメなわけでも、何かが足りないわけでもない。家族のカタチ以前に、人生の選択肢が多様化している時代だからこそ迷いも増えるけれど、同時にその先にたどり着く未来の選択肢も増えているということ。
自分の幸せを真ん中において、今から何ができるか、どんな人に囲まれ、どんな家族を作っていくか。そう考えていくと、見える世界は広がっていくはず。そして私自身も、そんな姿勢で、これからも家族とともに楽しく幸せに過ごしていきたいと思っています」。
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