“生粋の吉原っ子” 蔦屋重三郎ってどんな人?いつの時代も男たちは「女遊びが好き」で「かわゆいオナゴの絵写真を手元に置いておきたい」ものなのか
OTONA SALONE / 2025年1月6日 20時30分
花の井(小芝風花) 長谷川平蔵宣以(中村隼人) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」 1話(1月5日放送)より(C)NHK
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は江戸時代における「蔦重を中心とする吉原」について見ていきましょう。
蔦重。生い立ちを活かして“江戸のメディア王”に成り上がった男
“蔦重”こと、蔦屋重三郎 (つたやじゅうざぶろう)は喜多川歌麿(きたがわうたまろ)、東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)をはじめとする数々の浮世絵師をプロデュースしたり、江戸吉原の人気ガイドブック『吉原細見』を出版したりと、江戸カルチャーの開花に大きく貢献した男として知る人ぞ知る存在です。
重三郎について馴染みがない人は少なくないかもしれませんが、歌麿や写楽といった絵師は彼の存在なくしては誕生しなかったといっても過言ではありません。また、現代に生きる私たちの多くが本の購入やCDレンタルなどで利用しているTSUTAYAは、蔦屋重三郎にあやかって名づけられたともいわれています。
重三郎は江戸の文化の発信地である吉原遊廓に生まれ育ちました。当時、吉原遊廓はにぎわっており、多くの人たちが憧れを抱くベールに包まれた観光地のような場所だったといわれています。1846年の「町役人書上」によると、この地の人口は男性が1439人、女性は7339人(遊女:4832人)で、人口の半分ほどが遊女でした。
重三郎の両親の職業は定かではないものの、遊女にかかわる仕事をしていたと考えられています。重三郎は7歳頃に喜多川家の養子となり、同家が経営する商家・蔦屋(*1)の養子として育てられました。彼は幼い頃から遊女や遊女にかかわる仕事をしている人たちと接する機会が多く、この地に自然と精通し、暮らしの中で人脈を築きました。重三郎が“江戸のメディア王”と称されるほどに大成功をおさめたのも、ホームグラウンドでビジネスを展開したからだといえるでしょう。
重三郎は20代前半にして五十間道に書店を開き、吉原遊廓のガイドブック『吉原細見』の卸しを行い、出版物の制作も始めます。彼の最初の出版物は遊女を挿し花に見立てた遊女評判記です。遊女を挿し花に見立てるとは、なんとも粋ですよね。その後も、勝川春章(かつかわしゅんしょう)や北尾重政(きたおしげまさ)といった著名な浮世絵師とともに、吉原遊廓を美しく描いた大人向けの絵本などを出版しています。
重三郎の大きな功績の一つとして、かの有名な浮世絵師である歌麿の才能を早くに見抜いたことが挙げられます。彼は歌麿を美人絵の作者として起用。さらに、歌麿に当時ひっそりと人気があった春画も描かせています。歌麿は遊女だけでなく、市井の娘も描いています。いつの時代も、男たちは芸能界で活躍するような女性だけでなく、素朴なかわいらしい一般女性にも心惹かれるものです。あるいは、春画のようなエロティックな絵をときとして求めることも…。
*1 蔦屋の茶屋は吉原を訪れた客に飲食を提供するだけでなく、遊女屋への手引きを行っていたともいわれている。
吉原は男のロマンだが…女はカネのために搾取されていた
現代社会において、銀座のクラブや新宿歌舞伎町のキャバクラは少なくない男性にとって憧れの場所といえるかもしれません。お店や女の子のSNSなどを見ながら「いつか行ってみたい」と思いをめぐらせている男性もいるはず。一方、江戸時代においては重三郎が制作した大人向け絵本や遊女を花に見立てた本『一目千本』などを眺めながら、夢をふくらませていた男たちは少なくなかったのではないでしょうか。
宝暦以前、吉原では遊女たちを揚屋に呼び出し、遊ぶのが一般的でした。客は呼び出し料、揚屋の部屋代、飲食代だけでなく、太夫が従えている者たちに支払うお金も必要でした。大名たちは妓楼に直接上がらなくても揚屋で遊べたため、その気楽さも好んでいたそうです。
元禄バブルがはじけると、大名も散財し、豪遊できなくなります。こうした中で、揚屋のシステムから客が妓楼で直接遊ぶシステムに変わっていきます。現代でいうところの店舗型の風俗店です。この頃になると、妓楼の客には武士や商人などさまざまな男たちがいました。
吉原で男たちの欲望や夢に応えていた遊女ですが、彼女たちには美貌だけでなく、和歌や漢詩、三味線、書道、華道、歌かるたなどさまざまな教養が求められていました。遊女は客の相手をするだけでなく、稽古に励み、自分を磨いていたのです。遊女を現代の職業にたとえるのは難しいですが、会いに行けるアイドルと高級クラブのホステスを足して二で割った存在といわれることもあります。
当時流行の着物を身にまとった煌びやかな遊女たちですが、多くは望んで遊女になったわけではありません。吉原で働く遊女の多くが借金のカタとして売られた女子たちです。また、吉原周辺といえば大都会ですが、遊女の多くが地方出身者です。遊女たちの言葉はあんりす言葉といいますが、訛りを統一することを目的としたものでした。
日々の暮らしは過酷で、睡眠時間は小刻みで短く、集団生活が基本のためプライベートはほとんどありません。性病や堕胎で亡くなる遊女も少なくなかったといわれています。彼女たちは人権を蔑ろにされ、あくまでも“働き手”として扱われていたのです。
本記事では、蔦屋重三郎の人物像、そして当時の吉原の状況についてお伝えしました。
続く「たい たい たい尽くしの世の中を金なし、親なし、家もなしの蔦重が駆け抜ける!彼の始動のきっかけはひとりの女郎の死」では、1話目のストーリーを深堀りします。
参考資料
車浮代『蔦屋重三郎と江戸文化を創った13人: 歌麿にも写楽にも仕掛人がいた!』PHP研究所 2024年
永井義男『蔦屋重三郎の生涯と吉原遊廓』宝島社 2024年
晋遊舎『100%ムックシリーズ 完全ガイドシリーズ398 蔦屋重三郎完全ガイド』晋遊舎 2024年
≪アメリカ文学研究/ライター 西田梨紗さんの他の記事をチェック!≫
外部リンク
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