「この時期なぜだか気持ちが沈む……」これは「冬季うつ」ですか?それとも更年期障害?専門医の助言「どちらかといえば」
OTONA SALONE / 2025年1月15日 21時5分
いつお目にかかっても、優しくてポジティブなお話に元気を分けていただける産婦人科医の小川真里子先生。「お会いするだけで更年期の沈んだ気持ちが前を向く」とファンも多数です。現在は福島県立医科大学での診察のほか、週に一度東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで更年期外来をお持ちです。
長年に渡って更年期のトラブルに向き合ってきた小川先生に、更年期時期の女性へのメッセージをいただきます。今回は冬の入り口の気持ちの浮き沈みについて。
季節の変わり目にどうしても気持ちが沈んでしまう。これって鬱ですか?それとも、更年期障害?
日照時間とメンタルの浮き沈みには関係があると言われます。特に冬の入り口にコンディションを崩すという人も多いのでは。これって更年期のせいなのでしょうか?
「もともと鬱とまで言わずとも、季節の変わり目に調子を崩す人は多いのです。冬の入り口の時期のほか、梅雨どきにも気持ちが落ち込む人が増えます。また、こうした気候が変わる時期のほか、雨の前の気圧の変化など、何かが変化するタイミングには他の更年期症状も出やすくなる印象です」
なるほど、6月と11月ですね。そもそも梅雨はホットフラッシュが出やすいと聞きましたが、それも調子を崩すことと関係あるのでしょうか?
「気温の変化の影響でしょうね。梅雨どきは急に暑くなるため、自分の変化に気づきやすいこともあるかもしれません。ホットフラッシュは許容できる気温の幅がとても狭くなってしまっていることで出現するとも考えられています。夏の真っ盛りになればみんなが暑がっているからもう気にならないけれど、春から夏までは自分だけ一人で暑いと感じてしまい、悩んでいる人が多いのです」
いっぽうで、この時期を過ぎて冬が本格化すれば、関節のこわばりを訴える人が増えるそうです。
「更年期世代はエストロゲン値が下がってきて、関節がこわばりやすくなっています。こわばり自体は1年中起きているのですが、初診での訴えが増えるのは冬です。寒くなって体が動きにくくなるのもあるでしょう。指、膝、ひじの痛みが多く、いずれもはっきりした原因はわからないものの、冬の入り口はこうした小さな不具合に対する気づきがぐんと増える印象があります」
気持ちの落ち込みは冬と梅雨のほか、環境がかわりやすい4月にも起きやすいのだそう。変化のタイミングにいろいろなゆらぎが生まれるということでしょうか?
「更年期世代はエアコンの設定温度ひとつみても、昔なら快適だった範囲で暑い、寒いと感じますよね。ましてや春先や11月は毎日温度が違いますから、それがこたえて体調を崩しがちなのだと思います」
わざわざ口にしないだけで、更年期のころにはさまざまな不都合がみんなに出ている
みんな何かしらこうした不都合を感じているものなのです、と小川先生。でも、苦しんでいるということが多いということが知らされないため「私だけがおかしいのでは」「実は病気なのかも」「もっと深刻な病気では」と心配してしまう人が増えていくのでしょう。
「更年期の頃はそういう時期なんだな、ホルモンバランスが崩れてくるとそういうことが起きやすくなるんだなと、前向きに受け止めていけたらいいなと思います。でも、言うのは簡単ですが、実際は難しいですよね」
メンタル面では思い切って自分の状態を近い人に話すのもひとついい方法でしょう。なかなかそういうことは話しづらく、同年代の人に話してみたら「そんなの私はないよ」と言われてしまうと落ち込むこともあるかもしれません。自分が病気なのではと心配に襲われるようなら、その不安を否定するために医師に相談してみるのはひとつの打開策。また、HRTや漢方でもう一段階進んだ治療を始めるのも一つの手かもしれません。
「みんなにそういう時期があるよ、いっぱいそういう人がいるよというのを知っていただくのが重要かなと思います。更年期症状も治さなければならないというものでもありません。どんなに治療をしても季節の変わり目に調子をまったく崩さなくなるわけではないから、いま自分はこういう時期なのだと受け止めるだけでいいのだと思います。でも、目の前に症状があると、なかなかそうもいかないんですよね」
そもそも、更年期症状も誰もが苦しむわけでもありません。2022年厚労省調査によれば更年期世代の約50%は何かしらの症状を感じています。逆に言えば約50%はそれほど感じていません。
更年期の時期に「鬱になりやすいタイプ」がある、というのは本当なのか?
「まじめできっちりした性格の人が更年期の時期に鬱になりやすいと言われてきましたが、診察を続けているとどんな人も鬱になる可能性があるなと感じます。むしろ、もともと鬱と無縁だった人のほうが、いざそうした症状に見舞われた場合の戸惑いが大きいかもしれません。というのも、昔から鬱っぽかった人は更年期に鬱々とすることにそれほど悩まず、どう対処すればいいかもご存じです。逆に活発で気持ちの浮き沈みのなかった人のほうが、こんなはずではない、こんなの私じゃないと落ち込むようです」
たとえば仕事をばりばりとこなしてきた人が更年期に調子を崩すと、気分が晴れず鬱っぽくなることで頭に霧がかかるようなブレインフォグの状態に陥り、結果これまでできていたことができなくなる自分に落ち込むのだそう。HRTなどの治療も、始めた翌日から元のバリキャリに戻るわけでもないので、治療に期待した分だけ余計にもどかしく思う人が多いのだそうです。
「更年期障害でクリニックを受診される患者さんは、フルタイムで働かれる女性が多いように思います。また、お仕事をされている女性が気にされる更年期症状も、物忘れや、以前のように記憶ができないこと、名前が出てこないなど、よりお仕事シーンで気づきやすい内容が多いように思います」
じつはこの「物忘れ」「仕事のパフォーマンス低下」こそが多くの人を苦しめるのだそう。エイジングによって体力が落ちることは受け入れられても、脳の働きが低下することはやはり受け入れにくいのでしょう。
「ですが、パフォーマンス低下も誰にでも起きることです。私もあるときから思い出すのをあきらめて、スマホにメモしたり、カルテにもう一段階詳しく記録を残したりと、外部記憶装置に任せるようになりました。医師同士ですと、万が一お名前を思い出せなくても『先生』とお呼びすれば失礼がないので、こういう便利な仕組みはみなさんも何か応用してはと思います(笑)」
その発想はなかった(笑)。「みんなも忘れているから!」とある意味開き直って、「ごめんなさい最近記憶がとっさに出てこなくて。いまお名前が出てこなくなってしまいました」と正直に言ってもいいのかもしれませんね。
「そうです。ご夫婦も全部『おい』で済ませたりしますが、みんな同じように脳が変化していくからで、記憶力の低下で落ち込んでいらっしゃる方には『医師である私たちもそうですよ』とよく言います。外から見ると医師はなんでも覚えてるように思うようですが、そんなことはなく(笑)、カルテに全部書いているだけです(笑)。年齢に応じて体は変わりますから、仕組みでこうしてその変化をサポートできるのがベストですよね」
ありがとうございます、お医者様でもそうなのならば、私たちも開き直れます(笑)。ここまでのお話では働く女性が更年期の変化を感じたとき、どう自分を捉え直すとよいのか、自分自身の心構えについてお話を伺いました。後編記事では更年期障害にどう対応するのか、医療的には何ができるのかについてのお話を伺います。
後編>>>更年期症状に悩むとき「目指さないほうがいい」ことって?専門医が語る付き合い方に「確かにそうだわ」と納得しかない
お話/小川真里子先生
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部産科婦人科学講座 特任教授
1995年福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学病院での研修を経て、医学博士取得。2007年より東京歯科大学市川総合病院産婦人科勤務、2015年より同准教授。2022年より福島県立医科大学 特任教授。日本女性医学学会ヘルスケア専門医、指導医、幹事。日本女性心身医学会 認定医師・幹事長・評議員。日本心身医学会 心身医療専門医・代議員。2024年4月から福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで、毎週金曜午前に完全予約制の更年期・PMS外来も。https://avance-clinic.jp/
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