がんになって「はじめて見える世界」がある。がんに集中しすぎないことも重要【梅宮アンナ×押川勝太郎医師#4】
OTONA SALONE / 2024年11月27日 20時0分
常日頃からがんに備える「がん防災」を提唱し、YouTubeでがんにまつわる情報を発信する腫瘍内科医・押川勝太郎(おしかわしょうたろう)先生。地元・宮崎での診療の傍ら、YouTube「がん防災チャンネル」(こちら)でがんの解説動画を配信、毎週日曜19時から「がん相談YouTubeライブ飲み会」を運営しています。
そんな押川先生の「有名人がん解説シリーズ」で自分の病状の解説を見た梅宮アンナさんは「先生の言葉にとても励まされた」のだそう。自らの闘病を公表することで病に向き合うすべての人たちを支えたいと志すアンナさんと、がんに対する「先々の心構え」を説く押川先生に、「がん闘病の心得」をお話しいただきました。5日連続で配信します。今回は5話中の4話目です。(1/2/3/4/5)
*編集部より/このお話は24年9月16日に採話されました。ご病状等は当時のアンナさんの状態です。
がんになってはじめて「見えた世界」がある。すべて悪いことばかり、というわけでもない
梅宮・がんになったことでこれまでになかったいろいろな未来の可能性が生まれました。私はこうして実体験をいろいろお話しできるようになりました。もともとうそが苦手で、ポーカーフェイスも難しいから、私には芸能人は向かないなと思っていました。なので、実体験をありのままに語れる世界を見つけたことはむしろ幸せ。ラッキーだったかなとすら思えています。
押川・患者さんの心の動きは不安定で、山あり谷ありなのですが、事前に心構えのない人がほとんどなので、がんだというイメージだけで孤立しがちです。梅宮さんのように、実はこういうこともできる、ああいうこともできるというアイデアを提供できるのはすごいこと。リアルタイムに情報発信できる希少価値は非常に高いのです。
梅宮・治った人の話ではないという点が重要です。私だって気分が落ち込んでいるときには『いいよね、この人は治ったから』と思ってしまうことがあります。実際にいま同じ状態の人と話すのが大事だなと思います。未来がどうなるかわからないからみんな病気のことを言わず、治ってから話すのですよね。でも、私は明日がどうなるかがわからないから、今残したいと思うのです。
押川・それをリアルタイムでやる勇気がある人は少なくとも現時点ではそうそういませんから、梅宮さんの独自性です。
梅宮・『あなた最低』ってメッセージを送ってきた人がいました。『自分の病気を売りにして』って。インスタで飛んだらその人も闘病中で、私の治療が自分より進んでいることにモヤモヤしたみたい。私は返したんです、返してはいけないのかもしれませんが、『私は病気を売りにしてるんじゃなくて、希望を与えたいんです。あなたも何かできることを探して、やってほしい』。そうでもしないと、病んじゃうから、この病気。先生の動画の中に、「腫瘍マーカー報告書は破って捨てます」というのがありましたね。
押川・腫瘍マーカーの解釈はがん治療医でさえ苦労しますし、がん増大、縮小と関係ないこともよくあります。でも患者さんは下がったら喜ぶけど、上がったらがっくりくるから。がん治療は基本的にトラブルがある前提で進めます。治療は長いのでこれからも大変だけれど、梅宮さんは不安はあれどおびえているわけではありません。へこたれたり、悲しくて泣くことはあっても、この不安も自分のうちと受け止められるだけ肝が据わってるのが大きいです。逆に、警戒心が強い人はとらわれすぎて苦労をする傾向があります。
梅宮・警戒心が強くて、調べすぎてしまい、変な知識で先入観を持っている人がいるのはわかります。絶対に抗がん剤はイヤとか。
押川・世間の人のがんの予備知識は、事前にどのがんを発症するかわかっていないので99%間違っています。がん治療は大昔の副作用おかまいなしの絨毯爆撃方式から、その人に最適なピンポイントのオーダーメイド治療にまで発展しました。無駄に苦しまず、効果のある手段が最初から使えます。梅宮さんががんになったことは不運かもしれませんが、梅宮さんがこれまで人生の中で得てきた経験はすべて、不幸中の幸いとしていいほうに働いています。がんになって直近の苦しいことではなく、トータルでのメリットを考えている人はなかなかいません。目の前の困難に対して自分は無力と感じている人は実際、どんどん世界が狭まって経過がよくないのです。それを糧にして何かできることがあるはず、と思っている人ほど視野が広がり、アイデアが集まって治療がうまくいきます。
梅宮・自分では辛いし痛いと思っているけれども、周囲を見回すともっと大変な人もたくさんいて、その辛さを聞いてしまうと自分が大変と思ったら罰があたるなと。きっと、小児がんの患者さんはご両親含めてもっと大変でしょう。こう考えてみると、大変だと思うより、自分の中では軽いほうだと思うようにしていることが大事かもしれません。
押川・とはいえ、他の人と自分を比べると反発を招くこともあります。他人との比較はしなくていい。私も『厳しいがんでも生き残ってる人がいます』と発言してしまい、何たる無礼かと𠮟られたことがあります。医療者は『延命』といういやな言葉も簡単に使いがちですが、これも自分たちががんになったことないからニュアンスがわからないのです。
梅宮・がん治療はマラソンと同じで、途中のラップタイムをがんばってもあとでトラブルが起きたら完走できません。あまり序盤から走りすぎてもいけないなと思います。
押川・人によってはケモホリデー、『抗がん剤の休日』も重要です。副作用で疲れすぎると本人の意欲がへばることがあるので、お休みをとって体を回復させて意欲を保つことも重要なのです。また、がんを再発させないための猛烈な治療と、がんと共存するためのマラソン治療があります。猛烈治療はしんどいので、やりすぎた結果『反抗がん剤派』になる人もいる。がんばってギリギリを狙いすぎてひどい合併症を起こしていやになってしまうこともあります。
梅宮・がん治療に専念というのも、ゆっくりしてくださいというのもよくないと感じます。気がまぎれたほうがいい。
押川・その通り、がんに集中しすぎないことは重要です。患者さんにも『仕事をやめずに治療した人のほうがうまくいきます』と言ってます。がんを忘れる時間を作るのは重要なんです。梅宮さんも治療のつらさを忘れるためにこういう時間を作ってきたのではないかと思います。
つづき(11月28日20時以降読めるようになります)>>>がんが「よくなる人」が持っている共通項とは?まさか、それですか【梅宮アンナ×押川勝太郎医師#5】
前の話<<<がんに「り患している最中」の話が語られていない理由とは?なぜアンナは語るのか?【梅宮アンナ×押川勝太郎医師#3】
お話/押川勝太郎先生
1965年宮崎県生まれ。宮崎善仁会病院・腫瘍内科非常勤医師。抗がん剤治療と緩和医療が専門、’95年宮崎大学医学部卒。国立がんセンター東病院研修医を経て、2002年より宮崎大学医学部附属病院にて消化器がん抗がん剤治療部門を立ち上げる。現在NPO法人宮崎がん共同勉強会理事長。2024年11月より一般社団法人日本癌治療学会公式YouTubeチャンネルを担当。
編集部より/このお話は24年9月16日に採話されました。ご病状等は当時のアンナさんの状態です。
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