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震災後、「仕送りはいらないよ」と大学生の娘。家族で支え合い見つめる、「私にできること」のカタチ

OTONA SALONE / 2025年1月1日 12時2分

様々な価値観が多様化する昨今、「家族像」もそれぞれに唯一の在り方が描かれるようになりつつあります。この「家族のカタチ」は、私たちの周りにある一番小さな社会「家族」を見つめ直すインタビューシリーズ。それぞれの家族の幸せの形やハードル、紡いできたストーリーを見つめることは、あなた自身の生き方や家族像の再発見にもつながることでしょう。

今回ご紹介しているのは、石川県能登町に暮らす上野朋子さんです。

金沢市出身の朋子さんは、結婚後、ご主人が実家を継ぐことになったのを機に、能登半島の能登町・柳田地区へ。現在は、大学生・高校生・小学生の3人の姉妹を育てながら、「農事組合法人のとっこ」の代表の妻として、家業のしいたけ作りに精力的に関わっています。 

 

これまでは前・中編(◀【中編】はこちらから読む◀)を通して、震災直後の生活や、大きく被災した家業のしいたけ栽培の再建の道のりで見つけた「家族のカタチ」をご紹介してきました。

後編となる今回は、震災後の子どもたちの変化や、震災から1年を迎えた今思う「家族のカタチ」についてお聞きします。

 

【家族のカタチ #6(後編)|能登編】

傷つきと、自立と。それぞれに変化した、震災後の子どもたち

7年前の夏、能登町にある五色ヶ浜海水浴場にて。

廃業が頭によぎる夫の傍らで、諦めず「今できること」を次々と行動に移し家族に希望を与えてきた朋子さん。インタビューでの語り口からも、気持ちのよい明るさと潔さが溢れ出ます。

 

ところが震災後の育児では、少し違ったスイッチを入れることも必要だったようです。

「三女は震災当時小学校1年生でしたから、当然あの震災後は不安ですよね。おまけに、大きな余震がひっきりなしに続いていましたから。それまでは短い時間なら留守番もできていたのが、震災後はトイレに行くのも心細くてたまらない。1人で過ごすことを極端に嫌がるようになりました。

震災前は、年齢的にも少しずつ自立を意識させるようなコミュニケーションを増やしていたんです。震災以前の私だったら、怖がる娘に対して『もう7歳だから出来るよ、大丈夫!』などと、明るく笑って声をかけていただろうと思います。でも、あの地震は訳が違う。『そうやよね、怖いよね。大丈夫やからね』と、思いを受け止めつつ否定しないことを心がけていました」。

ママと一緒に、近所の犬に会いに行ったり散歩をしたりするのが大好きな三女。

甘やかし過ぎとも思えるほどに丁寧に対応したという朋子さん。その甲斐もあり、9カ月ほど経った頃、やっと以前のように留守番ができるようになったといいます。

「余震の減少と、時間の経過――もどかしくはありましたが、思いを受け止めながら、それを待つことが大切だったのだと、今は思います」。

 

 

「仕送りはいらないよ」――娘の決断に見える親子の20年

一方、三女とは年の離れた長女と次女の震災後の様子はどうだったのでしょう?

「次女は当時高校2年生で、受験に向けて力が入り始める時期。ところが、学校再開後も、道の状況が悪くバスが通れなかったため、しばらくリモート授業でした。聞きづらかったり集中しづらかったりと、もどかしさを抱えていたようです。出鼻をくじかれたような焦りもあったと思います。

家族で出かけた輪島の朝市通りで次女と。(2015年に撮影)

大学1年生だった長女は、比較的早い時期に東京の大学に戻りました。能登とは違う安全で便利な場所ですから、親としても距離が離れたことへの心配より、安心の方が圧倒的に勝っていましたね」。

 

親の目から見ると落ち着いて過ごしていたという長女と次女。それでも、心の内側では親の想像以上に様々な事を感じ取っていたようです。

「長女は大学で開催された“能登を想う”をテーマに掲げたイベントの運営を積極的に手伝ったりしていたようなので、離れていても思いは共にしていてくれたのかな、と感じます。

それから……『しばらく仕送りはいらないよ』と自ら申し出てくれました。やはり会社が大変な状況を目の当たりにしていたので、思うところがあったのでしょうね。心配させてしまった申し訳なさもありつつ、娘の優しさに甘えることにしました」。

イベント出店の際にも手伝ってくれる長女。昨年10月『さわやか信用金庫』主催の物産展で。

以来、勉学と共にアルバイトを頑張る日々だという長女の姿は、震災直後、落ち込む夫の隣で「今できることを」と立ち上がり動き続けた朋子さんの姿にも重なるよう。これまでの20年の月日の中で、母から娘へと伝わっていたもののカタチを見た気がします。

 

 

「ありがとう」の気持ちを、家族を越えて、社会にも

多くの人々の応援を支えに、夫・誠治さんは今日もしいたけに向き合う。

取引先やお客さま、クラウドファンディングの支援者など、全国のあたたかな声に背中を押されながら歩んできたこの1年。状況は前進したものの、朋子さんたちにとって震災は過去ではありません。

「しいたけは、培養の土台となる菌床ブロックをどの時期にどれくらい入荷させるか、という年間スケジュールを組んで生産していくんです。ところが、震災でそのスケジュールは白紙どころか、ぐちゃぐちゃになりました。ブロック以外の被害もありますから、環境がいつどれだけ整うか……いまだに先が見えないんです。以前のような状態に戻るには、これから何年もかかりますね」。

肉厚でジューシー、椎茸本来の味わいが特徴の「のとっこ」の椎茸は人形町今半でも使われている。

全国996品のキノコが集まる品評会で2020年に最優秀賞を受賞した「のとっこ」のしいたけ。震災前は高級すき焼き・人形町今半の全国13店舗に提供していたものの、収穫量が落ちた現在は4店舗分の出荷に留まっているといいます。

「でもね、もうやるしかないんですよ。地震以来、『普通にやっていたらどうにもならないから、なんとかしなくちゃ』って。最初は家業のお手伝いだった私ですが、この仕事への本気度が増しましたね」。

 

震災後の日々をそう振り返りながら、「前よりもたくましくなった気がします」と笑います。さらに、こんな変化もあったのだとか。

「毎晩寝る前に、感謝するようになったんです。本当に身近な場所で、建物が潰れ、知り合いが亡くなってしまうことを経験する日々でしたから。毎日ここで、こうして生きていることがどれだけありがたいことか、本当に身に染みました。

今日も元気に夜を迎えられたこと。あたたかい布団で眠れること。のとっこのお客様にも。そういったすべての日常に『本当にありがとう』って思いながら目を閉じています」。

農水省主催・就農希望者向けのセミナー講師として、また近隣の学校から「ふるさとを知る」授業に来てほしい等のお声がかかると、夫婦揃ってもしくは朋子さん1人でも話をしにいくようにしている。

そんな感謝を胸に歩み続ける朋子さんは、同時にこれからの自分にも思いを馳せます。

「これまではどこかの災害をテレビで見て『かわいそう』と思っても、行動となれば募金するのがせいぜいでした。でも今回当事者側になり、はるばる足を運んでくれるボランティアの方々に助けられ、本当に有難い思いをたくさんしました。

実際にこういったことを経験した今、今後どこかで災害が起こったら、多分私は今までと違う行動に出るんじゃないかな。自分にしかできないことがあるんじゃないかって、もう一歩踏み込んだ行動ができる気がするんです」。

 

まだまだ復興なかばの日常の中、今日も「いま自分にできることのカタチ」を見つめ続けている朋子さん。その視線は、家族という小さな社会を越えて、もう一歩広い世界へと広がりつつあるようです。

 

 

≪取材協力・画像提供≫ 「農事組合法人のとっこ」上野朋子さん

「農事組合法人のとっこ」石川県鳳珠郡能登町字寺分ロ部15-8(Tel:0768-76-0115)

上野さん夫婦と義母、社員(3名)・パート(6名)で、菌床椎茸・きくらげの生産、販売などを行う。2020年2月「第30回サンマッシュ品評会」にて、のとっこしいたけが最優秀賞「ゴールデンサンマッシュ賞」受賞。以来、すき焼きの名店や全国の百貨店などでの取り扱いも。生しいたけや各種加工品は、ネットショップから購入が可能。

百貨店などに並ぶ能登しいたけは、夫・誠治さんの写真入り。

おかずしいたけ 2種類セット(2,100円)

朋子さんが開発したは、小さな子どもたちにもしいたけを身近に感じてほしいという思いを込めた商品。「ご飯にかけて食べられること、添加物不使用など、親の目線から『こういうものがあったら良いな』を形にしました。優しい味でたくさん食べられると人気で、今では道の駅などでも購入いただけるように」(朋子さん)。

加工品を4点集めたギフトセット。「さすが日本一のしいたけ農家の製品」とお客さまに大好評。(3,500円)

「椎茸はつい火を入れすぎてしまう方が多いかなぁと。肉厚の美味しい椎茸が手に入ったら、石づきを取り、傘の部分にツナマヨとチーズを少しのせて、軽くトースターで焼いてみてください。とっても簡単なのに、椎茸ってこんなに美味しかったんだ!と感じていただけるのではと思います」と朋子さん。ホームページでは、調理のコツも紹介中。

 

≪ライター 矢島美穂さんの他の記事をチェック!≫

 

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