更年期症状に悩むとき「目指さないほうがいい」ことって?専門医が語る付き合い方に「確かにそうだわ」と納得しかない
OTONA SALONE / 2025年1月15日 21時6分
いつお目にかかっても、優しくてポジティブなお話に元気を分けていただける産婦人科医の小川真里子先生。「お会いするだけで更年期の沈んだ気持ちが前を向く」とファンも多数です。現在は福島県立医科大学での診察のほか、週に一度東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで更年期外来をお持ちです。
長年に渡って更年期のトラブルに向き合ってきた小川先生に、更年期時期の女性へのメッセージをいただきます。今回は冬の入り口の気持ちの浮き沈みについて。
「治療をして元のパフォーマンスに戻すことを目標にしない」のも更年期の第一歩
更年期とつきあっていく際、いちばん思い出してもらいたいのは、治療して元の自分に「戻る」必要が必ずしもないという点です、と小川先生。
「毎日いろいろなことに頑張っているからそういう悩みが出てくるのですよね。しかし、いま起きている変化の一部は老化ですから、治療をしてすべてが戻るものでもないのです。これを理解した上で、変化を受け入れられるといいな、と思います。よく、薬を飲んで100%できていた昔の自分に戻りたい、治療してくださいと言われるのですが、そううまくはいかないのです。しかし、直さなくてもいいと断言もできない。ゆるやかに受け入れ、それもいいんじゃないですかとみんなで認めていけたらなと思うのです」
たとえばですが、治療をしないでつきあっていこうと決意したけれど何かしらケアは試したいときとき、食べ物で更年期障害を直していくことはできるのでしょうか?
「更年期に効く食べ物、あるといいですよね。でも、残念ながら、ないです。ではどう対処するかというと、体はずっとずっと変化していく、赤ちゃんのときから変化を続けて今になっているので、今の状態に応じた過ごし方や仕事ぶりを個々それぞれ見つけ出せるといいなと思うのです。産婦人科は夜間のお産や手術などが避けられない仕事ですが、さすがに徹夜で働くのはもう無理なので、いつまでも体力を過信せず、自分の働き方を変えていっています」
でも先生、私はまだ自分の閉経を口で言うほどは受け入れられていませんし、自分が老化していること、衰えていることを認めるのは正直、イヤだな、寂しいなと感じています。この気持ちには、いつか折り合いがついていくのでしょうか。
「イヤで寂しいことかもしれないけれど、たとえば30代に入ったころにも徹夜が辛くなったり変化があったと思います。運動も例えば、子どもの頃に体育の授業が辛かったのが、大人になると趣味でバレエを楽しめるようになったりと、変化は意外に起きているんですよね。同じようなことかな?と思えるといいのだけれど、でも、やっぱりエイジングを感じるのは寂しいですよね……」
エイジングを寂しいと感じる私たちが「むしろポジティブに捉えてもいいこと」って?
先生もやはり落ち込んだ気持ちになることがあるのでしょうか。このような、対策がなく、努力しようにもどうにもならないタイプの気持ちには、どう折り合いをつけていますか?
「誰かに悩み相談のように聞いてもらうということは私はあまりしていないのだけれど、でも、患者さんとお話をしていろいろ伺うことで、ああ、こう感じるのは私だけじゃないんだなと思うことが日頃からたくさんあります。患者さんに勇気づけられることなんて、本当にしょっちゅうあるんですよ。一緒にやっていきましょう、私もそうなんですよと共感しあいながらお話する機会が多いから、知らずのうちに折り合いがついてきたのかもしれません。だから、寂しいなと思う気持ちを否定せず、抱え込まずに、誰かと話し、分かち合うことは大事なのでしょうね」
いつでも穏やか、楽しい語り口の小川先生でさえ、そんな気持ちの上下があるのですね。そう教えていただくと、私に起きるのは当然のこと……という気持ちになりました。
「いや、私もキレますよ。思い返せば、私は更年期の落ち込みよりも、PMSで昔はよくキレていました(笑)。最近めっきりキレなくなりましたから、ホルモンの変動が落ち着いてくると気持ちも落ち着いてくるのかもしれないですね。ただし、変化に抗わなかったというよりは、日々が忙しすぎて自分の変化に気づくどころではなかったというのが正直なところです。そういう意味では皆さん間違いなく忙しすぎると思います。ゆっくりして、と言われてもそんなことできないからいま不調を抱えるに至っているのでしょうけれど、でも自分がとても忙しいということは自分で気づいてあげてもいいかなと思います」
確かに、加齢のポジティブな面として、更年期に差し掛かると仕事の場であまりキレなくてもいいように周囲が整ってくるというのはあるかもしれません。ワンキャリアの方なら長く一緒に働いてきた周囲の人々との意思疎通も取れ、イヤな人と距離を置くコツも掴めてきているでしょう。働き方を変えてきた人でも、過去の体験蓄積でストレスのない振舞い方がある程度わかるようになっているかも。
「それはありますね、職場ではキレる原因に向き合わなくてもよくなってきた。年齢とともに経験と地位が上がって、キレないで済みそうなルートが見えるし、それを選べるようになってきますよね」
納得納得。自分をちょっとほめてあげたい。とはいえ、「どんな方でもイヤなことがある環境でイライラするのは当然のことですから、整えられる環境因子があるなら整えたほうがいいです」と小川先生。
「イライラや気持ちの落ち込みは大抵の場合、ご自身の外側に原因があるんですね。いまひとつそりの合わない夫の親の介護、言うことを聞かない子どもの受験指導、付き合う楽しさのないママ友問題、習い事先での人間関係トラブル……。整えたほうがと言いましたが、こうした問題は整えにくいことが多いんです。習い事のトラブルを夫に相談したら『辞めれば』と言われて余計腹が立ったり。なので、逆に捉えて、そのことを考えなくていい時間を無理にでも作るのが大事なのかもしれませんね」
更年期のこうしたトラブルは過去と違い、克服するものではなくて、寄り添っていくものだと感じます、と続けます。
「女性の更年期は男性更年期に比べてがたっときますよね。人生をマラソンだとすると、35㎞まで走ってきたのに急にお腹が痛くなる感じです。もう無理!とマラソンの列から出てしまいたくなりますが、いやいや、歩こうよ、走らず歩いていいんだし、ペースを落としてもいい。仮にHRTを始めても、もういちど全力でマラソンに戻れるわけではありません。どうしたって全力疾走には戻れないんです。そのマラソンの、靴底を厚くして膝への負担をラクにしてくれるのがHRTという感じなのです」
そういうこと、みんなあるよ、全員同じだよ、実は髪の毛がたくさん抜けたり、お腹に肉がつきやすくなったり、ものごとを覚えにくくなったり全員しているんだよ、でもまあみんなそんな感じなんで、落ち込む気持ちをちょっとだけ上げようね。そんな感じですね?
「そうそう。ピルも、飲めば生理痛はラクになるけれどゼロになるわけではない。風邪のように『治る』ことを期待してしまうと、違うと裏切られた気持ちになってしまいます。少し楽になるつもりでHRTや漢方、エクオールなど手の届くものを使っていただくといいですし、必ずいま自分に無理をさせていないか、忙しすぎないか、前の通りに走ろうとしていないか、見直しをしてほしいと思います」
改めて、更年期症状はすっかり前のように治るものではないんです、と念を押します。
「でも、更年期が過ぎればラクにはなりますし、また治療すればラクになります。でも、40代はじめの自分の状態に戻るわけではありません。だから、治療も使いつつ、そうした自分の変化に折り合いをつけていけると、いいなあ。というように、感じています」
つづき>>>「この時期なぜだか気持ちが沈む……」これは「冬季うつ」ですか?それとも更年期障害?専門医の助言「どちらかといえば」
お話/小川真里子先生
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部産科婦人科学講座 特任教授
1995年福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学病院での研修を経て、医学博士取得。2007年より東京歯科大学市川総合病院産婦人科勤務、2015年より同准教授。2022年より福島県立医科大学 特任教授。日本女性医学学会ヘルスケア専門医、指導医、幹事。日本女性心身医学会 認定医師・幹事長・評議員。日本心身医学会 心身医療専門医・代議員。2024年4月から福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで、毎週金曜午前に完全予約制の更年期・PMS外来も。https://avance-clinic.jp/
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