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「ぼく、食べ物が飲み込めない……」突然の不登校。行き着いた「子どもの受け止め方」と「周囲との支え合い方」とは

OTONA SALONE / 2024年12月26日 21時2分

様々な価値観が多様化する昨今、「家族像」もそれぞれに唯一の在り方が描かれるようになりつつあります。この「家族のカタチ」は、私たちの周りにある一番小さな社会「家族」を見つめ直すインタビューシリーズ。それぞれの家族の幸せの形やハードル、紡いできたストーリーを見つめることは、あなた自身の生き方や家族像の再発見にもつながることでしょう。

今回ご紹介しているのは、都内在住・40代前半のワーキングマザー、ゆうさん(仮名)です。

ここまでは、「経済的自立」を実現すべくキャリアを積み上げつつも、出産や育児を通して抱いた迷いや葛藤を抱いた時期について。さらに、それを経て、ゆうさん夫婦が新たな働き方を選び取っていく様子をお届けしました。

その直後、ゆうさん一家に突然やってきたのが、長男の不登校という現実。

後編では、そんなまさかの状況に対して、混乱と不安に襲われながら、どう対峙してきたのか。ゆうさん一家のカタチの変遷をたどりながら、そのヒントを探ります。

 

◀この記事の【中編】を読む◀ワーキングママのゆうさんが会社員生活を手放すとき。「人生で一番大切なものを蹴散らす日々」からの卒業するために、辿り着いた答えは――。_◀◀◀◀◀

 

【家族のカタチ #5(後編)】

「うちの子がなぜ!?」焦る私と動じない夫。原因追求よりも大切だったのは、新たな信頼と安心の構築だった

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その後、勤務していた会社を退職し、起業したゆうさん夫婦。

「私が独立した翌月のことでした。当時小学3年生だった長男が、家での食事中に『なんだか飲み込めない』と訴えたんです。直後に発熱などの症状もあったので、最初は病気を疑いました。すぐに病院に行ったものの、肉体的に異常なし。それでも飲み込めない状態は治まりませんでした」。

 

続いて現れたのが、登校間際の腹痛や頭痛だったのだそう。

「それでも、当の本人は『学校は楽しい』と思っていたようです。ところが学校に行く時間になると、様々な症状が出てくる――親としては、『これは体の反応の方が正しいのではないか』と思い始めました。

やがて、学校に行こうとする長男自身からも、『飲み込めないから人前で食べたくない。給食が嫌だ』という訴えが。気持ちを汲んで給食前に早退することも試したのですが、それはそれでクラスメイトから注目を浴びて本人は嫌がります。結果的に休みがちになりました」。

 

独立したおかげで仕事の調整はつきやすくなったとはいえ、母親としては気が気ではなかったと、ゆうさんは当時の思いを語ります。

「なんでこんなことになっているのかと、原因を探したくてたまりませんでした。焦り、不安、『うちの子がなぜ?』という思い……長男のメンタル面はもちろんのこと、我が子の体重が減っていくという事実も心配でたまらない。さらに他の家庭と比べて落ち込むこともありました。『普通のことが普通にできないなんて、一体どうしたらいいの?』って。もう、大混乱でしたね」。

shutterstock

ところが、ゆうさんの夫は泰然としていたのだそう。

「これは後から聞いた話ですが、夫は育児に限らず、悲観的な展開も含めて、常に様々なケースを想定しているそうなんです。だから、長男が調子を崩したことに『なぜだろう?』と純粋な疑問こそあれ、『そういうこともあるよね』と。

不登校に限らず、この先の人生で息子たちが誰かに怪我をさせたり、良からぬ道に足を踏み入れたりすることもあるかもしれない。だからこそ、どんな事態に陥っても話を聞いてもらえる関係性を育むべく、幼いうちからどっぷり密に関わる――それが夫のやり方なんです。

 

そんな夫なので、私の混乱は受け止め、落ち着かせる。一方で、長男に対しては問い詰めるのではなく、待ちながら、ゆっくり少しずつ話を聞いてくれていました」。

息子さんの不登校の原因について、今も明確な理由は把握しきれていないといいます。そんな宙ぶらりんをそのままに受け入れることから始めるカタチを、ゆうさんたちは選びました。最優先すべきは、息子さんの症状とコンディションに向き合うこと――また新たな信頼と安心を育む日々が始まりました。

 

 

私がパニックになっていたのは、勝手に理想のレールを敷いていたから。会社員から卒業した私たち同様、子どもにだって自由な生き方があっていい

shutterstock

不登校を想定して独立したわけではなかったものの、結果的に仕事の調整がしやすくなったこと。さらに、互いに在宅の時間が増え、会話のタイミングをとりやすくなっていたことが奏功したというゆうさん夫婦。

「毎日夫婦でいろんな会話を交わし、長男に対しては夫なりのやり方で心をほぐす様子を目にするうちに、気づいたんですよね。私は無意識のうちに、長男に対して勝手にレールを敷いていたんだって。そこから長男が逸れたものだから、混乱して焦ってしまったのでしょうね」。

 

現在も不安定さが残るという息子さん。それでも、自らの『勝手なレール』の存在に気づいた今、ゆうさんはかつてのような焦りを抱かなくなったといいます。

「長男はとても繊細で優しく、空気を読むタイプ。そんな彼がSOSを出してきたとなれば、それはもう絶対に受け入れるべきタイミングなんだと思えるようになりました。なだめすかして“世間の普通”にはめ込むより、早めにのんびり休んだ方が彼にはずっといい。

それに私と夫は、会社員ではなく自由な働き方を選んだ身ですからね。毎日同じところに通って、決められたことをやる以外の選択肢は、子どもにもあって然るべきだ、とも思えるようになりつつあります。

もちろん、よそのお子さんがはつらつと学校を楽しむ様子を見て、うらやましく思うことだってありますよ。でも、息子がそこに合わせられることより、彼が一番苦しんでいたあの頃の状況に陥らないことの方がずっと大切だって、今は思うんです」。

 

家族という殻の中で向き合い続けるのは行き詰まるから。「隣に、遠くに、どこかに、誰かがいる」という心の支え方

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互いの考え方を吸収し、コミュニケーションを重ねながら、混乱と葛藤の先に新たな「家族のカタチ」を見つけたゆうさん一家。そこに至るまでは、家族4人の枠を越えた周囲からの支えも多くあったようです。

「あたたかく声をかけてくれたママ友の存在は、ありがたかったですね。一時期、私たちが不安で閉じこもっているような時に『大丈夫?』『最近どう?』と語りかけてくれる一言は、大きな救いになりました。長男と仲が良い友達が毎朝誘いに来てくれたり、『今日俺んち泊まりなよ!』と声をかけてくれることも多かったのですが、その背後には親であるママ友の理解と気遣いがあるはず。息子のことも、私のことも、何度も孤独から救い出してもらいました」。

 

さらに、“ご近所”という枠を越えた支えは、また違う効果ももたらしたようです。

「長男が不調になり始めた頃、学校外のつながりで仲良くしていたパパ友が、長男の話をじっくり聞いてくれました。その時、長男の口からぽろっと『学校は不自由』という言葉がこぼれたそうなんです。不登校の原因を推測するヒントは、この単語だけ。それでも息子の繊細さや察しやすい部分を踏まえながら『自分の望まないタイミングとペースで、物事を進めることが苦しいのだろうな』『本人にとって有意義だと感じにくい学習方法が苦痛なのかな』と推測することはできます。おかげで、苦しみに寄り添う大きな手掛かりを得ることができました。

息子にとって、友達などの“横のつながり”ではなく、親や先生といった“縦のつながり”でもない。日常生活では接点も利害関係も少ない“斜めのつながり”にしか話せないことってあるんですよね」。

一方、ゆうさん自身にとっての“斜めのつながり”の存在も――。

「困難な状況下では、やはり当事者でないと話しにくいことや分かり合えない部分があることは、どうしても否めません。その点、私は手帳を軸としたオンラインコミュニティで、運よく同じような悩みをもつ方に巡り合えました。毎日愚痴って傷をなめ合うわけでもなければ、リアルに顔を合わせるとも限らない。でも、当事者の何気ない一言からにじみ出る思いに共感して救われたり、踏ん張れたりすることって、とても多いんです」。

今、それぞれの場所で同じようにがんばっている人がいる。そう思えるだけで、大きな励みになる――と、ゆうさんはにっこり笑います。

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さらに、支えは“人間”だけとも限りません。

「少し前から、猫を飼い始めたんです。以前から興味はあったものの、なんとなく先延ばしにしていて……でも『もしかしたら何かいい影響があるかもね』と夫と話し合い、保護ネコを2匹を迎え入れました。それ以降、長男の状態がグンとよくなったことを感じます。

一体なぜだろう?と考えてみたのですが……長男は、圧倒的に猫を受け入れる体制なんですよね。『自分がこうしたい』ではなく、どうしたら猫が幸せに過ごせるかという一点にフォーカスしているとでも言いましょうか。猫が幸せでいることを大切に考えた結果、猫がすごく幸せそうで、それを見ている長男は幸せで心が満たされる――そんな循環が彼の心を癒すのだと思います」。

 

 

家族や世界を、うれしいカタチに1ミリでも変えたいから。伝えずに諦めるより、たった1つでも伝えることを選びたい。

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時に困難と向き合いながら、大切なものを大切にするために変化してきたゆうさん一家のカタチ。いま改めてゆうさんが感じる「幸せの瞬間」とは、一体どんなものなのでしょう?

――その問いに、ゆうさんはにっこりと、そして迷わず「日常そのもの」だと答えてくれました。

「夫の独立以前は、休日に家族全員で出かけることが多かったんです。キャンプに行ったり、公園に行ったり……みんなで遊ぶのが、ものすごく楽しかった。ところが夫の独立後は、アウトドア事業のオンシーズンともなると夫はその運営に行ってしまいます。週末を迎えても夫は不在で、小学生になった子どもたちは友達と遊んでばかり。気づけば私は一人になることが増えて、なんだかつまらないし、煮詰まる時期がありました。

そういう変遷に加えて、長男の不調もある今思うのは、今こうして家族4人で揃う日常って、当たり前じゃないんだなって。くだらないことを言い合ってみんなが笑って、家の中でギャーギャー騒いでいる――これが私にとっての幸せそのものなんだな、って思うんです」。

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丁寧なチューニングを重ねながら、既に円満な「家族のカタチ」を手にしているように思えるゆうさん。率直に話し合える夫との関係がとてもまぶしく映ります。そんな夫婦のカタチに一歩でも近づくためのヒントを聞いてみると、少し考え込んだあと、次のように話してくれました。

「……『こういう夫婦になりたいんだ』という思いを、恥ずかしがらずに伝えること、ですかね。

私は、手帳を生業にしている分、ユーザーの方から人生についての悩みなどを聞く機会も多くあります。そこで出てくる代表的なものが、パートナーへの不満なんですよね。でも、その言葉を裏返すことで、自分の願望や理想の手がかりをつかめると思うんです。

たとえば『私に家事を任せっきりで腹が立つ』なら、それは『パートナーであるあなたと協力して生活したい/もっと私を大切にしてほしい』というメッセージの表れかもしれない。『私の話を全然聞いてくれない』といういらだちには、『寂しい/一緒にチームになりたい』という気持ちが隠れているかもしれない」。

 

ゆうさんがこのヒントを伝えたいと思うのは、自らの試行錯誤の道のりがあるからなのだそう。

「“不満の裏側にある本音”に気づけたとしても、口に出して切り出すのはものすごく勇気が必要ですよね。素直な気持ちを伝えることは、私にとっても難しく、時には怖いこともありました。うまく伝えられず、夫を傷つけたことも少なくありません。 

そんな痛みとともに、学びとして心に刻まれたのは、『伝えないと溝は埋まらず、関係は変わらない』。それはつまり『伝われば、関係は少しずつ変わる』ということ。そんな経験と実感があるからこそ、『勇気を出して伝えてみて!』とあえて言いたいんです。――10回伝えたら、2回くらいは相手が拾ってくれるかもしれない。何も伝えないよりは、きっといい未来につながるはずだから」。

 

沈黙せず、当事者目線の悩みや希望を手渡したい。それが理解につながり、私たちの救いにもなるはずだから

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そして最後にもう一つ。不登校など、我が子の困難に向き合うOTONA SALONE読者へのメッセージもうかがってみました。すると、「同じような壁に向き合う仲間たちからの励ましやヒントを、受け取ってみてほしい」と答えるゆうさん。

「自分ではなく我が子の問題ですから、最後は信じて見守るしかない――頭ではわかっていても、心配だし、つらいし、もどかしいですよね。さらに、私自身は家族や息子の人生に『失格』の烙印を捺されたような、暗澹たる気持ちに陥ったことさえありました。

そんなかつての私は、『学校に行くことが、唯一の正解ではないと考えている家庭がある』という事実を知ることができていたら、きっとすごく励みになったんじゃないかなって思うんです。――今対峙している状況や苦しみは、あなただけの唯一無二のもの。100%分かり合えないものだとしても、気持ちや状況を分かち合える仲間が同じ世界にいるんですよね。」。

 

ゆうさんが今回のインタビューに答えてくれた理由も、「苦しいときにこの世界の誰かの経験談にたくさん支えられた分、私も恩送りがしたかったから」だといいます。

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そんなゆうさんは、自身のSNSアカウントでも、最近意識的に我が子の不登校を話題にすることを増やしているのだとか。そこには我が子の未来に向けた、もう一つのカタチがありました。

「子どものプライバシーが最優先ですから、赤裸々にとはいきません。それでも、当事者の親の葛藤や受け入れ方など……迷いやメッセージをにじませた発信の頻度を、ちょっとだけ上げています。

きっかけは、ある教育関係の著名人によるお話でした。『当事者が縮こまってしまうと、その問題は世の中には全く伝わらない。我が子や家族の苦しみも悩みも、ないものになってしまうんだよ』って。それを聞いて、私も小さく動き出しました。

学校に不満があるわけでも、世の中を変えたい!という思いがあるわけでもありません。でも、私は当事者の一人。たとえ小さな声だとしても『いろんな人がいるんだよ、こういう悩みがあるんだよ、こういう選択肢を選び取っているんだよ』と伝えようと思うんです。それが誰かの気づきになるかもしれない。世の中に1ミリの変化をもたらすかもしれない。そしてそれは、息子自身を救うことでもあるから」。

 

 

 

 

 

 

≪ライター 矢島美穂さんの他の記事をチェック!≫

 

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