「次に死ぬのはお前だ」父の死で使命に気づいた医師が「全然誰にも相手にされない」健康医学教室を15年がかりで15都市に広げた一部始終
OTONA SALONE / 2024年11月19日 13時0分
人生100年時代、健康管理の大切さはよくわかっているつもりだけど、運動も食事も整えるのは明日からでいいかな……。
私たちはみな、「重要性はわかっていても、いますぐ健康のための行動はできない」ものでしょう。ところが、受講者の90%近くがリピートし、「聞いただけで急に健康スイッチが入った」「なぜか急に健康状態が改善されてしまった」「何を誘っても無視しつづけてきた夫がわずか半年で私より元気になった」と口々に感想を述べる教室があります。
いまから15年前に、鹿児島市の開業医が手弁当で始めた健康医学教室、「りんご教室」。かわいらしい名前ですが、その威力は強力です。なぜこの教室を始めたのか、その一部始終を伺いました。
人は毎日りんご1個分「入れ替わっている」。半年でほぼ全身が入れ替わる
「ここにりんごがあります。この、少し大きめのりんごは、体重80㎏相当の人のりんごです。あなたの体重はどのくらいですか?」
はい。私は50㎏台、同世代女性も平均54~55㎏くらいですね。
「では、この小さいりんごが50㎏相当の人のりんごです。なぜりんごを出してきたかと言うと、毎日、みなさんの体内は、それぞれりんご1つ分だけ入れ替わっているのです」
……? えっ、そんなにたくさん?
「はい。よく、人は『食べたものでできている』と言いますね。あなたの細胞は1日、頭の先から足の先まで、りんごの量くらい作り変わっているんです。これだけ作り替えるには、食べたものを運ぶ血液の流れが必要ですよね」
そうですね、食事で摂った栄養は小腸で吸収され、血液に乗って体内を流れるんですよね。
「ですが、年を取るとその血液の流れも悪くなります。だから運動が必要です。また、ストレスがかかると気持ちが落ち込んで、たとえば60歳の人も70歳の気持ちになってしまう」
えっ、ストレスで気持ちが老け込んでしまうということですか? 言われてみれば、そうかも、なにか後ろ向きになるかも。
「すると、不思議なことに体の質も70歳相当になってしまいます。いっぽうで、わくわくしていると50歳くらいの質になります。なぜならば、感情とホルモンはつながっていて、その質も変わるからです」
こう説明を始めたのは、つみのり内科クリニック 院長・山下積德先生。「つみのり先生」の愛称で親しまれる山下先生は、鹿児島市で開業して今年で20年。ご専門は内科・循環器内科です。
「毎日入れ替わる細胞の量と質が劣化することで人は加齢します。その加齢をホルモンが後押しして進めます。逆に言えば、入れ替わる内容の質と量を高めれば、加齢は止まり、人は若返ることができるのです」
あ、それは聞いたことがあります、最近よく言われる抗加齢、若返りの概念ですね。
「そうです。入れ替わりを意識することで、ホルモン補充療法のような薬の治療だけでは難しい部分を相互に補い合うことができます。この抗加齢の実践を、私は開業した2004年に実現しようとしたのですが……」
2004年!それはものすごく時代を先取りしていたのでは?
「はい。ですが残念ながら中身が難しすぎて(笑)。現在の、誰にでも実践していただける『りんご教室』にたどりつくまで15年もかかってしまいました」
「次におまえも死ぬぞ」と言われたかのような、突然の父の死。後悔だけが残った
山下先生の抗加齢の実践は1995年、阪神淡路大震災に端を発します。
「鹿児島大学を卒業、鹿児島市の市立病院で働いている最中に震災が起きました。10日間の予定で神戸に医療支援に入ったのですが、7日目に妻から父が倒れたと連絡が入りました。父は母を帯同して博多に出張中でした。妻の話の断片から心筋梗塞でもう間に合わないことは把握できましたが、知らない土地で一人で過ごす母を案じて、恐縮ですが支援は切り上げさせていただき、タクシーで通れる道を探しながら広島まで移動しました。これ以上はもう行けませんと言われ、そこからは開通した新幹線で博多まで戻りました」
つねづね奥様には「自分は開業には向かない、このまま一生勤務医を続ける」と口にしていた山下先生ですが、この体験を経て「医師としての軸が通った」と振り返ります。
「父が60代という若さで、そしてあまりにも急に世を去ったものですから、あとから少しずつ『もっとできたことはなかったか』と考えるようになりました。私は循環器が専門ですので、もっと父に教えられることがあったのではないか、教育があれば違ったかもしれないと後悔をするようになって。それまでの私はどちらかといえば受動的に、依頼をされて患者さんを診察する立場でしたが、この手遅れの大後悔と言うべき感情を脳内で反芻し続けるうち、医師として何をすべきかという使命のようなものに徐々に気づき始めました」
やがて鹿児島県枕崎市の市立病院で院長職に就いた山下先生は、改めて「これだけ医学が発達しているのに依然として病人が減らない」事実に直面します。どうすればいいのか悩みながら手探りで日々の診察を続ける中、2004年に東京で開催された学会に参加、「抗加齢」の概念に触れて「これだ」とひらめいたそうです。
「その学会、抗加齢医学会では、栄養・ストレスマネジメント・運動・加齢機序・サプリメント、さまざまな分野の専門家が発表を行い、医学だけではない総合力で健康を達成しようと考えていました。中でも、80代のお年寄りに成長ホルモン補充を行った発表が衝撃的でした。なんと、皮膚も垂れさがったヨボヨボのお年寄りが、マッチョに変わった。心の底から驚きました。それまで加齢は一方的に進むと信じて疑っていませんでしたが、『若返り』ができるとは」
さっそく抗加齢分野の勉強を始めると、その鍵は案外シンプル、毎日の生活習慣にあることがわかりました。何歳からでも体は作り替えられる、この素晴らしい事実をぜひみんなに教えたい。
「大切なのは、食事、運動、ストレスコントロール。そして、ひずみを立て直すのがホルモン補充。これこそ私が追い求めていた、病人を減らすための魔法でした。そして、こうしたことがらの『学習』が必要だと感じました。なぜなら、一人ひとりが日々の健康を実践するには、なぜそれを行うのか、その理由を知っておかないと行動が起きないから。思えば、私の父に対する心残りも、こうした教育の不足でした。伝えられなかったから、喪ったのだという後悔です」
2004年、山下先生はこれらの実践のため、鹿児島市にクリニックを開業します。つみのり内科クリニックに隣接する建物は、1Fに健康食レストラン、2Fにフィットネスジム、3Fに健康医学教室を備えています。しかし、理想の実現のため健康医学教室をスタートしたものの、初手から暗雲が立ち込めます。
つづく>>>今ではあたりまえの「健康な生活」を説くものの「薬の出し方も知らない医師」と言われ
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