「パパはアホ宣言」をして、夫としても親としてもプライドは捨てた。障害を受容して生きる「覚悟」ができた
OTONA SALONE / 2024年10月16日 21時1分
大人になってから発達障害と診断された石橋尋志さん。就職しても発達障害のためうまくいかず、職を転々としました。生きづらさを感じていましたが、診断されたのを機に障害を受容。すると、特性に合った仕事に就くことができ、結婚して子どももできました。
後編では、結婚生活や育児についてお話を伺いました。
◀この記事の【前編】を読む◀ 仕事が長続きせずに転職を繰り返していた石橋さん。診断がついたものの、治るものではないということを知り……。 __◀◀◀◀◀
※本記事では、取材対象である石橋さんやご家族の言葉やお考えををそのままお届けしています。当事者としてのご発言であり、そこに差別的な意図は含まれていないことをご理解のうえ、お読みください。
【発達障害、生きづらさを考える #6後編】
夫婦はお互い様
石橋さんと奥さんの明美さん(仮名)は、高校の同級生。ずっと付き合っていたわけではなく、発達障害と診断された頃に再会して意気投合、結婚しました。
「その時に勤めていた会社はちょっと有名な会社だったのですが、そこを辞めて、今の会社に入ってから結婚しました。再会して結婚を決めるまでは“できる奴”のフリをしていました。嫁には、結婚前から発達障害だと言っていたのですが、話しても『よく分からない』と言っていました。今は『だまされた』と言っています(笑)。
『僕のどこが良かったん?』と聞くと、『人の話を聞いていないのに、聞いたフリができるところ』だと。僕はおしゃべりが上手なんですが、どうでもいい話を延々と聞くこともできるんです。正確に言うと、僕はそもそも話を聞いていないし、聞いてもすぐに忘れてしまいます。聞いた“フリ”ができるんです。『そうなんや、そうなんや』とマシンみたいに。だから、嫁の話を30分でも聞いていられます。
子どもができてから、子どもの話を聞くのに時間を割いていたら、嫁が『私の話、最近聞いてくれへん』と言うんです。『30分無駄話を聞く能力を子どもに使っているから、お前には使えない』と言ったら、それは納得して、『30分全部子どもに使わないで、10分と20分にして』と言っていました(笑)。
夫婦で喧嘩になった時に、『あんた、私のこと家政婦と思ってるんちゃう?』と言われたので、『お前こそ俺を無料のカウンセラーだと思ってるんやないか。家政婦も時給高いと思うけど、カウンセラーはもっと高い。30分5千円やから同等。お前は家政婦、俺はATMとカウンセラーをする』、と言ったら笑っていました。
安月給だけど、そんな感じでギリギリの生活を送っているので、私は発達障害の中のギリ層です。発達障害は、バリ層、ギリ層、無理層に分かれています。
バリ層は大手グローバル企業の創業者とかスピルバーグとか発達障害だけど特性がマッチしてバリバリ働ける人で、全体の1割くらい。私みたいなギリギリ生活しているギリ層は6割くらい。どう考えてもその特性で現代社会を生きるのは難しい無理層は3割くらいだと思います。」
明美さんは、「発達障害だから仕方ないかもしれんけど、開き直っているのがうっとうしいなあ」とも言います。
「いい意味で夫婦ってそういうもんじゃないですか。表の面が好きで結婚するけど、一緒になったら『なんじゃこりゃ?』という裏の顔がある。結婚して一緒に生活したら見えなかった部分が見えてくるので、お互いそれが嫌なんだと思います。究極、嫌になると離婚になるけど、ちょっと嫌だなくらいだと、お互い様なので見ないように努力しています。」
寛容なパパ、厳しいママ
お子さんが生まれたのは石橋さんが38歳の時。障害を受容して、発達障害のまま生きていく覚悟ができていました。
「子どもが生まれた時は嬉しかったです。子どもにはできないことがたくさんありますが、僕は自分がでこぼこなので、寛容に接することができます。
でも、嫁はそうじゃない。子供の頃からなんでも感覚的にぱぱぱっとできたらしく、自分を基準にして考えるので、『この歳でこれができないのはおかしい』と、子どもにしつこく言っています。
どちらかというと僕はブレーキ役で、『できなくていい、言うな』と諭していますが、嫁は、『いや、できないと困る、この子が困る』と言って聞きません。
よく夫婦で意見が食い違うのですが、僕はそれでいいと思っています。子どもに選ばせたらいいんです。
『パパはこう思う、ママはこう思う、あんたがどっちにするか決めなさい』と。まだ低学年ですが、自分で決めないといけないので決断力がつきます。選んだ結果どうだったかという話もします。
息子は、両方の意見をうまく組み合わせて判断できるようになりました。『この場合はママの言うことを聞いておこう。この場合はパパの言うことを聞いておこう』と。自分の中で切り替えができるようです。
見ていると、『こいつすごいな』と思うこともあります。嫁が『宿題しといてや』と言って出かけたら、僕は甘やかす方だから、『お〜い、宿題なんかすんなよ。YouTube見ようぜ』と誘います。でも、息子は、『宿題してからYouTubeみる』と、宿題をします。自分で優先順位をつけているんですね。我が子ながらびっくりします。」
パパはアホ宣言
石橋さんは物忘れがひどいのですが、息子さんはそのあたりも心得ています。
「私は、『パパはアホ宣言』をしています。プライドも捨てたから、いいお父さんのふりなんかしません。できるお父さんではないと言ってあります。
機嫌が悪い時は、『俺、今日は機嫌悪い』と言うのですが、ヒューっと逃げて行きます。
出かける時も、ママはちゃんと用意してくれるけど、パパと出かける時はやばいなと分かっています。私と出かける時は、自分からママに『(出かける準備をするから)手伝って』と言いに行きます。
宿題や勉強を『したくない』と泣いていることもありますが、僕が、『そうなんや、パパみたいやな、一緒にアホになろうぜ』と言うと、ふとキリッとした目になって、『やる!パパみたいになりたくないからちゃんと勉強する』と泣きながら言います(笑)
大人でもできないことがあると分かると、自立心が芽生えます。『こんな大人に頼っていたらあかんわ』と。
発達障害でポンコツなくせに、かっこいいお父さんをしようとか、いわゆる満点の母親をしようとすると子育てはうまくいかない。大人も完璧ではないので。」
定型者が上で発達障害者が下ではないという考え方
石橋さんは自助会を発足させ全国に広めたのですが、発達障害が定型者に理解されるとか、社会に受け入れられるということは、今後もあまりないと思っているそうです。
「今は、定型者が上で発達障害の人が下という構図でしょう。それがフラットになるのではなく、左右になるのが理想です。発達障害者と定型発達障害者とグレーの人と、将来、血液型のように理解されるのではないかと予想しています。
定型発達も障害と捉えるんです。周りの人と同じことをしないと不安になったり、メンタルがすごく不安定になったりするので、発達障害と対極の障害として捉えられるようになる。
それは多分、いつか発達障害が理解されるというのとは違います。それぞれ血液型が違うように、みんな一緒というのではなくて、横のラインの区別は残ったまま。どちらがいいとか悪いとかいうのではなく、縦構造ではなく横構造になると予想しています。
定型発達障害者という位置付けになって定型者になりたがる人が減ると、発達障害の人の生きづらさは軽減されるでしょう。『発達障害者は発達障害者で生きていこうぜ』ということになります。
定型者との関係が上下じゃないから、そういう意味では理想的な形です。今の発達障害者が思っている理想、定型者に理解されるということではありませんが、現実的には理想的な形になるでしょう。」
>>>専門医・岡田俊先生による解説
「ADHDの人の家族関係。特性とどう付き合っていく?」
【岡田俊先生のここがポイント!】
石橋さんのいう「アホ」は、関西独特の表現であり、そこが他の地方にお住まいの方にどこまで伝わるものかは定かでありません。
関西でいうところの「アホ」は、どこか愛らしい、生来の間が抜けたところのことをいうのであり、「なぜ。お前はなぜそうなのか」と詰問することも、それを克服することを求めることもありません。
また「アホ宣言」をしたというのも、ご本人はプライドを捨てて…という表現になっていますけれども、自己卑下しているわけでもありません。
石橋さんの随所に見られるのは、自分なりに自分らしく生きていく、それ以上のことをしようとしてもできないし、それが自分を活かすためにも一番だということなのでしょう。
でも、この言葉は発達障害の有無に関わらず、誰にも言えることなのかもしれません。
ご家族が「だまされた」「開き直っているのがうっとうしい」と言うのは言い得て妙です。だまそうとしたわけではありません。また、克服しようとする努力が欠如しているわけでもありません。
お付き合いをしている段階では困難は見えにくく、優しさや素直さなど、ポジティブな面が表に見えたのでしょう。しかし、実際に暮らしてみると、それ以上のことが要求され、難しさも見えてくる。そこを受け止めている当事者家族の大変さも理解する必要があります。
石橋さんも、その感謝を忘れないところがどこか見えるからこそ、夫婦円満に進んでいると思います。
石橋さんはギリ層だと言いますが、それはご家族にとっても「ギリ」であり、ときには限界を超えるときもあるでしょう。すべての当事者がこういくわけではなく、家族の困難はもっと深刻だという現実もあることは直視する必要があります。
定型発達と発達障害をどう考えるかというときに、血液型のように考えるというのは、ニューロダイバーシティーの考え方に近いといえましょう。
互いにフラットな関係であり、少数派と多数派という違いに過ぎないわけです。
血液型でその人の行動パターンがわかるなどという医学的に根拠のない言説は巷ではよくありますけれども、その真偽を突き詰めなくても良いのは、人の行動パターンは様々であり、そうして社会は成り立っているからです。
しかし輸血のように、血液と血液を混ぜ合わせたとしたら、そういう悠長なことはいってられない重大な事態に発展します。
結局、私たちが互いの違いに対して寛容になれるかが、人と人との交わり方をほどよく保てるのか、という社会の在り方に関係していることともいえます。
ネット社会が広がり、さらに、コロナ禍を経て、私たちのつながり方も変化してきました。そのつながりの多様性を大切にすることも重要なことかも知れません。
【岡田俊先生プロフィール】
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長/奈良県立医科大学精神医学講座教授
1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。
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