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教員たちも受けたことがない、開かれた「性教育」。今の子どもたちに、どう伝える? 何が足りない⁉

OTONA SALONE / 2025年1月25日 20時31分

静岡県三島市在住のライター神田未和です。看護師・助産師としてキャリアをスタートし、グローバルヘルスの世界で働いてきました。夫の闘病生活を機に取材ライターに転身し、女性のライフステージに応じた健康支援活動や啓発をライフワークとして執筆しています。

 

この連載では、思春期のお子さんをもつ親御さんが抱える「子どもの性」に関するリアルな悩みや、その対応策などについての体験談を紹介しています。

 

今回は、視点を変えて、公立小学校の先生に思春期の子どもへの関わりについて2回に分けてお伺いました。1回目の「小学校での月経教育や性教育の現状」に続き、2回目の本記事では、指導する教職員の性教育への意識についてです。

学校教育活動全体を通じて性教育の充実に努めるという国の方針はありますが、その実状は地域差があるのが現状です。これまでのインタビューでは、小中学校での性教育の状況や学校と家庭の連携があまり見えていませんでした。多様な体験談を知ることで、新たな視点に気づくきっかけになるかもしれません。

 

インタビューを受けてくださったのは、ある地方都市の公立小学校教諭のAさん(39歳)。社会人経験を経て小学校教諭に転職し、教員歴4年目です。小学校での性教育の現状についてお話ししてくれました。

【思春期こども #3 公立小学校の男性教諭 編2】

 

▶1回め記事『【小学生の性教育】先生たちも悩んでる!「どう教えていいかわからない」「他の業務で手一杯」現場が抱えるモヤモヤとは?』を読む

一番の問題は教員自身の意識?大人にこそ必要な「体系的な性教育」

出典:性教育いらすと

 

 

小学校5、6年生は、学習内容も難しくなり、身体や心の変化が大きくなる時期のため、担任の先生は特に大変そうですね。

そうですね、男性は5、6年を担当することが多く、女性はベテランになるにつれ1、2年を担当することが傾向として多いと言われています。もちろん例外もあります。特に男子児童は5、6年生になると体が大きくなり、指導が強化されることが多くなります。学年の中には必ず女性の先生は配置されます。

 

—-5、6年生を担当する男性の先生は、生理など女の子の体の変化にどのように対応しているのでしょうか。

養護教諭に丸投げしてしまうことが多いかと…。私自身、学生時代にも教員を始めてからも生理について学んだ経験がないため、何をどう教えたらよいか分からず、相談されても「女性の先生に聞いてみて」と答えてしまいそうです…。

 

—-性教育について、タブー視した指導があると感じたことはありますか

ない、というか、そういった話をあまりしないです。性教育については、小学校では発達段階がそこまで進んでいないため、もちろん5、6年生では対応が必要な場面もありますが、中学や高校の先生の方がより深く取り組むことが多いように思います。これについては、中学や高校の先生はまったく違う意見を持っていると思いますが…。ジェンダーという点で、以前は「小学校は女性の職場」というイメージが強かったようですが、最近では男性の先生も増え、男女比が半々に近づいています。

 

——性自認の気づきは、小学校高学年から中学生頃(平均年齢14歳)という報告があります(※5)。生きづらさや孤立感が自殺リスクを高める要因となるため、小学校低学年から性の多様性について教える必要性が認識されています。この点について、どう思われますか?

重要ですね、伝えるべきだと思います。4年生を担当したときは、性の多様性について授業で扱い、日常の様々な場面でも繰り返し伝えるようにしていました。先生の中には「男と女、最近はそうじゃないのもいるみたいだけど」と表現をする方もいるので、取り組み方には個人差があると思います。1番の問題は教員自身の意識じゃないかと。教員の多くが体系的な性教育を受けた経験がないですから。性教育に関して専門的な話を聞く機会はなく、研修もありません。

教員が体系的な性教育を受けて、その知識を普段の生活の中で子どもに伝えていくのが一番効果的ですよね。本当は小学校1年生から体系的に進めるべきだと思います。自分自身も知識が不足していると感じますし、他校の取り組みについても分からないのが現状です。

 

※5 出典:日高 庸晴(宝塚大学看護学部 教授)/ライフネット生命保険株式会社:第 2 回 LGBT 当事者の意識調査~世の中の変化と、当事者の生きづらさ~(2019年)(LGBT 当事者約 1 万名を対象に実施 )

参考:渡辺 大輔.特集 2:ジェンダー・ダイバーシティと教育「性の多様性」をめぐる教育・学習と 性的マイノリティ支援のあり方.日本教育政策学会年報 第24号 2017年

 

完全ではないから、一緒に考えてくれる人を増やす

shutterstock.com

—–性の多様性について、学習指導要領に明記されていませんが、社会の変化に応じて教員ごとに取り組みが広がっているのでしょうか。

そうですね。学習指導要領は最低限指導すべきことを記載したもので、現状に合わせて内容を広げて教えることは問題ないとされています。

教員は、80年前に国の方針に従い、子どもたちを戦場に送りだした結果、多くの犠牲者を出しました。その反省に立って考えると、学習指導要領(国の指針)自体に問題があるのではないかという視点は常に持つ必要があると思います。とはいえ、心の中で思うだけですが…。学習指導要領があるおかげで一定の教育水準が保たれているのも確かですし、公立の教員という立場上言ってもいいことはありませんから…。

2003年の都立七生養護学校事件をはじめとする性教育バッシングとか、実際、ああいうことがあるので、学習指導要領から外れたことをするのは怖いと思います。それが嫌な人は自由度が高い私立学校に行くでしょう。

※注釈)東京都立七生養護学校(現・東京都立七生特別支援学校)で、知的障害児に対して行われていた性教育内容について、都議会議員らから不適切と非難を受け、東京都教育委員会が当時の校長及び教職員に対し厳重注意処分を行った事件。訴訟に発展し、裁判所は都議らの一部行為を「不当な支配」とし、教員の名誉感情を違法に侵害したと判断。この事件は、障害のある子どもへの性教育の在り方や教育への政治的介入を巡り、多くの議論を引き起こしました。

 

—–世界の性教育は、「科学的根拠と人権」を基盤とした包括的性教育へと進んでいますが、日本ではその取り組みが遅れていると指摘されていますよね。

性交に関する内容を扱えないなどの「はどめ規定」が指摘されているようですが、学習指導要領は10年ごとに改定されるので、そのタイミングで変更を提案し、指導内容を変えることが必要です。学習指導要領の変更には政治的な力が必要なので、保守的な政治が変わらない限り、変化は難しいでしょう。安倍晋三元首相は教育基本法(1947制定)を初めて全面改正し、愛国心の育成や道徳の教科化を導入しました。人権は本来、権利の話で、道徳とは異なります。でも、実際には人権も「思いやり」や「優しさ」といった道徳的な話と一緒になってしまうことが多いです。人権は、抽象的な話ではなく、歴史的な闘争と血を流して獲得したものであることを私たちは忘れてはいけないと思います。

 

◆おわりに

Aさんのお話から、なぜ学校における性教育に地域差や学校ごとの差があるのか、その一端を知ることができました。自己決定や他者との関係を築く基盤となる包括的性教育は、子どもだけでなく大人こそ知ってほしい内容であり、これからその重要性はますます高まっていくと感じます。

これまで、学習指導要領に基づく「性に関する指導」と「性教育」を同義として話していましたが、「指導」と「教育」という言葉が持つ意味の違いに気づかされました。私たち大人一人ひとりが知識をもち、教育機関に加え家庭や外部講師などと連携することで、指導と教育が互いに補い合う関係を築けるのではないでしょうか。

 

 

 

 

≪ライター 神田未和さんの他の記事をチェック!≫

 

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