セックスに溺れる女性の背景にある心理とは?【40代、50代の性のリアル】#10
OTONA SALONE / 2019年1月26日 21時0分
この人に必要とされている–そう感じてはじまった不倫の恋がハルカさん(46歳)に残したものは、苦い思い出のほかにもうひとつあった。それは、セックスに対する強烈な好奇心。20代のころは快感を知らないままにゆきずりのセックスをくり返し、夫とは一児をもうけたもののその後セックスレス。不倫相手とのセックスで初めて快感を知った。38歳のときだった。
セックスには中毒性がある、とハルカさんはいう。一度気持ちよくなったら、何度でも気持ちよくなりたい。さらなる刺激を、無意識のうちに求めてしまう。
最高のメソッドを求め、セックスセラピストに会いに行く
その日、ハルカさんは東京行きの特急電車に揺られていた。旅の目的は、有名なセックスセラピストとセックスをすること。
その男性は独自のセックスメソッドを編み出し、著書はベストセラーを記録した。当時は悩める男女にそのメソッドを伝えるためのスクールを開校していた。ハルカさんがそこでモニターを募っていると知りエントリーしたところ、当選の連絡があった。
「私は40代になっても一度もイッたことがなかったんです。不倫していたときそれに近い感覚はあったので、もっと知りたい、気持ちよさの頂点を知りたいという衝動にかられました。モニターとしてセラピストの先生の事務所を訪れ、まずはこれまでの男性遍歴を聞かれました。その後、同じフロアにある一室に案内されたのですが、そこだけ大きなベッドが置かれていてシャワールームもあって、まるでホテルみたいでした」
でも、拭えなかった違和感と、たどり着いた結論
著書も読んだうえでその日を迎えたハルカさんにとって、テクニック自体は納得がいくものだった。女性の身体をていねいに扱うことを謳う人物だけに、これまでにない快感があった。けれど……。
「独自のテクニックで刺激されたとき、すごく痛かったんです。それを伝えたら彼は納得がいかないように首をかしげ、『それはあなたが精神的な問題を抱えているからじゃないの』といわれたんです。びっくりしましたね。こういうときは我慢してやりすごしたほうがよかったのかなと思いました」
期待を上回る体験ではなかったようだ。ハルカさんはその後、セラピストとさらに二度セックスをする。
「回を重ねるごとに私への扱いが雑になっていきました。三度目のときなんて、行為の途中に電話が鳴ったんですが、彼はそれに出て話しはじめたんです。あ、私、すごく軽く見られているんだなぁと気づきました。自分から望んで飛び込んだ世界ですが、セックスはやっぱり好きな人としたいなぁという結論に至りました」
セックスは好きなはずだけれど、楽しんでいない。その原体験は
ハルカさんの性行動はときに驚くほど大胆だ。雑誌でヌードモデルを務めたこともある。憧れの写真家の被写体になる機会を得て、上京した。スタジオで衣服を脱ぐ段階になってはじめて、ヌードモデルは前日から下着をつけないのだと知った。跡が肌に残るからだ。ハルカさんの身体にはくっきりと跡が残っていて、しかしその写真家はそれがかえって生々しいと大喜びだった。
扇情的な内容も多いけれど、それらを話すときのハルカさんの表情には屈託のようなものが頻繁に顔をよぎる。セックスを心から楽しんでいるわけではないのではないか。罪悪感のようなものを抱いているのではないか。
ハルカさんには、思いあたる理由があった。
「中学生のとき、同級生の男子から性的暴行を受けました。美術部に入っていたんですが、ある日、部活が終わっあとの片づけ当番が私と彼で、そのときに押し倒されました。最初からそのつもりで計画を立てていたんだと思います。でも不思議なことに私、その男子のことをずっと忘れていたんですよ。30歳ぐらいになって仕事で偶然再会したのですが、嫌な感じはしたけれどそれが誰か思い出せなくて。『私のこと知ってます?』と聞いたら、知らないといわれました」
記憶が蘇ったのはつい最近のこと。自身の娘が、被害を受けたときの自分と同い年になったのがきっかけだった。
「被害」という意識のないまま被害を受け続けてきた
長いこと記憶を封印しているあいだも、被害の経験は確実にハルカさんの人生に影響していた。
親戚の男性から無理やり性的接触をされた。就職してからは数々のセクハラに遭った。なかでもひどいのは事務職をしていた20代前半、懇親会の席で上司が取引先の重役たちに対し「この子の胸を触ってもいいですよ」とハルカさんを紹介したのだという。信じがたいことに、実際に触ってきた男性がひとりいたそうだ。その職場では、重役から強引にホテルに連れ込まれたこともある。
ハルカさんはそんな体験を淡々と打ち明ける。セックスセラピストのモニターをやったんです、ヌードモデルで雑誌に載ったんですと話すのと変わらないトーンで。筆者が「つらい被害経験を話してくださってありがとうございます」と声をかけると、ハルカさんの目が丸くなった。
「これって、被害なんですかね?」
性加害者は弱者につけ込み、自己肯定感を下げていく
どこからどう聞いても被害であるにもかかわらず、ハルカさんにはその自覚がなかった。ただなぜ自分は自己肯定感が低いのかがずっと不思議だった。
性被害という自己の尊厳が奪われる体験によって、自己肯定感が下がる。セクハラや加害者は女性のそうした弱いところにつけ込んでくる。被害経験がある人がその後も何度も被害に遭うというのは、ひとつの典型だ。
「小さいころからヘンに色気のある子だといわれてきました。母子家庭で育ったのですが、母から『あんたは将来風俗で働いて、お母さんに楽をさせるのよ』とたびたびいわれてきたことも影響しているのでしょうか。気づけば、私ってエロいんだ、それしか魅力がないからこんな目に遭っても仕方ないんだと思うようになっていました。でも、ぜんぶ被害だったんですね」
10代のころから、自分が悪いのだと思い込んできたのだろう。ハルカさんには、たしかに色気がある。どこか掴みどころがなく、それが人を惹きつける。しかしそれは魅力でこそあれ、セクハラをしていい理由にはならない。原因はハルカさんにあるのではなく、加害者にある。
ゆきずりのセックスは自分の女性性の否定だった
40代になったいま、自己肯定感が低いままこれまでを生きてきたとハルカさんは理解している。その原因のひとつに性被害経験があることがわかった。セックスをすれば、そのときだけは肯定感が得られる。だからゆきずりの関係をくり返し、不倫にものめり込んだけど、楽になることはなかった。
「何が原因なのか自分でも何かわからなかった。被害に遭ったことを忘れていたからこれまで生きてこれたのかもしれません。一方で、常に感じていた抑圧の反動でセックスをしていたというのもあると思います。結婚前は、ずっと母から監視されていると感じていました。『こんな娘でいなきゃいけない』と強く思っていて、その窮屈さから逃げるために、ゆきずりのセックスをくり返しました」
「結婚後は、生活のなかで自分で自分を抑圧してきました。夫に稼ぎがないのだから私がなんとかしなきゃというので、いつも必死。でもうまく回らなくて、自己嫌悪に陥る毎日でした。あぁ誰かに寄りかかりたいなぁと思っていたところに現れたのが、不倫の彼だったんですね。つらい現実から目をそらすための手段だったのでしょう」
セックスは相手次第で変わるものだけれど、自分自身が変わればもっと変わる。
ハルカさんはこれまで抱えてきた鬱屈の原因を思い出したばかり。今後その事実をどう受け止め、どう向き合うかによってセックスライフや性に対する考えも変容していくのだろうか。機会があれば、またお話をうかがいたい。
【編集部より】
■40代、50代の性のリアル by 三浦ゆえ
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