愛しきまひろを残してこの世を去った周明。辛くても、人生が続く限り生きていかなければならない【NHK大河『光る君へ』#47】
OTONA SALONE / 2024年12月9日 21時30分
*TOP画像/まひろ(吉高由里子) 周明(松下洸平) 乙丸(矢部太郎) 大河ドラマ「光る君へ」 47話(12月8日放送)より(C)NHK
平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第47話が12月8日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
民への軽視は変わらず…都であぐらをかく貴族たち
先週の放送回のラストで、躓いたまひろ(吉高由里子)に手を差し伸べた周明(松下洸平)に矢が当たりました。彼が一命をとりとめられるのではとあわい期待を抱きながら一週間すごしていた視聴者は多いと察します。こうした期待もむなしく、周明(松下洸平)は倒れたまま息をひきとりました。倒れこんだ周明は何かを語りたそうにも、いや語っているようにも見え、その姿に悲しい気持ちになりました。
まひろは周明のもとを離れることを拒んでいましたが、乙丸(矢部太郎)に勢いよく引かれ、その場を離れることになります。まひろの周明への愛情や申し訳なさ、乙丸(矢部太郎)のまひろを守らなければならないという強い使命感が混ざりあう切ないシーンでした。
一方、都は今のところ平和なよう。公卿や大臣らは対馬や壱岐で起こっているこの一連の事件について関心が薄い様子です。
道長(柄本佑)や実資(秋山竜次)はこの問題を重く受け止めているものの、摂政・頼通(渡邊圭祐)や多くの公卿たちはしばらく静観する方針をつらぬいており、自分事としてはとらえていません。それどころか、左大臣の顕光(宮川一朗太)のように陣定で居眠りするほど無関心な者も。
道長は息子である頼通に「民が!」「あまた死んでおるのだぞ」「お前はそれで平気なのか」と問いかけますが、彼の思いは息子には伝わらず…。
温厚な性格の道長が怒鳴るのは珍しいことですが、道長にとって民や大宰府にいるだろうまひろはそれだけ大切な存在なのです。このシーンでは道長を演じる柄本の渾身の演技がみどころであり、道長の不安や政を怠っている息子への苛立ち、どうすることもできないもどかしさなどさまざまな感情が視聴者に伝わりました。
道長は政を頼通に譲ったとき、まひろがかつて話していたように次の代、その次の代とつながっていくことで、まひろと一緒に思い描いている政の実現を期待していたはずです。しかし、頼通は父の思いを引き継いでいるとは到底思えず、ふたりが訪れを期待しているような日が訪れるとは現段階では考えにくいでしょう。
悲しくとも、苦しくとも人生は続く
本作には自らの思いに反し、他者によって命を奪われてしまった人たちが多くいます。ちやは(国仲涼子)や直秀(毎熊克哉)、周明のような明日があったはずの人たちが第三者によって突然にして命を奪われてきました。人間という存在のはかなさや残酷さが色濃く描かれているように思います。
また、周明が「命あればどうにでもなる」とまひろに伝えていたことにもいえるように、生きていれば希望はなにかしらあるものです。そうはいっても、人生は悲しく、苦しいものでもあります。
隆家は今でこそおだやかに暮らしているものの、かつては兄・伊周(三浦翔平)と花山法皇(本郷奏多)の衣の袖を弓で射抜き、処分を受けていますし、政力争いの渦中にいました。
「俺も いろいろあったが悲しくとも 苦しくとも 人生は続いてゆくゆえ しかたないな」
上記の言葉は、隆家が周明の死を嘆く、まひろにかけた言葉です。隆家の言葉にあるように、私たちは悲しくとも、苦しくとも人生が続く限り、生きていく必要があります。
生きていれば悩みや苦しみのすべてから解放されることはなくても、隆家のようにおだやかに生きられる日が訪れるかもしれません。
また、賢子はまひろが綴った光る君への物語から人生について学んだようです。
「人とは 何なのであろうかと深く考えさせられました[略]されど誰の人生も 幸せではないのですね。 政の頂に立っても好きな人を手に入れても よい時は つかの間。 幸せとは 幻なのだと母上の物語を読んで知りました」
賢子が話すように、誰の人生も幸せではないのかもしれません。政の頂に立っても幸せを感じられるとは限りませんし、その栄光ははかなきものです。道長、兼家(段田安則)、道隆(井浦新)、道兼(玉置玲央)は自分や家族の心を犠牲にしてのし上がってきましたし、詮子(吉田羊)は幸せな女子はいないと生前嘆いていました。また、花山天皇や一条天皇(塩野瑛久)も出自ゆえのつらさを抱えていました。
絶頂期の後は下り坂というのが世の常。栄華のさなかにあるときも、自分の立場が揺らぐ日の訪れを察し、恐怖心を抱くこともあります。
また、庶民については重労働や重税に疲弊する日々を送り、明日の生活を維持できるかという不安を常に抱えています。
本作も残すところ一話となりました。終盤にきて戦のシーンが挿入されたり、武力をもつべきという声が上がったりと、不穏さが増しているようにも思います。まひろと道長の志や思いはどのようなかたちで未来につながっていくのでしょうか。
この続きでは、都に次いで栄えていた太宰府についてご説明します▶▶平安時代、「大宰府」は雅な都の暮らしを支える場所だった。中国経由で日本に入ってきた贅沢品とは?
≪アメリカ文学研究/ライター 西田梨紗さんの他の記事をチェック!≫
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