【中山美穂】が一人二役を演じた『Love Letter』からふと思い起こされる「伝説の名画の女性像」とは?
OTONA SALONE / 2024年12月18日 22時20分
初めまして。アンヌ遙香です。このたび私が愛して止まない「映画」と、自分でもまだよく分からずにいる「女」をテーマに連載をさせていただきくことになりました。TBSアナウンサー時代から培われている、ほんのりマニアックな視点にどうぞお付き合いくださいませ。
【アンヌ遙香、「映画と女」を語る #1】
今は亡き中山美穂の代表作のひとつ『Love Letter』とは
中山美穂の『Love Letter』ほどあらすじを事前に調べることなく、いきなりの初見で物語の展開を楽しんでほしい作品はないかもしれません。
届くはずのない手紙に返事が届く、そしてなぜか中山美穂が同時代に生きる二人の女性を演じるこの映画に関して、私はストーリーを事前に知らされずに観ることができたことをつくづく幸せなことだと感じているのです。
「映画と女」という大テーマを設けているこちらの連載では、ある程度のあらすじを紹介しなくては話が進まないので、まだこの映画を観たことがないという方はあらかじめご覧いただくことを強くお勧めします。
岩井俊二監督初の長編であり、韓国や中国にも多くのファンがいる本作は私が生活する北海道が舞台の一部ということもあり、個人的にも非常に思い入れが強い作品です。
神戸に住む博子は、山岳遭難で命を落としてしまった婚約者・樹を、3回忌を終えた今でも忘れられずにいます。決して届かないと思いながらも思わず彼が中学生時代に暮らしたという小樽の住所宛に手紙を出してしまう。決して届かないはずの天国へのラブレターだったつもりなのに、なぜか返事が来てしまい……というストーリー。登場人物のすべてが優しくて美しくて、はかないのです。
一人二役という難しい役どころ
中山美穂さんは、樹を忘れられない婚約者・博子と、樹と同姓同名の中学時代の同級生である「もうひとりの樹」のニ役を演じ分けています。帰ってこないとわかってはいるのに、頑なまでに亡くなった婚約者を忘れようとしない博子と、小樽で家族とともにのびのびと毎日を送るもう一人の樹。この2人の女性は全く異なるパーソナリティーを有しています。
しかし中山美穂さんはこの2人をしっかり演じ分けているわけで、最初は「声の出し方だけの違いか?」なんて穿った見方をしてしまっていた私でしたが(だって髪型まで全く同じなんです!)、時間が経つにつれ、一目でどちらか博子か、樹か、見分けがつくようになるのがすごい。中山さんは佇まいそのものを演じ分けていたのでした。
私の好きなシーンに、博子と加賀まりこ演じる樹の母が対峙する場面があります。ここからは物語の核心に迫る部分なので、こうして具体的に記してしまうことを許してほしいのですが、亡くなった樹は、かつて博子に会った瞬間に交際を申し込んだ過去がありました。一目惚れだったといいますが、その一目惚れにはどうやら理由があったらしいということに、残酷ながら博子は気づいてしまいます。
樹の小樽時代の卒業アルバムに、自分とよく似た顔付きの少女の写真を見つける博子。思わず樹の母親(加賀まりこが本当に最高!ぱっと見おしゃれで厳しい、コワイ義理のお母さんに見えるのだけど、気の良い穏やかなお母さんをのびのびと演じています)にその写真を指差しながら「似てますか。この写真。」とおもむろに問いかけます。
セリフのやりとりから思わず想起されたのは?
「、、、え、、、?!」よく理解できない樹の母。
「私に似てますか。」
「博子さんに?、、、うーん、、似てる、かなあ」樹の母は微笑んで「似てるとどうなるの?」と問い返します。動揺する博子。
「似てると何かあるの?」とたたみかける母。
「いえ、別に。」
「嘘。」
「本当です。」
「博子さん?」体をあげ、博子の頬を両掌でぎゅうっと挟みます。「顔に嘘ってかいてある。似てると、どうなるの?」
博子は「、、、似てたら、、、許せないです。それが私を選んだ理由だとしたら。お母さん、私どうしましょう。」と消え入りそうな声で返すのでした。庭の木々が風にざわめき、灰色の影が障子にぼんやりと映り、和室に正座して向かい合う二人。結局まだまだ2人とも樹がいない現実から抜け出せていないということが浮き彫りになる、切なくも二人の愛に胸が締めつけられる場面です。
私はこのシーンでのセリフのやりとりを耳にした際、「小津安二郎の映画みたいだなぁ」なんて感じたのでした。テンポがゆっくりで、かつ同じ言葉をまるで言い聞かせているかのように形を変えて繰り返す…そこで私ははたと気づいてしまったのでした。亡くなった婚約者が忘れられない博子はあの『東京物語』の紀子だということに。
【後編】は▶▶▶「【中山美穂】の代表作『Love Letter』を観るたび、アンヌ遙香が「いつも泣いてしまう」シーンとその理由とは?」
文/アンヌ遙香
Profile
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道生まれ。お茶の水女子大学大学院ジェンダー日本美術史修士。2010年、TBSに入社。情報番組『朝ズバッ!』、『報道特集』、『たまむすび』等担当。2016年退社後、現在は故郷札幌を拠点に、MC、TVコメンテーター、タレントとして活動中。文筆業にも力を入れている。ポッドキャスト/YouTube『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。仏像と犬を愛す。
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