「たしかに臭そうで、近寄りたくない」なぜ我が子に「便器」「おまる」が由来の名前をつけた? じゃあ、紫式部の名づけ理由は?【平安時代の名前事情】
OTONA SALONE / 2024年10月7日 16時31分
*TOP画像/彰子(見上愛) 敦康親王(渡邉櫂) 大河ドラマ「光る君へ」 38話(10月6日放送)より(C)NHK
『光る君へ』ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は平安時代における「名前」について見ていきましょう。
◀この記事の【前編】を読む◀ 『今でいうなら、ききょうはキラキラした「インスタグラマー」、まひろは本音ぶちまけ「X民」だった⁉ 【NHK大河『光る君へ』#38】』__◀◀◀◀◀
平安時代の親たちは我が子を名前でもののけから守ろうとしていた
人の名前には親の思いや願いが込められていますが、平安時代の人たちは我が子にどのような思いで名前を与えていたのでしょうか。
当時、幼児を含む人びとの病いによる死亡率は高く、病気の原因はもののけと考えられていました。親たちは子どもにおまるや便器を由来とする「~丸」「まろ」「くそ」といった名前をつけて、もののけが子どもに近寄らないようにしていました。当時の人たちは、もののけは汚いものや臭いものの名前がついた人を遠ざけると考えていたのです。
藤原鷲取の娘で、桓武天皇の夫人の名前は藤原小屎(おくそ)といいます。「屎」には大便やくそ、尿といった意味があり現代人からすると不適切な名前のようにも思えます。しかし、当時において前述の理由から我が子への愛情が込められた立派な名前でした。
帝の后や貴族の女性の名前は「~子」が多い
皇室の女性は「~子」という名前が現代においても習わしとなっています。こうした習わしは平安時代から続いており、身分の高い女性には「漢字一字+子」の名前が与えられていました。
例えば、道長の姉であり円融天皇の妻は詮子、一条天皇の妻は定子、道長の妻は倫子です。また、道長の娘たちにも彰子や妍子など「子」がついていますよね。
なお、平安時代以前は小野妹子のように、身分の高い男性の名前に「子」が使われていました。
紫式部も清少納言も本名じゃないって知ってた!? 彼女たちの本名は…?
平安時代、女性の名前を記録するのは上流貴族の場合に限られました。帝の后や娘にでもならない限り、名前が書き留められることはなかったといわれています。
紫式部、清少納言、和泉式部、右大将道綱の母といった現代にも名を残している女性作家たちも、彼女たちの父や夫の名前は分かっているものの、本人の名前は明らかになっていません。現代に伝わっている彼女たちの名前は、宮仕えのときに与えられたあだ名のようなものです。以下、彼女たちの名前の由来を見ていきましょう。
・紫式部(『源氏物語』)
父親が式部省の役人だったことに由来する。藤原氏の出身のため、藤式部という名で宮仕えをしていたが、『源氏物語』が流行ると登場人物の紫の上にちなんで紫式部と呼ばれるようになった。
・清少納言(『枕草子』)
清原氏の出身であること、親族の官位から清少納言という呼び名がついた。
・和泉式部(『和泉式部日記』)
夫が和泉国(大阪府)の役人をしていたことから、「和泉式部」という呼び名がついた。
・右大将道綱の母(『蜻蛉日記』)
道綱という息子の母親であるため、「右大将道綱の母」という呼び名がついた。
宮仕えをする女性には父、もしくは夫の名前や地位に由来する呼び名が与えられるのが一般的でした。本人の個性や特徴をとらえたあだ名がつけられることは基本的になかったようです。女性の個人としてのアイデンティティは軽視されていたことがうかがえます。
なお、『源氏物語』が宮中で大ブームとなったため、この物語の作者である紫式部は例外的に彼女らしさがあふれるあだ名で呼ばれていました。
参考資料
吉田裕子 (監修)『るるぶマンガとクイズで楽しく学ぶ!源氏物語』 JTBパブリッシング 2023年
村田正博(監修)『絵でわかる「百人一首」』PHP研究所 2010年
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