夫より収入も貯金も多い、42歳の妻。共働きで離婚をするとき、「財産分与の話し合い」の前に知っておきたい3つのこと
OTONA SALONE / 2024年11月3日 21時1分
法務省が公表している「財産分与を中心とした離婚に関する実態についての調査・分析業務報告書(令和3年)」によると離婚をするにあたり、財産分与の取り決めをした夫婦は全体の37%に過ぎません。残りの62%は夫婦の財産について何も決めないまま、離婚しているのは現実です。
前編では今回の相談者・心菜さんが夫の羽振りの良さに悩まされていました。例えば、日常生活に不便なスポーツカーをフルローンで購入したり、年末年始のハイシーズンに友達をグアムへ旅行に行ったり、後輩全員分の飲み会の料金を払ったり…心菜さんは我慢の限界を超え、ついに離婚を切り出したのですが、夫はあっさりと承諾したのです。心菜さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは離婚が決定的になったタイミングでした。
☆今回の相談者
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:福原英一(34歳)→会社員(年収500万円。貯金不明)
妻:福原心菜(42歳)→会社員(年収600万円。貯金1,100万円)
◀この記事の【前編】『「私が貯めた1000万、夫になんて分けたくない!」42歳の妻が、浪費家の夫と離婚。損をしないために知っておきたいこと【共働き夫婦の財産分与】』を読む__◀◀◀◀◀
【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 ♯3】後編
離婚の原因が夫にあっても、妻の財産を分けないといけないの⁉
心菜さんは独身時代の貯金(600万円)に加え、6年間の結婚生活のなかで500万円を貯めており、貯金額は1,100万円に達していました。筆者は財産分与の原理原則を説明したのですが、心菜さんはそれでも「彼に渡したくないんです!」と言います。
妻の貯金は妻のものではなく夫婦の共有。夫にも権利がある。離婚するとき、貯金の半分を渡すように求めることができる…もし、夫がそのことを知っているのなら、離婚の話を進めるにあたり、財産分与を請求してくる可能性があります。上記の通り、離婚時に財産分与を行うのは半分以下です。筆者は「旦那さんが何も知らないのなら、わざわざ教える必要はありませんよ」とアドバイスしました。
とはいえ、夫が気付いているかどうかを確かめる術もありません。もちろん、夫が弁護士に相談したり、専門書を閲覧したり、ネットで調査したりして、「請求可」だと知る前に、できるだけ早く解決する必要があります。夫が財産分与を請求してくるパターン、してこないパターン。どちらに転んでもいいように準備しなければなりませんでした。心菜さんはこれらのことを踏まえ、薄氷を渡る思いで以下の3つのことを投げかけたのです。
夫に財産を渡さないために行った3つのこと
まず1つ目は夫の貢献をできるだけ低く見積もることです。前述の通り、財産分与の根拠は内助の功…つまり、家事や育児の貢献分ですが、これは男女逆でも同じです。もし、夫が心菜さんの貯金を渡すように求めても良いのは、夫が掃除や洗濯、料理などの家事を協力していた場合に限られます。筆者は「旦那さんはどうだったのですか?」と質問しました。
心菜さんは「彼が家事をやったことは一度もありません」と答えます。心菜さんは夫や父がいない母子家庭で育ったので、家事は心菜さんや母がやるのが当たり前でした。そのため、手伝ってもらうという発想がありませんでした。夫に手伝う気があったのかどうかは今となっては分かりません。
しかし、心菜さんは夫に「手伝って欲しい」と頼んだことはなく、実際、夫は何もしませんでした。つまり、心菜さんは夫がいてもいなくても、結婚期間中に500万円の貯金を作っていたはず。これでは夫が「自分のおかげで貯金が増えた」と言うのは無理です。むしろ、夫の料理を作らず、夫の部屋を掃除せず、夫の衣服を畳まなければ、もっと多くのお金が貯まっていたかもしれません。
なぜなら、夫のために費やした時間の分だけ働けば、もっと多くの給料を得ていたからです。さすがに夫が「足手まとい」だと断じると感情を刺激するので、「エイちゃん(夫の呼び名)はさ。ほとんど家事をやらなかったよね(だから貯金を渡してって言わないで)」と投げかけると、夫はただ頷くしかなかったようです。
次に2つ目は貯金を明らかにするのは夫にとって恥だとだと分からせることです。財産分与の対象になるのは妻だけでなく夫の財産も含まれます。そこで筆者は「旦那さんの貯金が多ければ多いほど旦那さんの取り分は減りますよ」と助言しました。具体的にいうと妻の貯金が500万円、夫の貯金がない場合、夫の取り分(妻名義から夫名義に移る)は250万円です。
しかし、夫の貯金が100万円の場合、夫の取り分は200万円まで減ります。200万円なら150万円です。そう考えると夫に口座の残高を明らかにさせた方が良さそうですが、そう簡単な話ではありません。もともと男女は平等だし、今はジェンダーレスが進んだ令和の時代です。とはいえ、プライドは妻より夫の方が高いことが多いでしょう。
さすがの夫も心菜さんの方が貯金は多いことくらい察していますが、だからといって「妻より貯金が少ない」と認めるのはプライドが許しません。そのことを踏まえた上で「今までお互い、好きにやってきたし、今さら(貯金の額を教え合わなくて)いいよね」と投げかけたところ、夫は「それでいいよ」とそっけなく答えたのです。
前述の統計によると、相手の財産をどのように把握したのかについて、一番多いのは「もともと知っていた(35%)」、次に「相手が教えてくれた(12%)」、そして「自分で調べた(4%)」の順です。
財産を分与するにはお互いの財産を特定する必要があります。何もしないということは財産を分与しない…夫の財産は離婚後も夫のもの、妻の財産は離婚後も妻のものという言質をとることを意味するのです。
そして3つ目は秘密を秘密のまま終わらせれば、他の浪費を隠し通せることです。開示の対象は貯金だけではありません。貯金は収入から支出を差し引いた結果です。もし、収支を度外視したら、浪費夫が節約妻の貯金を横取りできるのですが、これでは「使ったもの勝ち」になってしまいます。心菜さんは「私は特にやましいことがないので全部、知られてもいいですよ」と言います。
筆者は「旦那さんはどうでしょうか?」と尋ねました。上記で挙げた散財は一部です。まだ心菜さんの知らない散財があるのかもしれません。収入はともかく支出を明らかにした場合、知られたくない秘密を知られる可能性があります。
そこで心菜さんは「今さら過去のことを知りたくないから何も言わないね(言わないから財産分与の話をしないで!)」と念押しすると、夫は「そうだね。僕の方から何も言うことはないよ」と同調してくれたそうです。夫が今まで何度も浪費を繰り返したからこそ、それが夫にとって弱みとなり、「これ以上、追求されたくない!」という心理を巧みに利用した結果です。
こうして夫婦が出した結論は「あえて財産を分与しないこと」。お互いに自分の財産を守り、相手の財産を害さず、損得ない条件で離婚することができたのです。夫婦の間で約束したのは現在、住んでいる賃貸住宅ですが、次回の更新時に引き払うので、それまでに退去すること。結婚時に持ち込んだ家電や家具、家財以外は心菜さんがもらうことだけにとどまりました。
上記の統計によると離婚時、夫婦の間でお金のやり取りしたケースで、お金の名目は「財産分与(20%)」がもっとも多いです。「慰謝料(12%)」、「解決金(4%)」と続きます。昨今のジェンダーレス化による共働き夫婦の増加、夫の家事参加の増加、そして妻の収入、財産の増加により、財産分与はますます複雑化しています。
心菜さんのように夫婦の財産をきれいに折半した場合、夫の財産が増え、妻の財産が減る…「妻が夫に払うケース」も現れるでしょう。生活費以外は何を使おうが自由(独身採算制)、相手のお金に口を出さない(秘密主義)をとっている夫婦は万が一の場合のことを頭の片隅に置いておいた方が良いでしょう。
≪男女問題専門家(行政書士、ファイナンシャルプランナー) 露木幸彦さんの他の記事をチェック!≫
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