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【凛九 伝統工芸を継ぐ女性たち】その一《伊勢根付》梶浦明日香さん 「今守れば残せるのに、この宝を失うのはもったいない」

OVO [オーヴォ] / 2021年10月10日 15時0分

梶浦明日香さん。

 日本には、伝統工芸と呼ばれる素晴らしい技術や技を用いた品々がたくさん存在する。世界からも称賛されるこれらの品々だが、後継者不足などさまざまな問題を抱えているのもまた事実。長い歴史の中で育まれてきた匠の技は消滅の危機すらあるという。そんな状況を打開すべく立ち上がったのは、9人の女性たち。「凛九」というグループを作り、凛とした姿で互いにリンク。根付、絞り染め、一刀彫、七宝、筆、型紙、組紐、和紙、漆というそれぞれの世界で伝統技法を受け継ぎつつ、新しい感性で職人の世界に旋風を巻き起こしている。そんな9人の熱い思いを九回の連載でお伝えする。初回は、「凛九」の代表を務める、伊勢根付職人の梶浦明日香さんにご登場願おう。


NHKアナウンサーから職人へと転身

 根付は、かつて巾着や財布、印籠(いんろう)などを帯から吊るして持ち歩くために使った小さな留め具。今風に言えばストラップにつけるアクセサリーといったところだ。伊勢根付は、お伊勢参りのお土産としても有名だった。専用の刀で彫る繊細な作業は、デザインによっては一つ一カ月がかりでも珍しくない。失敗作の期間も加算すれば半年以上というものもある。孤独な作業だ。


 筋力が必要だから、登山が趣味、という。細かい手作業の根付作りなのに?
 「秋になると2~3時間かけて朝熊山に根付の材料になるツゲの木を切りに行く。それをリュックに背負って帰ってくるんです」。そのために普段から体を鍛えておく。「だいたい20キロ。重いですよ」という。岩肌を登る姿は想像できない、しなやかな笑顔。藍色の作務衣姿で取材に応じてくれた梶浦さんは、滑舌のいい元NHKアナウンサーだ。番組で伝統工芸の職人を取材し魅力にはまってしまった。同時に後継者不足への危機感も持った。「今守れば残せるのに、この宝を失うのはもったいない」と自ら師匠に弟子入り、根付職人になった。元々コツコツタイプではなく、手先仕事が好きというわけでもなかったが、彫っている時間は「めい想に近い心地よさ。いろんなものから解放される貴重な時間です」という。


 取材対象が魅力的でも、転職してその世界に飛び込むのは次元の違う話では?
 「どんなに素晴らしいものでも、モノづくりが身近でない現代はそれを発信しないと伝わらない。でも昔の職人は自分から言うのは野暮、前に出ることをよしとしない風潮がある。私は発信する側の人間だったから、その私が当事者になれば何かが変わるかもしれない、と思ったんです」。


「自分も職人になりたいと思う人が出てくれれば」

 高度成長からバブルに至るまで、大量生産、大量消費を基盤にした価値観が席巻し、伝統工芸には人材が残らず、集まらなかった結果、担い手は減る一方。そんな中「男性の世界に入っていくという覚悟はあった。でも戸惑ったのは師匠の方だと思う」と振り返る。「ただ異質な分、男性たちより新しいことを始める自由もある」とポジティブだ。そして女性ばかりの職人グループ凛九の産みの親に。


 「同じ業種の組合はあって、その中での切磋琢磨(せっさたくま)はもちろんある。でも異業種の職人仲間として集まれたのは女性だからこそ。女性は集まってとりとめのない話をするのが好きだし、それで心が軽くなることもある」。緩いコミュニティーを作って発信していく挑戦、精神性は、子育てをしながら仕事をする職人仲間の支えにもなっている。従来の職人の世界は常に仕事優先だったが、自分の生活スタイルに合わせた自由な働き方をしたり、異業種の職人仲間のアイデアに刺激を受けたりもする。グループ名の「凛」の字は、そんな風に女性がこの世界で胸を張って頑張っていく姿にふさわしいと選んだ。

 製作の時間を最大限とりたいから、コロナ前からZoomなどウェブ会議を活用してきた。でもコロナで更に、ネット上で思いを伝えることの重要性が大きくなったと感じている。職人は作ることに専念しがちだが、「手作りの良さは、その裏にある思いを知らないと分からない。その機会を持たねばと、コロナで考えさせられた」という。



 ただ、発信に時間をとられ、技の精進を怠ることはしたくない。「師匠の歳になったら師匠と同じように作れる職人に成長したい」。そして凛九の職人たちを見て、「職人って格好いい、自分も職人になりたいと思う人が出てくれれば」というのが、これからの願いだ。


PROFILE

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梶浦明日香(かじうら・あすか)

 元NHK名古屋放送局・津放送局キャスター。 NHK時代に『東海の技」というコーナーを担当し、様々な職人を取材。伝統工芸の素晴らしさやそこに込められた思いに感銘を受けるとともに、このままでは多くの伝統工芸が後継者不足のため失われてしまうと危機感を感じ職人の世界へ。 根付の粋な遊び心、細かな彫りの美しさだけでなく、一生現役・一生成長という職人の生き方、仲間と助け合い自然とともに暮らす師匠の生き方に憧れを抱き、2010年、取材を通じて出会った中川忠峰氏に弟子入りし、根付職人となる。
 また次世代の若手職人の活動の幅を広げるべく、さまざまな伝統工芸を担う若手職人のグループ『凛九』や『常若』を結成。「DISCOVER THE ONE JAPANESE ART 2018 in LONDON」大賞受賞 等受賞多数。


「凛九」のメンバー。右端が梶浦さん。


帯に付いている状態の根付。


材料となるつげの木は、伊勢神宮の朝熊山に自ら採りに行く。


使用する彫刻刀。自作のものもある。


荒彫りをした後、彫刻刀で細かな彫り。ごく小さな見えないようなところまで彫っていく。


彫り上がった作品。


彫り上がった作品。


根付は、彫り上がった後の磨きも重要な作業。1カ月かけて彫ったものは1カ月かけて磨きなさいと言われるとか(写真の手は梶浦さんではありません)。磨いた後は、木の実を煮詰めた液で着色して完成する。

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