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「元カレ」との関係を断ち切れない既婚女性が抱える欲【不倫の精算 8】

OTONA SALONE / 2018年1月13日 18時30分

「元カレ」との関係を断ち切れない既婚女性が抱える欲【不倫の精算 8】

恋人が家族と幸福に過ごす時間をひたすら耐え、連絡を待ち続ける「不倫女性」。
どうして彼女たちは妻ある男を愛してしまったのか。
彼女たちは、幸福なのか。不幸なのか。

恋愛心理をただひたすら傾聴し続けたひろたかおりが迫る、「道ならぬ恋」の背景。

【不倫の精算 8】/これまでの記事はこちら

結婚生活より付き合いの長い「彼氏」

 

–「また彼とケンカしちゃって……」

Hさん(40歳)は、そう言うと肩をすくめて見せた。

あたたかいコーヒーの入った紙コップを取り上げたとき、左手にはまった結婚指輪が指に食い込んでいて少し窮屈そうなことに気がつく。「むくんでるね」と言うと、

「夕方はダメね、いつもこうなるの」

痛くて困ると言いながら、Hさんは指輪を外すとテーブルに置いた。白く跡の残る細い指は、彼女が既婚者となって長いことを無言で伝えてくる。

Hさんは医療事務の仕事をしている。結婚して8年になる夫と、子どもがふたり。息子たちが小学校にあがってから外で働くようになった。

そして、結婚生活より長い付き合いになるのが、独身の「彼」だった。正確には元カレだが、それを指摘すると「付き合い方が変わっただけで、私にとっては今も彼氏よ」と笑いながら言われたことがある。

今日は、その「彼氏」との約束の日だった。「ケンカするといつも次の約束とか平気ですっぽかす人だから、ひとりで待つのがつらくて」という理由で呼び出されたとき、何とも都合よく扱われたものだと思ったが、本当は不安でひとりで過ごしたくないのだろうことは、わかっていた。

ケンカの原因は、Hさんが彼に「もっと会いたい」と不満をぶつけたことだった。

「いつものことだね」と呆れながら言うと、

「だって、私から言わないと会えないのよ? たまには誘ってくれてもいいじゃない」

と返すHさんの言葉もまた、これまで何度も耳にしてきたものだった。

 

「結婚相手には無理」だった元カレ

 

 

Hさんと「彼氏」は、Hさんが結婚する前に付き合っていた過去がある。

彼は、いわゆる「非モテ系」の自分に自信がないタイプ。交際経験も女性経験もほとんどなく、Hさんが初めてまともに付き合う女性だったが、そんな「手垢のついていない」ところがHさんは好きだったという。

「自分の好きなように育てていけると思ったの」

と以前話してくれたが、結末はそうならなかった。

女性の扱いに慣れていないのは構わなかったが、問題は彼が素直に気持ちを伝えてくれないこと。付き合っている間、「好きだ」と言われたことはなく、Hさんから連絡しなければデートの誘いもない。会えばキスもしてベッドも共にするが、恋心を共有するような熱い時間はなかった。

それに加えて、当時の彼は派遣社員で収入が低く、貯金もないことがHさんの愛情にブレーキをかけた。

「好きだったけど、結婚はねぇ、ちょっと無理かなって。親に紹介しても絶対反対されると思ったし」

30才までに結婚したかったHさんは、結局彼と別れることを選んだ。次に出会ったのが今の夫であり、収入も性格も問題なかったのでそのままストレートに結婚した。

「元カレ」となった彼とはそれ以降会うことはなかったが、結婚して一年後、Hさんのほうから連絡することになる。

「会いたくなっちゃって。嫌いで別れたわけじゃなかったから……」

当時のことを話すとき、Hさんはわずかにうろたえる。

彼女が連絡したとき、彼のほうはまだ独身で付き合っている女性もいなかった。それもHさんの想像通りであり、誘えば断られないだろう、という確信があった。

でもそれは、明らかな夫への裏切り。自分から別れを切り出した相手に、結婚してからまた関係を持ちかけることのずるさや後ろめたさ、そして夫へ抱く罪悪感は、今でもHさんの中にしこりとして残っている。

それでも、彼が欲しいという気持ちは治まらなかった。

案の定、「元カレ」となった彼はHさんと会うことを拒まなかった。最初はもちろん既婚者となったHさんへの遠慮は見せたが、結局ホテルへ行くのは時間の問題で、それもHさんから誘った。

それ以来ずっと不倫の関係が続いている。彼は今でも独身で、仕事も派遣社員のまま。彼女を作ることもせず、Hさんは唯一つながりのある女性だ。

 

満たされないから追いかけたいという欲

 

「今の関係で満足してるの?」

と尋ねるたび、Hさんは「だって、仕方ないじゃない」と繰り返す。

離婚する気はまったくないし、今の生活を手放してまで彼を手に入れたいわけじゃない。

「あの人も、私に離婚させてまで付き合いたい気持ちはないよ。この年で派遣だよ? 私と子どもとどう考えても養っていけないじゃん」

これが彼女の実感であり、「お互い都合のいい存在でいいんだってば」と言い切れるのは、彼の内面の弱さ、自分と同じ卑怯なところを十分に理解しているからだった。

それなら、なぜ結婚してからも彼を求めたのか。

Hさんは、ちらりと腕時計に目をやった。約束の時間はとっくに過ぎている。彼は現れない。

「あーもう、面倒くさ。またこっちからか……」

紙コップに残ったコーヒーを一気にあおり、大きくため息をついた。

バッグを漁り、車のキーを取り出すとテーブルに置く。あぁ、やっぱり行くんだな。そう思ったが、口にはしなかった。

不倫の関係になってからも、彼は変わらなかった。相変わらず彼女に愛情を伝えることはしないし、彼から連絡が来ることもない。それは自信のなさからかもしれないが、それでもHさんは彼を追いかける。

付き合っていた頃と同じように、彼女は今も満たしてもらえない。それが、Hさんの情熱を駆り立てる。

夫への罪悪感は今でも続いている。それは彼女が普段から家庭に尽くしている姿を見るとよくわかる。それでも満足できない。Hさんが彼へ向ける気持ちは、夫が与えてくれない不足感を補うもののようにも思えた。

彼を忘れられなかった理由は、この欲だと、Hさんを見ていると思う。満たしてくれないから追いかけたい。自分以外の女性が寄っていかないことも、彼女の独占欲を煽る。

「今日はありがとう。じゃあ、行ってくる」

Hさんは当然のように「行ってくる」と口にする。それに応える言葉が出てこない。

 

 

結婚しても、以前付き合っていた男性を忘れられない女性は多いだろう。

だが、満たされた結婚生活を送りながらも元カレと関係を持とうとするとき、そこには明らかに家庭では得られない何かがある。

Hさんの場合、それは自分を駆り立てる情熱だった。追いかけたい、と思うのは、付き合っていた頃も満たされなかったから。彼女が抱えている「愛されたい」という本当の欲は、いつ満足するのだろうか。

情熱が終わるとき、彼女はどうするのだろうか。

 

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