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「レスよりつらいのは、自分の存在意義が見いだせないこと」。孤独な夜と折り合いをつける43歳夫。悩みとその先にあるものとは

OTONA SALONE / 2024年11月30日 22時30分

世界でも類を見ない人口減少社会を迎えている日本は「失われた30年」と呼ばれるように、年々、経済が弱体化したことも少子化の要因となっていわれています。それと同様に深刻な課題のひとつが日本人の没性交渉の常態化です。

 

25年ぶりに実施された『性機能障害の全国実態調査に関する報告』(2023)によれば、年齢別EDの有病率は50歳以上が41.7%、また性交頻度が1カ月に1回未満(1カ月間に1度も性交がない)を「レス」としたところ、全体の70.4%が該当しました。日本は少子高齢化と同時に、恐るべきレス社会に突入していたのです。

 

【無子社会を考える#22】前編

父親として、そして一人の男として

静岡県で保険の営業に勤しむテラダさん(仮名43歳)は、妻(37歳)と2人の娘(9歳,8歳)の4人家族。結婚して9年目とのことです。家族のために早朝から夜遅くまで働き、家庭のために日々努力を重ねてきました。父親としての責任感が強く、家族を守りたいという思いが根底にあるそうです。しかし、40代に突入したある日、ふと感じるようになったのは、「自分は今、何のために生きているのか?」という疑問です。

 

それはまるで「第二の思春期」に突入したかのような感覚で、家族に尽くす一方で「本来の自分」を見失っているかもしれないという不安が心を支配し始めましたそうです。

 

 

ーーーテラダさん、40代に入ってから大きな変化があったとのことですが、それを感じるのはどのような場面ですか?

 

「30代の頃は、家庭や仕事に一心不乱に向き合ってきました。子どもも小さく、親としてやらなければいけないことがたくさんあったので、毎日が忙しく過ぎ去っていきました。でも40代に入り、少し子どもの手が離れてくると、ふと『自分は本当にこの生活で満足しているのか』と疑問を感じるようになったんです。鏡を見た時、自分の目には“ただの父親”が映っていて、かつての自分らしさはどこに行ったのかと、思わず息を飲むことがありました」

 

ーーーその疑問は、日常の中で特にどのような瞬間に感じるものでしょうか?

 

「夜、家族が寝静まった後に一人でリビングに座っている時ですね。みんなのために頑張ってきたはずなのに、まるで自分だけが取り残されているような感覚に襲われることがあるんです。心の奥底から、何かが欠けているような、満たされない気持ちが湧き上がってくるんです。その時、どうしても自分が家族のためだけに存在しているんじゃないかって思ってしまうんです」

 

ーーーテラダさん、少し踏み込んだお話を伺いたいのですが、レスに関するお悩みについて教えていただけますか?

 

「ええ…。なかなか口には出しにくい話ではありますが、実はここ数年、妻との肉体関係が冷え切っているんです。最初の頃は、仕事が忙しくて帰りも遅く、妻も育児や家事で疲れていて、自然と触れ合う機会が減っていきました。それをお互い口にすることもなく、気がつけば、夜に隣に並んで寝ているのに何もない、そんな日々が続くようになってしまったんです」

 

ーーーその状況に、寂しさや葛藤を感じることはありますか?

 

「はい…。ある夜、思い切って妻に近づいて、手を伸ばしたことがありました。彼女と繋がりたいという純粋な気持ちで。でも、妻は少し困った表情をして、あまりに自然にこう言ったんです。『ごめん、明日も早いし、今日はやめておこう?』と。その日以来、同じように断られるようになりました」

 

ーーー奥さまの発言を聞かされた時、どう感じましたか?

 

「すごく寂しかったですね…。妻は悪気がないんだと思います。彼女も毎日大変ですし、体力的にもしんどいんだろうと理解はしているつもりです。でも、何度も同じ言葉で断られると、『本当に愛されているのだろうか』とか、『自分はただの生活の一部でしかないのかもしれない』という思いが、どうしても湧いてきてしまうんです」

 

ーーーその時の気持ちを、もう少しお聞かせいただけますか?

 

「その夜、妻が寝静まった後、一人リビングでぼんやりと考えていました。どうしてこうも虚しいのかと。家族を支えることには充実感を感じている一方で、夫婦としてのつながりが途絶えていることが、自分の心にぽっかりと穴を開けてしまったような感覚です。今の自分が何のために存在しているのか、分からなくなってしまうんですよね」

 

ーーーその悩みを奥様に伝えようと思ったことはありますか?

 

「何度も考えました。でも、どこかで恥ずかしいという気持ちもあって、どう話を切り出していいか分からないんです。『こういうことを悩むなんて、子どもじみているんじゃないか』と自分を責める気持ちもあるし、妻の負担を増やすのも怖い。だから結局、言えないままで…」

 

ーーーその気持ちが心の中で積もっているというわけですね。

 

「ええ。妻も家族も大切にしたい。でも、そのために自分の気持ちを押し殺しすぎているのかもしれませんね。妻と心から触れ合いたい、という思いが募る一方で、それを口に出せない自分に対しても、どこかで無力感や自己嫌悪を感じています」

 

 

現実と向き合う夜の葛藤と、自己処理の虚しさ

レス状態が続くことで生まれる孤独感と満たされない欲求は、テラダさんにとって次第に大きなストレスとなっていきました。仕事や家族のことを第一に考え、誰にも迷惑をかけたくない一心で、彼は日々その感情を抑え込み、表には出さないよう努めていましたが、夜の静かな時間になると抑えきれない欲求が湧き上がることもありました。

 

ある夜、家族が寝静まったリビングで、テラダさんは誰にも見られることのないようにスマートフォンを手に取りました。彼が向き合うのは、普段ならクリックすることのないサイトや動画。テラダさんにとってそれは、妻との距離感や触れ合えない寂しさを埋めるための、いわば一時的な逃げ場のようなものでした。

 

「これで本当に心が満たされるのか?と画面に向かいながら、ふと自分の行動に疑問が浮かぶ瞬間が何度も訪れました。しかし、翌日も早朝から仕事が控えている中で、欲求を処理することで一時的にでも眠りにつける安心感が得られるため、その習慣が抜け出せなくなっている自分がいるんです」

 

テラダさんにとって、この行動は自身の尊厳と向き合う苦しい瞬間でもありました。妻との触れ合いを求めているはずが、代わりにこうした一時的な手段に頼ってしまうことで、ますます自己嫌悪の念が募るのです。終わった後には何とも言えない虚しさが残り、自分が家庭を持ちながらも心が迷子になっているような感覚に襲われるといいます。

 

ーーーそのような状況に陥った時、どのような思いが心に浮かびますか?

 

「こうして欲求を一人で処理しても、やはり心が満たされることはありません。これが一時的な解決に過ぎないことも分かっています。最終的には、妻や自分自身と向き合うしかないと頭では理解しているんですが、その話を妻に話すことは絶対にできないですし…。結果的に自分の中に蓄積されている不満や虚しさは解消されず、ただ隠すことでさらに大きくなっているように感じます」

 

テラダさんは性欲と孤独に向き合い、自己解決を図りながらも、それが一時的なものでしかなく、家庭や夫婦関係を改善することにはつながらないことに気づいているものの、やめられないのです。

 

 

▶この記事の【後編】を読む▶テラダさんの孤独な夜と、葛藤の先にある誘惑。どのように現実と折り合いをつけるのか…についてお届けします。__▶▶▶▶▶

 

 

≪家庭関係研究所 山下あつおみさんの他の記事をチェック!≫

 

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