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40歳を過ぎたら乳がん検診を「毎年受けても良いくらいです」と専門医が言うこれだけの理由【医師に聞く】

OTONA SALONE / 2024年12月25日 8時1分

40歳以上になったら乳がん検診を受けた方がいいのかな、と思っていても、職場の検診でもない限りなかなか気が進まない人もいるでしょう。マンモグラフィは痛いとか聞くと、足が遠のくのも無理はありません。検診の意味を正しく理解するところから、検討してみてはいかがでしょうか。専門医の寺田満雄先生に乳がん検診について教えていただきました。

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対策型検診と任意型検診、違いは?

乳がん検診のお話に入る前に、大切なのではじめに検診の種類の話をします。対策型検診というのは、主に国や自治体が主導で行っているものです。それに対して、任意型検診というのは人間ドックや会社の健康診断のことです。

 

何が大きく違うかというと、目的が違います。乳がん検診に限らず、対策型検診は国とか自治体が主導して行うので、例えば日本だったら日本の国民の死亡率を下げることが目的になります。

 

対策型検診とは

乳がんの対策型検診はマンモグラフィなのですが、このように「その検査を行うことによって死亡率が下がる」ことが分かっている方法、明確なデータがあるものが選ばれています。基本的に公費を投入して行なっているものなので、最も費用対効果がいい方法・間隔が選択されているという側面もあります。

 

例えば、マンモグラフィだと、40歳以上の女性は2年に1回受けることが勧められています。それで死亡率が下がるということが分かっているのですが、最適な頻度を決めることは簡単ではないものの、少なくとも、2年に1度のマンモグラフィで死亡率が下がるということが分かっているのでこれが導入されています。これが対策型検診というもので、自治体にもよっては、定期的にクーポン券が送られてくるところもあります。

 

任意型検診とは

人間ドックや会社の検診を任意型検診といいますが、この検診の目的は、死亡率を下げるということではなくて、個人の健康に対するニーズを満たすことを目的にしています。

 

人によって健康に対するニーズは違うので、そのニーズに応えるところに重きを置いています。検診機関や人間ドッグは営利企業のようなものなので、需要と供給のバランスによって検査の内容が変わることがあります。よく売れる人気があるもの、魅力的にみえる検査を提供しがちになるという側面がどうしてもあります。しかし、任意型検診として提供されている検査は、対策型検診で選ばれている方法がベースになっていることが多いです。

 

そのため乳がんの任意型検診はマンモグラフィが基本になっていることが多く、そこにオプションが提供されていることがあります。オプションは必ずしも信頼できるデータによる裏付けがあるわけではないのですが、そうした検査がたくさん提供されているのが実情です。よく勘違いされがちなのですが、検査は、何でもたくさん受けたらより良いというわけではありません。信頼できる方法で評価することが大切です。

 

これはすごく大事なことで、必要のない検査を受けると不利益を被るっていうことがあるということを、ぜひ心に留めておいてください。

 

専門医が言う「受けない方が良い検査」って? 次ページ

「むしろ受けない方が良い検査」って?

例えば、最近問題になった、「線虫でがんが分かる」という検査がありますが、あれは良くない例の一つです。その検査で陽性になっても、実際にがんが見つかる人が非常に少なかったのです。また、陰性だったからと言って、がんがないとも言えない。陽性になればそれに振り回されることになる、むしろ受けない方が良い検査と言えます。

 

また、腫瘍マーカーも検診の項目として測定されることがよくあります。前立腺がん以外のがんでは腫瘍マーカーの有効性は、検診としては全く認められていません。腫瘍マーカーは、感度も高くなく、がんではない人でも上がることが分かっているのです。

 

しかし、検査の結果が陽性であれば、本人は、「がんかもしれない」と思うわけです。そこで病院に行って、本来なら必要なかったようないろんな検査をするわけです。結果、何も見つからないことが多いのですが、本人は、「何もなくてよかった」という気持ちでいられるでしょうか。

 

残念ながら、それで終わらないこともあります。「やはりどこかにがんが隠れているのではないか」、という不安だけ残すことになってしまうこともあります。そのため、エビデンスやデータがある検査を受けるということがすごく大事です。マンモグラフィにおいても、要精査になったけれども、何もなかったということはよくありますが、それでも、きちんとしたデータがない方法に比べるとその頻度は少ないわけです。

 

各分野でデータがあるものとないものがあるので、すべてを詳しく知っておく必要はないと思いますが、検診としてしっかりと確立された検査を受けるという認識だけでも持っておくといいのではないかと考えています。

 

マンモグラフィと超音波検査を比べるのは間違い

まず乳がん検診の大前提はマンモグラフィです。乳がんによる死亡率を下げられることが分かっている検査は、現時点ではこれしかありません。ですから、対策型検診として行われているのはマンモグラフィということになります。

 

次に、よく行われて信用できる検診方法は超音波検査です。マンモグラフィの被曝量も多いわけではないのですが、超音波は被曝もなく、手軽にできるのでよく行われています。これはマンモグラフィに次いで、お勧めできる検査と言えます。

 

マンモグラフィか超音波かと、よく対立構造で話されることが多いのですが、それは間違っていて、あくまでもマンモグラフィを基本として超音波を足すか足さないかという話で考える必要があります。これは、日本で大規模な研究が行われていて、その結果に基づいています。

 

「超音波だけやるというのはどうですか」、とよく聞かれますが、超音波単独の検診のデータは、信用に足るものはほぼないと考えてもらうと良く、いいか悪いかも結論づけることは現状難しいです。

 

しかし、例えばマンモグラフィの対象年齢ではない40歳以下の方でしたら、やらないよりはいいかもしれないということは言えると思いますが、何歳からはじめるべきか、どのぐらいの頻度でやるべきか、に関しては現状では明確な答えがありません。

 

マンモグラフィに超音波を足した場合のメリット、デメリット

現在、分かっていることというのが、マンモグラフィに超音波を足すとどうなるかということです。メリットとデメリットのそれぞれを考える必要があります。メリットは、超音波を足すことによって乳がんが見つかる可能性は、マンモグラフィだけの時に比べておよそ1.5倍増えることです。マンモグラフィでは検出されず、超音波だけでみつかった病変があるということを意味します。これは重要なポイントです。

 

一方、少し難しい話にはなりますが、デメリットもあります。検査が増えることです。検診を受けて要精査だった場合、その結果を持って病院に行くと、プラスアルファで様々な検査をすることになります。超音波で引っかかるということは、乳がんがあるかどうかは別として、何かありそうだということを意味しています。

 

そういう状況で病院に来ると、大抵の場合、細胞診や針生検といった針を刺して細胞を取る検査をすることになります。なぜかというと、画像検査は影絵のようなものなので、私たちが画像だけを眺めても、乳がんらしいか、良性らしいかの予測はたっても、乳がんの診断を確定させることはできません。良性の可能性が非常に高いと考えられる場合は、画像検査だけで終わることもありますが、検診で要精査になっているような場合は、何かしら疑わしいことで引っかかっているので、針を刺して細胞を取る検査まで行うことが多くなります。

 

超音波検査を併用することで、そのような追加の検査を受ける可能性、侵襲のある針を刺すような検査を受ける頻度が1.5倍ほど増えるということが分かっています。この中には、本来は必要なかったかもしれない検査も多く含まれています。

 

しかし、もちろんこれは、検査結果をみて初めてわかるのですが、その結果 、「良性でしたね。良かったですね」ということになったとしても、もしあなたが超音波を受けていなくて、それを見つけていなければ、この検査をする必要すらなかったということにもなります。なかなか自覚しにくいデメリットですが、これが間接的な超音波検査の問題点です。

 

メリットとデメリットをよく考えて 次ページ

検査結果が与える精神的負荷も見逃せない

単純に針を刺すと痛いからデメリットということではありません。要精査という通知をもらうと、「私は乳がんかもしれない」とすごいショックを受けて病院を受診されることが多いです。中には、検診要精査の結果を「私は乳がんなんだ!」と確定診断のように受け取って来院される方もいます。それだけ、要精査の通知は衝撃的な出来事です。

 

病院では細胞診や針生検の検査をしますが、場合によっては検査をするまでに、数日・数週間かかることもあります。さらに、結果が当日出ることはなく、結果が出るまでに少なくとも1週間2週間はかかるため、「私はがんかもしれない」という精神的負荷が、数週間近く続くことになります。

 

ですから、たくさん検査をしてたくさん拾い上げることができたらいいかというと、なかなかそういうわけでもありません。どんな検査もそうですが、感度も特異度も100%で、見つけたものは全て黒という検査は存在しません。

 

特に画像検査の場合、100%がんではないと言い切ることは不可能です。たくさん拾い上げようとすると、(結果論ですが)どうしても余分な、本来拾わなくてよかった人たちも拾い上げて、さらに追加の検査が必要になるという医学の限界、ジレンマがあります。

 

メリットとデメリットをよく考えて

現状、乳がん検診はマンモグラフィだけにするのか、マンモグラフィと超音波を両方やるべきなのかとなった時には、どちらがいいとは一概には言えなくて、私は両方ともメリットとデメリットがあることを説明しています。

 

マンモグラフィだけでも死亡率が下がると分かっていますのでそれだけでいいという考え方もありますし、「検査が増えたとしても見つかる確率が高い方がいい、マンモグラフィと超音波をします」という人もいます。

 

その辺は、個人の考え次第なので、絶対こちらがいいというのはなかなか言いにくいところです。

 

「過剰診断」というジレンマ

感覚的には、がんが見つかる確率が高いのなら亡くなる方も減るのではないかと、普通の方は思うと思います。しかし、そうとは限らず、それがまたもうひとつのデメリットの話につながります。これはマンモグラフィ、超音波ともに該当しうるのですが、「過剰診断」という概念があります。

 

例えば、生前にがんと診断がついていない方が寿命を全うして、亡くなった方がいるとします。その方を解剖して調べると一定の確率でがんが体の中から見つかります。

 

しかし、その方はがんで亡くなったわけではありません。がんは進行してはじめて、身体の機能に支障をきたし、命に関わる病期です。亡くなるまで自分が潜在的にがん患者であると知らずに寿命を全うしたのですが、もしそれを見つけるための検診を受けていたら、将来命に関わらないかもしれないがんを見つけて治療していた可能性もあります。

 

私たちも、診断がついた時点では、命に関わるか関わらないかを予測することは容易ではありません。中には、がんの診断がついても、進行することは稀で、治療が不要ながんもあるのではないか?という研究も行われていますが、まだ結論がでていません。

 

現状としては、誰にも分からないので、がんの診断がついた以上は、将来これが命を脅かす可能性があるかもしれないと考え、治療を勧めることになります。

 

将来への不安 次ページ

がん治療に伴うさまざまな負担と、将来への不安

がんが見つかったのなら治療すればいいという漠然としたイメージだけを持っている方もいるかもしれませんが、話はそれほど単純ではなくて、がん治療には身体的、精神的、経済的な負担とか将来への不安が必ずついて回ります。

 

もちろん早く見つかって早く治療をして たぶん治ったのかな、良かったねと話をすることもできるのかもしれませんが、その方は一生「がん患者のサバイバー」として生きていくことになります。再発に対する不安は決して軽視できるものではありません。

 

検査をしなかった場合、本人も何も知らないまま、がんも悪さをせずに亡くなっていたかもしれません。しかし、それは誰にも分かりません。難しい話なので、少しでも理解してもらうために、デメリットに関する話を詳しくしましたが、トータルで見たら、乳がん検診をした方が乳がんで亡くなる確率を下がることが分かっていることから、乳がん検診で救うことができる命があることは明らかなので、やらない方がいいという話にはもちろんなりません。

 

しかし、本当は治療をしなくても命に関わらなかったのではないかという方が、おそらく一定の割合で含まれています。それが過剰診断の概念です。研究が進めば、過剰診断は少なくなっていくことが期待されますが、まだまだ時間がかかることが予想されます。

 

乳がん検診にメリットがあることは改めて強調したいですが、過剰診断は検診のデメリットの一つと言えます。ただし、過剰診断だったかどうか、ということは、誰にもわからないので、これは自覚することはないデメリットということもあり、少しピンと来ない話だったかもしれません。

 

このような背景もあり、超音波検査をマンモグラフィと一緒にするべきかどうかを考えた時に、より多く乳がんを発見できることに加えて、乳がんで亡くなる人を減らすことができるかということも重要になります。しかし、このような研究には非常に長い年月がかかります。

 

現状、超音波を一緒に行うことで、乳がんの発見率があがるところまではわかっていても、乳がんで亡くなる人を減らせるかどうかまでは、まだわかっていないのです。

 

最低2年に1回のマンモグラフィの検診を

まとめとして、乳がん検診のメリットは分かりやすくて、乳がんで亡くなる可能性が下がるというのが乳がん検診のメリットです。デメリットは、もしかするとプラスアルファの余分な検査を受けることになるかもしれないということと、過剰診断があるのかもしれないということです。

 

とはいえ、そもそもデメリットのない検査は存在しないので、やはり、40歳以上の女性は、最低2年に1回のマンモグラフィの検診をお勧めします。頻度は、私は1年に一度でもいいと思っています。明確な比較が難しいところもありますが、2年に1回よりも毎年受けた方がいいのではないかというデータもあったりします。どちらでもいいとは思いますが、ぜひ最低2年に1回は受けてください。

 

そして、乳がん検診を受ける際には、マンモグラフィを第一、次に超音波検査を考えてください。信頼できる検査を受けるということも非常に大切です。

 

【寺田満雄先生プロフィール】

名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学講座 研究員/UPMC Hillman Cancer Center, Department of medicine, Postdoctoral Associate
2013年名古屋市立大学医学部卒業。関連病院および愛知県がんセンター乳腺科部勤務を経て、2019年 名古屋市立大学乳腺外科への帰局とともに同大学博士課程に入学。同年より名古屋大学分子細胞免疫学にて腫瘍免疫研究に従事。博士号取得後、2023年より、米国UPMC Hillman Cancer Centerに研究留学し、現在に至る。外科専門医、乳腺専門医。一般社団法人BC TUBE理事、乳癌診療ガイドライン委員。一般社団法人BCTUBEの活動として、乳がんという病気を多くの人に知ってもらうため、治療に関わる情報格差を減らすために、YouTubeチャンネル「乳がん大事典」の運営や様々な啓発活動に従事。

 

 

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